5.飛来
『おし。機動人形とコンテナを切り離すぞ』
短くも長い冒険の果て。ロードメイカーは広大なコンテナ置き場の門前で停止していた。
コウヤの座るコックピットに備わっているモニター、その下部に並ぶスイッチのうちの1つをバチンと固く押し込むと、ロードメーカーの背部から金属音が弾ける。
次いで、繋がれていた鎖がジャラジャラと落ちる音。
定期的に発しているだけの排気ガスが心無しか一仕事終えて誇らしげに鼻息を吹き出しているように見える。
『油断すんなよ。納品するまでが運搬だ』
リアのその忠告はコウヤよりもロードメイカーに向けられているかのようだった。無論そんなことは無いが。
「おう」
『あっ! ちょ! バカ! 踏み過ぎだ!』
「んぉっ!?」
素直に返事をし作業に移るつもりだったが、ロードメイカーは必要以上にブースターを吹かし、強い加速度で直進する。
コウヤは素早く対応しターンして見せた。
「ビックリしたぁ……これがコイツの真の力……」
『しっかり手入れしてくれてる奴がいんだな……ボロは着ても心は錦ってやつ?』
リアの声はどこか慈しむような優しいものだったが
妙なリアリズムでみずから水を指す。
『ウェストーノの野蛮人どものできる仕事じゃない』
「あぁ。十中八九、盗品だよな」
『ふふん! んじゃ、貰うのに抵抗も無いな!』
ロードメイカーはコンテナの連結部の前へ。
透明に光るモノアイが赤く点滅。
これは連結解除の信号。
本来ならばこれでコンテナは分断されるが……。
『連結部の錆だな。物持ちのいいこと』
「どうせならコンテナも新品で寄越せってなぁ」
『しゃーない。実力行使だ。ヒートピッケルの出番だぞ。そら、テンポよく行こーぜ?』
「最後尾の裏っつったっけ?」
『だな。それも使用不可ならこのままカタツムリだ』
ロードメイカーの足裏のキャタピラは先程までのノロノロ運転を全く思わせない滑るような動きですぐに彼らをコンテナの裏へと回らせる。
『エネルギー残量100%、刃こぼれごく軽微、うん。使えるぞ。良かったな、でんでんむしむしは回避だ』
高く振り上げられた赤熱を帯びたピッケルは思いっきりコンテナの錆びた連結部へと叩きつけられ痛快な悲鳴を上げさせた。その作業を2回。
「ピッケル、置いてって良い?」
『うーん。もう出番は無いからデッドウェイト気味だがな。持っておこうぜ。なんかの役に立つかも』
「憂いなければ備えナシ! だろ!」
『はいは〜いそーですよー』
多くの機動人形の手のひらには武器や対応のオブジェクトと接続するジョイントがある。作業用にも同様でロードメイカーの手のひらはコンテナの両端へ添えられ、固定される。
『バキボキボキ……っ!』
「な、なに!?腰!?腰逝った……っ!?」
『ごめん。うっかり次のトラック再生しちった……』
「ふざけんな!」
ぎっくり腰を起こすことなく2人を乗せた機械は忠実な操り人形としての役割を遂行する。
「おっっっも……! 1個だけでも相当なんだな」
『如何にさっきのヘビーなヘビ運搬作戦が無茶だったかが分かるな。これでも活き活きしてる方だろ』
「蛇なの!? カタツムリなの!?」
機械に声があるのなら何を叫ぶだろう?
重い荷物に苦しみ「えっさほいさ」と言うだろう。
入り込んだのはさっきまでの開けた平原とは真逆の迷宮。高く積み上げられたコンテナが作り出す森はロードメイカーでさえも、普通の人間サイズに見せてしまう。
赤、青、緑、黄色、とりどりの色のコンテナはどこか楽しげだが情報量で目を回してしまいそうでもある。
「うーん。置けるとこねぇかな……」
『フェリーはまだ来てない。地道に探そう』
アズマノ沿岸部付近のコンテナ置き場は「外の世界」とガラクシーとを秘密裏に結ぶ最大の港の1つ。
物好きな金持ちや支援団体から送られる寄付や横領の品と逆に「外の世界」へ送り出す違法な商品が一同に結集する。
『そうだ? ボクは透視が出来るんだ。聞く?』
「コンテナの色や識別コードで中身が分かるんだろ?」
『ちっ、そこまでバカじゃねぇか……で、どうする?』
「暇だし聞かせてよ」
『おし来た。どれから行こっかなぁ……』
最初にリアが目をつけたのは水色のコンテナ。他のコンテナより突出したファンが付いているのが特徴だ。
『あれは……アシツキナマズモドキの冷凍。ガラクシー海域で取れた汚ったねぇ魚を食うなんて外の世界じゃ考えられんだろうが、ウチらにはご馳走だよな』
「美味いんだけどな。捌いてないの見たマナカがあまりのキモさに失神してた」
ガラクシーにはその過酷な環境に耐えるべく奇天烈な進化を遂げた生き物が多く生息する。この「アシツキナマズモドキ」もその一種。
多過ぎる海洋デブリを掻き分けるべく、エラ付近に人間の物に近い脚を生やしパワフルに泳ぐ。
次々とリアは中身を言い当てていく。何気ない優しさを持つ食料品から、物騒な火薬……後ろめたいものまで。
『お優しいお医者さま方からの抗生物質、食べると頭が幸せになるハピハピキノコ2トン……んで、あれは……』
「ん? あれが何?」
『うぅぅ……人間って……こえぇ〜!』
「なんだよ、勿体ぶらないで教えろよ」
『……お前も、100年後にはなってるもんだよ』
「はぁ? 117歳までなんて生きねぇよ流石に」
性懲りも無くしょうもなく止めども無いそんな漫才を繰り広げる2人だったがリアは突然、暖かな笑みを浮かべる。他のコンテナ達より明らかに頼りのない木の箱。
その中身を見て心を和ませたようだ。
『ガラクシーの子供たちが小遣い稼ぎ廃品リサイクルで作ってる玩具の箱だ。ふふっ、可愛いじゃねぇーの』
「そういやミリとセンチもこども広場のイベントで作ってたよな。木で作った俺とリアの人形だっけ?」
『あぁ。ふふふ、ボクたちはここで生きてんぞーって、外の連中に知らしめてやる時だな!』
「誰やねん! って言われんのがオチだけどな」
彷徨うこと数分。一向にコンテナを3つ纏めて置く事の出来るスペースは見当たら無い。
ロードメイカーがコンテナを担いだまま空を飛べるだけの出力があればもう少し違ったのかも知れないが。
そんな不満を心で漏らしていたコウヤに朗報が届く。
リアの髪が1本、ピンっと立ち、揺れる。
一体、それのどこが朗報だと言うのか。
「むっ! ボクのアホ毛レーダーが置けそうな場所を感知した! そこ、左だ!」
「ホントにそれ宛になんのぉ?」
『任せろって!』
「まぁ、他に行くとこも無いし、行くか」
無配慮、無作為に置かれたコンテナが偶然生んだアーチを潜るとリアの第六感が鋭利に尖り行くべき場所を強く指す。
おふざけでも欺瞞でも無く、そこにはちょうど縦3列にコンテナを置けそうなスペースがあった。
ロードメイカーの苦手であろう縦方向の噴射も最低限で済みそうなほどの高さがあり正しくうってつけだ。
『言ってみるモンだなぁ……!』
「第六感じゃねぇのかよっ! まぁ結果オーライ?」
ジャンプでコンテナを登る。
『いーち』
登る。
『にぃー』
あと1段。あと1段登れば到着。
そんなタイミングだった。
『……ん? ちょい待ち……上空から……』
「空? 鳥じゃねぇの?」
『いや。この距離であんなくっきり見えるデカさの鳥なんて……いるハズが無い……』
見上げた青い空の先。ずっと消えずに留まっていたひこうき雲がコンテナ置き場めざし飛んでくるのが見える。
『おいおいおい! マナカの言ってた軍用機……って!』
「あいつが……?」
ひこうき雲の発生源はソニックブームの輪をその場に残しコウヤ達のいる場所目掛けて急加速を行う。
「どうする?」
『やり過ごすそう。ボクらが狙いとは限……』
次の瞬間リアは驚愕と絶望に目を見開いた。自分の言わんとしていた事を後悔するよりも先に掠れた声で叫ぶ。
『避けろ!』
「は……? 避けろって……どうやっ……」
焦りに焦るリアと状況を飲み込めていないコウヤ。
そんな2人の相互理解を待つ事も無く……
飛来してきたロードメイカーに良く似た、されど細部が洗練された装備の羽を持つ機体は手に持つライフルの引き金を引いた。
白いプラズマを纏う赤いレーザーが2人の乗るロードメイカー目掛け射出される。
『バックしてっ! 即時アンカーをコンテナへ射出!』
「……っ!」
無慈悲な一閃はコウヤ達の依頼品を容赦なく爆砕させる。肝心のロードメイカーはと言うと段差となっている背後へ低出力で飛び退り、崩れた機体のバランスを戦々恐々で持ち直し、積載コンテナへ打ち込んだワイヤーでぶら下がる。
「あぁ……! 仕事……!」
『言ってる場合かよ! 死ぬぞ!』
モニター越しに飛来して来た謎の敵を睨む。
キラキラと輝き撒き散らされるコンテナの中身も今の彼には見えていないのだろう。
コウヤの目に映るソレは家族たちの今日の暮らしを支える為の仕事を邪魔して来た決して許すことが出来ない悪魔が突如として舞い降りた。
状況は飲めないが、彼の怒りの起源はそれだけで十分。
声を荒げて、どこかリアに当たるように聞いた。
「なんなんだよ! アネリアか! インヴァーランドか! 他所様の土地で勝手な真似しやがって!」
『……落ち着け、コウヤ。追撃が来ない内に……』
リアの続く『ずらかるんだ』。
その言葉はコウヤの耳には届いていない。
……彼が次に聞いたのはその軍用機の中から聞こえた
コウヤとそう変わらない若い男の声。
――下に降りろ。話を……聞かせて貰おうか。




