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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第十六章 代理人、平和ボケを痛感する

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11. 強奪

 秋人は自分でもびっくりするくらい動けなかった。薫が囚われているというのにである。呼吸が粗くなり、歯の根が合わなかった。

 男が薫を捕らえながら、一歩近づいてくると、勝手に足が後ろに下がった。

 

「動け、動けよ」

 心の中で自分を罵るも指すら自分で動かすことができなかった。

 

「どうした、3S。怖くて震えてるじゃないか」

 男が蔑みを込めて嗤う。

「薄汚い野良犬の分際でご主人様に楯突こうなんて烏滸がましい」

 男が吐き捨てた瞬間、


「クソが!ふざけんな!!」

 との罵声が響いて、男は吹っ飛んだ。

 

「は?」

 思わず男は二度見する。確実に捕らえていたはずの薫がいない。それどころか、自分を殴り飛ばしたのだ。その手に握っていたナイフが無くなっていて唖然とした。

 

「いい度胸だな、三下ぁ」

 ぼきぼきと指を鳴らして薫が仁王立ちに立っていた。

「薫!!」

 秋人が叫ぶのも当然で、男が構えていたナイフが薫の腕に刺さっているからだ。

「よくも、うちの子に随分舐めた真似してくれたじゃねーか。赤城は死んだからもう仕返しできないと思ってたけど、丁度よかった。あんたにまとめてツケとくわ」

 薫は秋人の前に男から庇うように立ちはだかった。

 

「か、薫」

 震える声で秋人が名前を呼んだ。

「腕、腕が…」

「大丈夫、身体強化かけてから刺したから、ほら」

 薫がナイフを引き抜いて地面に投げ捨てる。カランと音を立てて転がったそれには、薫の血がしっかりと付いていた。

「ちょっと表面が切れただけだよ」

 と、薫は安心させるように笑ったが、彼のジャケットの袖にじわりと赤い染みが広がっていく。

 薫の喧嘩戦法では戦闘のプロである相手をどうにもできなかったので、物理で押し通した結果だ。


 薫は偽赤城を警戒しながら、収納から取り出したエリクサーをさっさと飲み干す。一連の動作が慣れすぎていて、当夜は思わず天を仰いだ。栄養ドリンクのように消費しているが、一本500万である。

 

 秋人は泣きたくなった。

 偽物だとわかっている相手に手も足も出ないなんて。しかし、薫は珍しく弁護士の顔をして秋人の肩にそっと触れた。

「よくあることだ。気にしないで」

 虐待されていた相手に対峙した時の被害者の反応として、薫は今の秋人のような様子を何度も見たことがあった。

探索者(シーカー)だって、Sランクだって普通の人間だ。当たり前の反応だよ」

 薫は静かに答えて、それからまだ赤城の姿をとっている相手を見下ろした。

 

「ちょうどいい。その姿でいてくれたら俺も良心が痛まない」

 薫は目を細めて、人差し指を男に向けて突き出した。

「杖がないから少し小分けにするしかないか…」

雷神の雷鎚(トールハンマー) 改 48檄】

「は?」

 男の顔が歪む。薫の背後に巨大な魔法陣が展開する。そこから48本の雷の矢が解き放たれた。

 

 

「こわ」

 当夜が思わず呟く。微動だにせず薫が男に向かって雷撃を48回浴びせている。アスファルトが砕け、1メートルほど地面が陥没している。その中心で男が無様な悲鳴を上げ続けていた。

 冬由と金子も真っ青で無言である。当夜が捕まえ直した男も黙ってその光景を見つめていた。

 渋谷の街が静まり返った。

 

「杖を持っていこう」

 気を取り直した金子が薫の杖を拾い上げて道の向こうへ走り出す。杖を持っていない薫がいつもよりコントロールに苦労していることが見てとれたからだ。

「神崎!」

 金子が道路を渡ろうとした時、冬由が彼の体を押しのけた。

「冬由ちゃん!」

 当夜が叫ぶ。氷の矢が金子がいた場所を貫いていた。

 

「おや、アンカー・ウィンター・リタ。どうして邪魔を?」

 静かな声に冬由は眉を顰めた。

「アズ…」

 少女の声音が少し上擦っている。

 

 彼女の視線の先に黒い法衣を纏った男がいた。当夜と秋人がかなりの警戒心をもって注視するほどの魔力の持ち主だ。男は空中に立っている。飛行魔法だが微動だにしない。魔力コントロールがおそろしく緻密だった。

 

 男は平然とした顔で冬由の答えを促す。

「裏切るか?」

「まさか!その男に手を出すと、あれが厄介なだけだ」

 と冬由が顎で指し示す先に薫が居た。

「ああ、なるほど。アンカー・スプリング・レオ、生きてるか?」

 静かな問いかけに薫の雷に打たれて地面に倒れ込んでいた男がぴくりと動いた。

「生きてるみたいだ」

 黒ずくめの男は、うっすらと笑みを穿いた。

「弁護士先生が甘くて助かったな」

 という言葉に薫はぐっと唇を噛んだ。薫が人を殺さないことを見越されている。

 

「さて、どうしたものか…」

 男の魔力圧が高まった。渋谷の道路に不自然な冷たい風が吹き荒れる。

「その男はまだ使い道があるので、返していただきたい。代わりに、その青年には手を出さないでおこう」

 男が金子を指差して告げた内容に薫たちは躊躇った。男と金子の距離が近すぎる。相手の手の内が分からない以上、強硬策は難しかった。

 

「いいだろう」

 薫が赤城に擬態した男の側から一歩下がる。秋人もそれに従った。当夜は道路の反対側で動くに動けない。

 

「おいで、リタ」

 男が伸ばした手を冬由は凝視した。この手をとれば教団に戻れる。今は金子の護衛ということで、例の魔力封印のブレスレットも外されている。何を躊躇うことがあるのだろうか。

 帰らないという選択肢はないのだ。彼女は男の手を取った。


 秋人の瞳が大きく見開かれる。悲しそうな表情に冬由の胸は何故か痛んだ。

 


「起きなさい、レオ」

 男が冷たい声音で告げると、ヨロヨロと偽赤城は立ち上がった。

「この…きさま…よくも」

 ブスブスと煙の上がる衣服を払いながら、男が薫に掴み掛かろうとするも、今度は秋人が剣を構えて牽制した。男の顔が見たことないものに変わっていたので、秋人はいつもと同じように動けたのだ。

「ちっ」

 偽赤城は一歩後退る。

 

「アズ様!コイツ殺させてください!!」

 偽赤城が叫んだ。その言葉に薫が大きく反応した。

「アズ?」

 小さく呟く。その名には覚えがあった。

 

「レオ、とりあえず撤退だ。怖い女がくる」

 男がそう告げると同時だった。

【次元刀 蟷螂斬り】

 男の浮かんでいる空間ごと斬られた。男は流石に地面に降り立った。

 

「薫さん!秋人!!」

 ビルの間を縫って桜子が跳躍する。それと同時に空間が裂けた。

「下がって!!」

 康子の声に従って秋人と当夜が下がる。

火炎烈爆柱(フレームストローク)

 炎の柱が男を捉えたかに見えた。

 

「まいったな」

 男が苦笑いを浮かべながら、冬由を抱えて5メートルほど下がった。炎の魔法は少々苦手だった。

「撤収だ」

 そう告げると当夜が抱えていた男にむかって合図を送る。

「は?」

 当夜が慌てるも、捉えていた筈の男の体は既に道路の反対側に移っている。薫の傍に。自分自身で、瞬間移動(テレポート)したのだ。

 

「秋人!先生を盗られるな!!」

 当夜の叫び声とともに秋人が男に切り付けるよりも、男の手が薫に触れる方がほんのわずかだけ早かった。

 

「薫!!!」

 男の手によって、薫は黒衣の男の近くに移動させられていた。

 その薫の襟首を男は無造作に掴んだ。

「それでは、これは貰っていく」

「物じゃないぞ!!」

 と薫が思わず悪態を吐く。

「させるか!!」

 秋人の剣が男に向かって不可視の刃を放ったが、男は無造作に秋人の剣圧を魔法剣で払った。

「魔法剣士…」

 秋人は思わず呟いた。このジョブで自分と同等の戦闘力の持ち主に、秋人は初めて遭遇した。

 

「では、また近いうちに会おう。勇者殿」

 黒衣の男の言葉を最後に彼らの姿は掻き消えた。

 

 薫を移動させた男は地面に転がっており、既に毒薬を含んで事切れていた。

 後には呆然と佇んでいる秋人が残されていた。

桜子「薫さん…まさか」

当夜「秋人!」

秋人「だ、大丈夫。僕は大丈夫。落ち着いてる。うん、平気。薫とのつながりは切れてない。薫は死んでない。追跡のツールもある、大丈夫、大丈夫、大…」

当夜「だ、だいじょうぶじゃねーじゃん。おい、しっかりしろ。魔力抑えろ」

康子「大惨事だわ」

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― 新着の感想 ―
相手からの奇襲で仕掛けられているから仕方ない所はあるけど出し抜かれまくりですねー、タイトルから大変な事にはなったけど致命的にはならないお話だろうけど、相手代わりと反則技してくる事もあって面倒くさい感が…
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