焚き火で焼き魚
日が高く昇る頃、一同は川辺を後にした。
網切りが誇らしげに抱えた魚は、結局七匹にまで増えていた。
垢嘗めが舌で追い込み、コロポックルが逃げ道を堰き止め、網切りが浅瀬で待ち構える作戦が思いのほか上手くいった成果だった。
「今日はご馳走だね!!」
洞穴へと戻る道すがら、メアリの足取りは行きよりも軽かった。
――
昼を少し過ぎた頃、焚き火を再び熾す。今度は一つ目小僧も慣れた様子で、手早く火花を散らした。
「上手になったね」
「ん!」
得意げな返事に思わず笑ってしまう。
網切りが器用なハサミで魚を捌いていく。慣れない手つきかと思いきや、とても様になっていた。
「網切りくん、何でもできるんだね」
シャキン、と嬉しそうな音が返ってくる。
猫又が串になりそうな枝を見繕い、コロポックルたちが、それを手伝って焚き火の周りに立てていく。
「あとは焼けるのをじっくりじっくりと待つばかりにございますな」
じりじりと皮目が焼ける音がし始める。香ばしい匂いが、洞穴の中に広がっていった。
「なめ……なめめ……」
垢嘗めが、匂いに釣られて、そわそわと落ち着かない様子で炎の周りをうろうろしている。
「垢嘗めくん、もうちょっとだよ」
一つ目小僧もじっと魚を見つめたまま微動だにしない。
――
やがてこんがりと焼き上がった魚が、皆の前に並べられた。
「いただきます」
メアリが両手を合わせる。
猫又も前足を揃えて小さく頭を下げた。
それを見て、一つ目小僧やコロポックルたちも手を合わせ始める。
「ぽっく!」
「なめめ〜!」
たどたどしい合唱に、メアリは思わず声を上げて笑ってしまった。
「じゃあ食べようか」
一口食べた魚は、ほんのりと塩気と甘みがあって、香ばしく驚くほど美味しかった。
「美味しい……!」
網切りが誇らしげにハサミを鳴らした。
コロポックルたちも小さな口いっぱいに頬張りながら、満足げに足をぱたぱたと動かしていた。
焚き火を囲んで、皆で食事をする。
たったそれだけのことが、メアリには途方もなく尊いものに思えた。
炎の温かさと、仲間たちの賑やかな声に包まれながら、メアリは静かにその幸せを噛みしめていた。
昼食を終えると、猫又が改めて皆を集めた。
「さて。腹も満ちたことでございますし、次は本格的な寝床と囲いの整備でございますな」
「そういえば、まだちゃんとした寝床って作ってなかったね」
「はい。今のままでは地に伏すも同然にございますゆえ」
猫又の指示のもと作業が再び動き出す。
コロポックルたちが乾いた葉や、柔らかな草を集めてきては洞穴の各自の寝床に敷き詰めていく。網切りと一つ目小僧は、一緒に木の枝を編むようにして、簡素な寝台の骨組みを作り始めた。枝と枝を絡ませ、思いのほかしっかりとした形になっていく。
「二人とも大工さんみたいだね」
一つ目小僧は照れくさそうに笑い、網切りからはシャキン、と誇らしげな音が返ってきた。
「柵はこちらでございますな」
猫又が示したのは洞穴の入口から、少し離れた木立の際だった。
垢嘗めと一つ目小僧が集めてきた木材を、網切りが先端を鋭くし、皆で地面に突き立てていく。
まだ不揃いで隙間も多いが、少しずつ囲いらしい形になっていった。
その作業の合間、一つ目小僧がふと手を止めた。
木立の陰に落ちていた、一本の枝を拾い上げている。ただの枝ではなく程よい太さとまっすぐな形をしていた。
「ん」
じーっと見つめたあと、拾ってきた石でその表面を削り始めた。
「一つ目小僧くん、何してるの?」
「ん」
削り続けながら自信満々に頷く。
しばらくすると、枝の先端が次第に鋭く尖っていくのが分かった。簡素だけれど先の尖った棍棒のような形になっていく。
「もしかして、武器を作ってるの?」
「ん!!」
得意げに削り上げたそれを掲げてみせる。
「主守る!」
普段の「黙っていーよー」しか言わなかった一つ目小僧が、はっきりとそう口にしたことにメアリは驚いた。
「……そっか。一つ目小僧くんも頑張りたいんだね。でも危ない時は逃げるんだよ」
「ん」
その姿を見て、垢嘗めや網切りも、それぞれ手近な道具を物色し始める。
「なめ、なめ」
垢嘗めは、これといった得物が見つからないのか、しょんぼりと肩を落としていた。
「垢嘗めくんは、垢嘗めくんのやり方で大丈夫だよ。ベロがとっても器用だしね」
メアリがそう言うと、垢嘗めは少しだけ元気を取り戻したように舌をぴろぴろと動かした。
――
日が傾き始める頃には、ひとまず一周分の柵が形になっていた。まだ隙間だらけで頼りない見た目だったけれど、無いよりはずっとましだった。
寝床も各自の場所にそれぞれの好みに合わせて整えられている。
一つ目小僧は、削り上げた棍棒を大事そうに寝床の傍に立てかけた。
コロポックルたちが、興味津々に、その棍棒を取り囲んだ。
「ぽっく!ぽっく!」
一つ目小僧の少し得意げな横顔を、メアリは静かに見つめていた。
――
作業を終える頃には、辺りは藍色に染まり始めていた。
「明日は柵の続きと……畑ももう少し広げたいね」
メアリが呟くと、猫又が静かに頷いた。
「一つずつ進めて参りましょう」
やることはまだまだたくさんある。




