第八十三話 この時間を楽しみたい
彬の家に着くと、
彬はあらかじめ用意していた皿に、
出来合いのお惣菜やおつまみを手際よく並べていった。
「私も手伝うよ!」
「手伝うようなこと、そんなにないから。」
彬は笑いながら、料理を並べていく。
「未来は、とりあえずゆっくりして待ってて。」
「うん。」
未来はソファに座り、
彬の手元を眺めていた。
けれど。
さっきの映画のチケットが、頭から離れない。
(真二先輩と……クリスマスイブに映画を見に行くつもりだったのかな。)
(彬は……私と真二先輩の関係を、どう思ってたんだろ。)
断片的に蘇った記憶を思い返しているうちに、
未来はいつの間にか俯いていた。
その時。
「未来?」
気がつくと、
目の前に彬が立っていた。
「……え?」
「疲れたのか?」
彬は心配そうに、未来の顔を覗き込む。
「どうかしたか?」
「……ごめん、ごめん!」
未来は慌てて顔を上げた。
「ちょっとボーッとしちゃってたね。」
そして、テーブルに並んだ料理を見て笑う。
「すごく美味しそう!」
「……だろ?」
彬も笑う。
「未来が好きそうなもの考えて買ってきたから。」
「今日は、いっぱい食べよう。」
「うん!」
未来は嬉しそうに頷いた。
けれど――
ふと、何かを思い出したように彬を見る。
「ねぇ、彬。」
「ん?」
「話って……何?」
「……。」
彬の手が、一瞬止まった。
「やっぱり……この二年間のことだよね?」
「あぁ……。」
「先に教えて!」
未来は少し身を乗り出す。
「良いこと? 悪いこと?」
「んー……。」
彬は困ったように笑った。
「難しいな。」
そして、少しだけ視線を落とす。
「でも……やっぱり、悪いことかな。」
「え……?」
未来の表情が変わる。
「教えて、彬。」
「この二年間のことも……もっと知りたいよ。」
「私が忘れてしまったことなら、ちゃんと知っておきたい。」
彬は、そんな未来を黙って見つめる。
(……そうだよな。)
(お前には、知る権利がある。)
「……分かった。」
彬は小さく息を吐いた。
けれど――
「その前に。」
「先に食べてからにしないか?」
「えー?」
未来は少し不満そうに頬を膨らませる。
「なんで?」
「せっかく買ってきたんだ。」
「冷めたらもったいないだろ?」
「……それだけ?」
「あぁ。」
彬は笑った。
けれど、その笑顔の奥には。
これから未来にすべてを話す覚悟と、
それを恐れる気持ちが入り混じっていた。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
「先に食べてから」は、
彬が最後の時間を
少しでも普通に過ごしたい気持ちにも見えて、
切ないですね。




