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その宴会は夜更けまで続いて、王宮に戻れたのは満月が高く昇ってからだった。
満月。そう、公開処刑の日から一か月がたったのだ。
王と王妃の寝室につけられたテラスで、私とシドは並んで夜風を浴びていた。もうへとへとで、お酒もあって今すぐ布団に飛び込みたい。でも頭は奇妙に冴えている。
王宮前広場の喧噪が、海の中にたゆたうみたいに遠くも近くも見えた。
「ねえシド?」
「何だ?」
「ところでもう敬語やめたの?」
「……だ、だって俺は、俺は……あー、あなたの旦那様、じゃないですか。変でしょ。家族なのに敬語使うのって」
「あはは、そうね」
シドの耳が赤いのはお酒のせいかこの会話のせいか。
「シド、これからもシドって呼んでいい?」
「もちろん。今のところルクサリスよりこっちの名前の方がしっくりくるし」
「わあ。将来子供たちになんでパパのことシドっていうの? って聞かれちゃうねえ」
シドは吹き出した。私は手を叩いて喜ぶ。
「からかうのやめろよ……」
「うふふふふ」
私たちは見つめ合い、自然と手が触れ合ってキスをした。温かい。彼の匂いがする。
生きてる。
「生きててよかった……」
悪役令嬢をやらされそうになっても、追放されても、生きててよかった。
シドが来るまで待っててよかった。
うん、とシドは頷いた。
「俺、母が亡くなったとき棺の傍を一か月離れなかったらしいんだ。たぶん一緒にいきたかったんだと思う」
「そっか」
「黒鷲砦のみんなが世話してくれて、今がある。ミストリオス公爵が役割を与えてくれたから、ヴィオレッタ、君を守れた」
「うん。これからも守って」
「守るよ」
シドは生真面目に頷く。紫色の目がチカチカと、それそのものが星みたいにきらめいている。
「ずっと一緒だ。君も、将来の子供たちも絶対守る。悲しい思いはさせない。まだ子供が小さいうちに死ぬこともしない」
「そうね。――シドが守ってくれるなら、きっと大丈夫。お返しに、私はあなたの心を守ってあげるね」
「うん」
私たちは手をつなぐ。王宮前広場の喧噪に背を向け、二人で部屋の中へ戻っていく。
――こうして悪役令嬢にならなかった私は、愛する人と一緒に王国をひっくり返した。
それから先の話は、また別のお話。
【完】




