芋男爵
香奈に蟻を封じ込める為に蟻塚を封鎖してから5日が経過した。
香奈の土魔法の威力は凄まじく、地面を鋼鉄並みに硬く均してしまった。
本日は蟻を蟻塚ごと潰す日だ。
「地下の様子はどうだ?」
「……気持ち悪い。おぞましいほどいる」
香奈の顔色が真っ青になっていた。
大量の蠢く虫を見てしまった時と一緒だな。
感覚的に分かってしまうからスキルの方が面倒かもしれない。
「デュラハン。今日は頼むぞ」
「……えぇ」
最近、デュラハンの様子がおかしい。
原因は分かっている。
緑紅を香奈に合成したことだ。
それから彼女は魂が抜けたかのように意識がそこにないのだ。
ぼーっとしていることも多く、注視してはいる。
ステータス的にも健康体のはずだが、精神的ショックがあるのだろうな。
デュラハンにとって緑紅は姉のような存在だった。
俺を攻めてくれても良いのに。
今はそっとしておこう。
みんなが彼女を心配して気遣っている。
……気遣っている。
ん?
何か突っかかるな……。
「お前、みんなが優しくしてくれるからって甘えてないか?」
「ギクッ……」
コイツこの場で埋めてやろうかな?
「え? いや、違うんですよ!」
俺は何も言っていないのに、何を間違えたというのだろう?
「なにが?」
目と鼻の先に顔を近づけてお尋ねしてみた。
少量の威嚇と怒りと殺意のロイヤルスイートを一緒に添えて。
「ヒィ……。ゴニョゴニョゴニョ」
「え? 何ですか? 何を言ったのか俺には分からないです」
少量だったロイヤルスイートが大量に変わったが、俺は依然として笑顔だ。
少しばかり目に力を入れているけど、笑顔だ。
「少し調子に乗ってました! ごめんなさい……」
「……少し?」
「盛大に調子に乗ってました!」
俺の説教が始まろうとした瞬間、香奈が俺とデュラハンの間に入った。
「もう大丈夫。この子は反省していると思う」
「……っ!」
香奈の思いがけない行動に俺は息を飲んでしまった。
怒られてるデュラハンを庇う行為は緑紅が良くする行動だったからだ。
「……緑……紅」
動揺したのは俺だけではなかった。
驚いた表情をして目じりに涙を浮かべながら片手を香奈に伸ばしていた。
「本当に手のかかる」
香奈はデュラハンから伸ばされた手を取り、逆の手でデュラハンの頭を撫でた。
「ぶえぇぇぇぇぇぇぇん。緑紅~~!!」
「私は香奈」
「香奈~~!!」
俺はデュラハンの顔を拭く香奈を背後から見ながら声をかけた
「お前、緑紅なのか?」
「違う。私は香奈だよ」
俺に背を向けたまま会話する香奈。
その後ろ姿は緑紅のそれだった。
「こうしなくちゃいけないと思ったんだ」
「……そうか」
香奈の行動で緑紅の面影が見れたのは辛いと思う反面、嬉しくも思う。
彼女の中で緑紅が生きてると思えるからだ。
彼女の話し方や表情が依然と少し違うのも合成の影響なのだろうな。
「よろしいですかな?」
ちょうどいいタイミングでセバスチャンが会話に入ってきた。
「大丈夫だ」
「確認しましたが、やはり横穴などは無いようですね」
「分かった。では準備に入ろう」
ワンワン泣きながら香奈の胸に抱きついていたデュラハンを足蹴りして正気に戻してグラビティフィードを展開させてる。
「範囲はどのくらいですか?」
蟻塚の出入口が中心になっているとはいえ、狭すぎてもな。
「これを落とすからこれぐらいで」
そう言って俺は地面に巨大な岩を出した。
香奈が数日かけて作った物で名前は『芋男爵』と言う、ただの岩だ。
「芋男爵……。君のことは忘れないよ」
このキャラは何なんだ?
香奈か緑紅のどっちかの意識が影響しているのだろうか。
「大きい岩ですね」
「333メートルある」
何で東京タワーと同じ高さにしたんだよ。
「これを俺が上から落とすから……」
「え? 斥力を使って打ち上げた後に引力で加速させれば問題はないですよね?」
確かに。
「地面の硬質化を解いてついでに軟化させちゃってください」
「分かった」
スッキリした表情で指示を飛ばすデュラハン。
「では、行きまーす!」
フィールドを展開し、芋男爵を打ち上げた。
「高っけ~」
ステータスが向上したおかげでギりギリ見えるけど、普通の人なら見えない高さだ。
「香奈。ちゃっちゃと軟化させちゃってください!」
「もうやってる」
地面に両手を置いている香奈。
表面から軟化をすると俺たちの足場から柔らかくなって動きを阻害してしまうので、なるべく奥から軟化を指示している。
「引力で引っ張りますよー!」
そう言うとフィールド付近の地面が一瞬で数メートル沈没した。
地面の上空にある空気の重さで地面が潰れたのだ。
流石に何Gも耐えられないだろ。
「ん? 芋男爵から炎出てません」
翔が上空を見ながら話した。
俺も翔の言葉を聞いてすぐさま上を向くと、空気の摩擦で赤くなった芋男爵の姿があった。
「アハハハハ。あれじゃふかし芋ですね!」
そんなことを言うデュラハン。
「不味くないですか?」
「不味いな」
すぐさま全員を撤収する。
撤収先は学校である。
「仲間全員に告げる! デュラハンのポンコツがまたやらかした! 約1分後に強い衝撃が学校を襲うから全員衝撃に備えろ!」
あのバカ!
「香奈! 学校の蟻塚のある方向に壁を作れ。このままじゃ何もかも吹っ飛ぶ!」
「分かった!」
香奈が走って行った。
「あれ? デュラハンさんは?」
翔が辺りを見渡しなら聞いて来た。
「あ~忘れてた~。俺も焦っていたんだな~」
「さすがにデュラハンさんでも死ぬんじゃないですか?」
「あいつなら受け止めるぐらいしそうだがな」
「あははは。さすがに無理ですよ」
まぁ懲らしめるだけだからそろそろこっちに呼んでも問題ないか。
「あれ? あ、学校ですか」
「お前、何してたんだ?」
「置いて行かれたのでご飯でも食べようかと」
お前にとって隕石に匹敵する質量の岩が落ちてくる状況はピクニック日和と変わらないのか?
数秒後、巨大な爆音と共に衝撃が学校を襲った。
香奈が学校を守らかったら学校は本気でぶっ飛んでいた。
香奈も相当無理をしたのか疲れた顔をしていた。
俺がデュラハンを叱っていたのにスルーした程だった。
むしろ怖い目で一瞬見られてことに俺が怒る以上に凹んでいた。
……解せぬ。




