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中林さんの天球儀  作者: すたりむ
第2章:魔術解析編
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1-4.美女あるところにリシラあり

 ……とまあ、そんななごやかなボルカ会も終わり。


「そういうわけで、一筆書いてもらってきたよ」

「そっか。ソーヤも、もうだいぶ長いものね」


 キリィはうなずいて、それから首をかしげた。


「それで、ナイエリはなんで帰ってきたとき怒ってたの?」

「俺が知りたい」


 あいつ、無言でずーっと俺とシグの対局を見ていたと思ったら、帰りには据わった目で『悪魔め……どうにかしないと……』とかつぶやいてたんだよな……

 そして帰ってくるなりどっかに行ってしまった。なんだったんだろう、あれは。


「もしかして、俺がシグに勝ったのが気に入らなかったのか?」

「あるかも。あの子、シグを師匠として尊敬してるからね」

「だとしても、勝負は勝負だしなあ。それに、シグも最近は少し強くなってきてるんだけどな」


 待ったは聞いてやっているとはいえ、一応勝負の形式になってきてはいる。

 ただ、中盤の読みが甘すぎるのが問題なんだけど……一撃で総崩れになるような手を簡単に打っちゃうんだよな。それがいただけない。


「さて、じゃあ神殿に行って……」

「うがああああっ! 追ってくるな、変態!」

「なんだ!?」


 俺が振り向くと、そこには。


「待ってよナイエリちゃん、遊ぼうよー!」

「やめろ死ね追ってくるな男女! あ、あたしはおまえが苦手なのだ!」


 楽しそうに追いかけてくるリシラから必死で逃げるナイエリがいた。

 とりあえずナイエリをとっ捕まえる。


「こら」

「あうっ!? な、なにするのだソーヤ!」

「廊下を走るな。あと痴漢に遭ったなら俺を呼べ。対処してやるから」

「失礼だなー。僕が無条件で悪いみたいな言い方はやめてよー」


 文句を言いながら、リシラがやってきた。


「おまえ中林の手伝いに来たんだろ。こんなところで遊んでるなよ」

「いいんだよ。ナカバヤシだっていま一息ついてるところだったし。それにナイエリちゃんがいてキリィちゃんがいるなら美女密度はこっちが上だし」

「おまえ美女密度でいる場所決めてるの?」

「ふっ。美女あるところにリシラあり……さ!」

「かっこよさげに言ってるけど、内容はクソしょうもないよな」


 俺がジト目で言うと、キリィがくすくすと笑った。どうやらキリィにとっては、リシラは苦手の範疇には入らないらしい。

 一方で警戒心もあらわにふしゃーと威嚇しているのがナイエリだ。こいつはリシラを何度もボコっているはずなのだが、それにもかかわらず力関係はリシラが上のようだ。

 と。


「なによ、リシラが出て行ったと思ったら、こんなところに全員集まってるの?」

「中林まで来たのか。まあ、ちょうどいいから相談しよう」

「相談?」


 首をかしげる中林に、俺は経緯を説明した。


「ってわけで、パーティの主力はおまえってことになりそうなんだけど。いけそう?」

「うーん……けっこう難しいわね」


 渋い顔で、中林は言った。


「いつごろかによるけど、前のスケジュールの話からするとなるべく早くパーティ開いたほうがいい感じよね」

「シグとも相談したんだけど、二週間後を目処にした方がいいって話だった」


 なにしろ、本命は『その後』なのである。立派なパーティを開くことでバルチミ家がまともな貴族に復帰したと知らしめ、その後にべつの貴族のパーティにキリィが参加して、情報収集をする。これを、夏までにやらないといけない。

 スケジュールを逆算すると、二週間後にはパーティを開いていないとまずい。それが、俺たちの結論だった。


「それはきっついわね……一応、望遠鏡はファグニ工房で引き続き作ってもらってるけど、それ以外は……」

「やっぱ、電力が問題か?」

「いや、そっちは解決できるわ。いま電池を作っててね」

「電池?」


 中林はうなずいた。


「ダニエル電池って奴。なんとか手に入った材料でできそうなのよ」

「そっか。じゃあ自転車をおやっさんが必死でこぐ必要はもうないんだな……」

「たぶんね。ただ、扇風機と白熱灯はちょっときついわね。安全対策ができてないし」

「そうすると、鉄道模型と時計か?」

「そうね。後は静電気関係の展示物なら簡単なのはすぐ作れるけど、そのくらいかしらね」

「おやっさんからの協力は得られるかな?」

「正式に報酬を払えばいけるでしょ。最近は工房の名声が上がって客が増えたらしいけど、それでもリシラをこっちに派遣する程度の余裕はあるみたいだし」

「なるほど……」


 考えていると、キリィがくいくい、と俺の袖をひっぱった。


「どうした?」

「いや、神殿、あんまり長くやってないから。市民権取るなら早く行った方がいいと思う」

「あ、そうなのか」


 そういえば、確かに夕方になる前には窓口が閉まっていた気がする。


「宗谷、外に出るの?」

「ああ。神殿に行ってくる」

「じゃあ私も行くわ。正直、ちょっと煮詰まっててね。気分転換がしたい」

「今日の買い出し当番、誰だっけ?」

「ナイエリだったはずだけど」


 中林の言葉に、俺はあたりを見回し……ナイエリとリシラが、その場から消えていることに気がついた。


「あいつら、どこに行ったんだ?」

「なんか、ソーヤとナカバヤシが話し込んでいる間に追いかけっこしていなくなったよ」

「あいつらは、また……仕方ない、買い出しも俺たちがしてこよう。キリィはナイエリに伝えといてくれ」

「うん。わかった。行ってらっしゃい」


 キリィの言葉を背に、俺たちは家を出て行った。

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