表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中林さんの天球儀  作者: すたりむ
第2章:魔術解析編
39/70

1-3.かかったなあほめ

「パーティ? ああ、なるほど。それは確かに必要じゃろうな」


 シオ・ボナペド。

 ナイエリの祖父であり、かつてバルチミ家の使用人であったそのじいさんは、笑顔で俺たちを出迎えてくれた。

 最初に会ったときにはいろいろあったが、ここ数週間でだいぶ打ち解けることができたようだ。おかげで最近はいくつか相談に乗ってもらっている。


「しかし、今回わしはあまり期待に応えられんぞ?」

「え? なんでなのだ?」


 ナイエリはハテナ顔。


「いや、ほれ。前にあったじゃろう。わしがいろいろ画策して、バルチミ家の負債をうやむやにしようとした案件。あれが使用人筋にバレてしまってのう」

「…………」

「おかげで、いまのわしは使用人たちのコミュニティからハブられておる。必要最低限の連絡はできるが、有志を募って一時的に戻ってもらう、とかはまず無理じゃな」

「マジかー……」


 俺はうめいた。一番期待していた人材確保手段が、ここで潰えてしまった。


「まあ、わし自身がヘルプに入ることはできるが、それだと人手が一人増えるだけじゃ。それと、新しい使用人を雇うのも、しばらくは無理じゃな」

「え、そっちはなんで?」

「なにぶん、バルチミ家の新しい使用人頭の噂が目立ちすぎておってな。かの武聖シグ・ナズムを素手でたたきのめしただの、日食に乗じて数日で巨万の富を稼ぎ上げただの、神殿の査察官を舌先三寸で籠絡しただの、結婚詐欺師をその身でたたき伏せて引っ捕らえただの……よい噂も悪い噂も、ひっきりなしじゃ。あることないこと騒がれすぎていて、まともな使用人ならしばらく応募を控えるじゃろう」

「…………」


 いつの間に。ていうか、全部ひどい誇張では?


「し、シグ師範をたたきのめしたのか!? こいつが!?」

「いや、それは前に説明しただろ、ナイエリ。それにたたきのめしたは大げさっていうか……」

「まあ、そのへんの真偽はどうでもいいのじゃ。噂の真偽なんぞ、誰も気にしとらんじゃろうからな。問題なのは噂になっていること、それ自体じゃ。

 なので、しばらくソーヤ殿は目立った活動を控えるべきじゃろうな。でないと、もっとひどいことになりかねんぞ?」

「ぜ、善処します……」


 俺はうなだれた。

 シオじいさんはうなずいてから、


「それに、問題となるのは人手だけではないぞい」


 と、言った。


「え、というと?」

「ソーヤ殿は、エリアムにおける貴族のパーティをどういう場だと思っておられるかな?」

「え? ええと、キリィ曰く、情報収集の場だって……」

「そう。噂に聞く『太陽の国』には「ますこみ」なる情報伝達屋がおったらしいが、エリアムにはおらん。故に、噂話こそが情報収集の唯一の方法であり、その貴族たちの社交の場であるパーティは、噂話の一大交換場であるわけじゃな」


 シオじいさんはうなずいて、そして付け加えた。


「そして、そうである以上、パーティの主催者には当然、()()()()()()()()を提供して場を暖める義務があるのじゃ。これができないと、パーティを開いてもかえって信用を失いかねんぞ?」

「うわ、マジか!」


 それは想定していなかった。

 しかし特ダネ、特ダネかあ……


「どういうのならいいんだろう?」

「まあ、一番無難なのは、人を呼ぶことじゃな。売り出し中の詩人や芸人、腕のいい医者などを呼んで、お披露目するのじゃ。そのあたりの心当たりがあればどうにかなるのじゃが……」

「うーん、さすがにいないな……」


 半年以上前なら面白い芸ができる知り合いが一人いたのだが、いまはどこにいるとも知れない。


「ま、であれば、シグ様に相談するのがよかろうよ」

「シグに?」

「うむ。彼自身はすでに高名な身じゃが、彼の人脈に売り出せる相手がいるかもしれん。まずはその確保からじゃな」

「なるほど、わかった。よし、じゃあナイエリ、シグの家に行くぞ!」

「お、おう!」


 目を白黒させつつうなずくナイエリを連れ、俺はシグの道場に向かった。



--------------------



「人脈? おまえ、なにを悠長なことを言っているんだ」


 ぱちり、とボルカ盤に駒を打ちながら、シグは呆れたように言った。

 俺は、ふむ、と少し考えつつ、


「悠長って?」

「すでに市井にまで広がっているぞ。バルチミ家が、夢のような最先端技術を持つ工房を抱えているという噂が」

「…………。

 え、まさか中林?」

「それしかないだろう。ラザメフ査察官が、まわりに吹聴して回っているのを確認している。

 貴族たちも当然、そのくらいの情報は仕入れている。ここでバルチミ家が他のどうでもいい詩人なんぞ紹介してみろ。石が飛んでくるぞ」

「マジかよ!」


 中林がラザメフ査察官にプレゼンテーションしたのは、単に疑いを晴らすためだったのだが……やり過ぎだったということか。

 しかしこうなると、困ったことになるぞ……


「中林の研究、あれからまだあんまり進んでないんだけど。どうしよう?」

「そこはナカバヤシ自身に相談するしかあるまい。どちらにしろ選択肢はない。自力でパーティを開くというなら、ナカバヤシの研究の展示は必要不可欠だと考えるべきだ」

「そうか……難しいなあ」


 俺は言いながら、ぱちりと駒を打った。

 シグは考えながら、


「それとソーヤよ、ちゃんと手続きは済ませているか?」

「え? 手続き? なにをだよ」

「だから、市民権獲得の手続きだ。おまえが元々バルチミ家に仕えることになった理由を、忘れたわけではあるまい?」

「うえええ、そうだった!」


 もうバルチミ家に仕えてから一月以上は余裕で経過している。市民権はとっくにもらえているはずだ。


「どんな手続きを踏めばいいんだ?」

「俺が一筆したためたものを神殿に持って行くとよい」

「それだけでいいの?」

「本来ならば使用人頭がキリアニム様の代筆をするのだが、おまえがおまえ自身の書類を書くわけにもいくまい。バルチミ家と懇意にしていた俺ならば、その点は問題なかろう。

 ただし、キリアニム様に了解を取っておくようにな」

「はいはい。なるほど、そういうシステムなんだな……」


 俺の目の前で、シグが駒をぱちりと進めた。

 俺はまた考えながら、


「やること多いなあ。頭が混乱する……」

「まあ、シオ翁が味方になってくださる以上、ある程度仕事を割り振ることだな。バルチミ家を古くから知っている方だ。多少の無茶は聞いてくれるだろう」

「そうだな。後は、やっぱり人手の確保かあ……他の貴族から借りるしかないかな」


 言いながら俺は駒をひとつ進める。

 とたん、シグが得意げな顔で駒をぱちりと打った。


「かかったなあほめ! それは罠だ!」

「…………」

「ほら、どうしたどうしたソーヤよ! 初めて貴様をボルカでやりこめることができて俺は大変気分が――」

「いや、そこ指すと俺、こうするんだけど。いいの?」

「ぬうっ!?」


 俺の動かした駒を見てシグは目を剥いた。


「おまえの打ったのはたしかに両取りだけど、この駒動かすともう両取りじゃなくなるんだよ。そしてこれは王手だから受けなきゃいけないんだけど、そうするといま打った駒が死んでて……」

「ぬぐっ、ま、待った!」

「あいあい。今日これで五度目な」


 俺は苦笑しながら駒を戻した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ