18. 球技大会 2
「謝まるなら今のうちだぞ」
元宮はセンターサークルで秋人に向かって威圧した。
背の高さが10センチは違うし、華奢な秋人に対して元宮はアスリートらしく、しっかりした体格だ。当たれば吹き飛ばされるのは秋人の方だと元宮は思っていた。
「約束、忘れないでくださいね、先輩」
ニヤリと挑発的に秋人が笑う。その表情に元宮はあっさりとキレた。
「舐めるなよ!」
キックオフのホイッスルと共に元宮は体を当てに行った。が、しかしそこに秋人はいない。さっさと前進しているのだ。
「は、強がり行って逃げ出しやがった」
と嘯いていると、ふわりと自分の目の前で誰かがボールを掠め取った。足の速いその生徒は、あまりサッカーには慣れていないのだろう、すぐにボールを味方にパスする。
「織田!」
「ナイス!町田!」
陸上部の町田がボールを奪取して織田に送る。織田はそのボールを正確に秋人の足元に送った。実に20メートルのロングパスである。
「お」
思わず水谷が唸った。
「あの7番はいいテクニックっすね」
名坂がビデオを回しながら口笛を吹いた。しかし、そこからだった。
ボールを送られた少年はなんとそこからシュート体勢に入ったのだ。
「いや、遠いだろ」
思わず水谷が呟く。
おそらく全員が同じ気持ちだった。
2ーBのクラスメイトと梶原、そして見物に訪れている少年の家族以外は。
「2ーB!ゴール!!」
ホイッスルが鳴り響く。ゴールポストまで30メートルを躊躇なく振り切った少年は、全く誇ることなく首を傾げている。
相手ゴールキーパーはまさかシュートが飛んでくるなどと夢にも思っていなかったらしく、一歩も動けなかった。
「は?」
元宮は我が目を疑った。何が起こったのか今ひとつ分からない。
センターサークル付近からボールを運んで、20メートル先に進んでいた生意気な2年の足元にボールが落ちたところまでは把握していた。
そこからドリブルを仕掛けるのだなと思った元宮は、しかし高を括っていた。
なにしろ、元宮のクラスのゴールを守っているのは轟学園のサッカー部の正ゴールキーパーだ。たとえどんな至近距離でもサッカー素人にゴールを割らせるような男ではない。
「秋人!」
元宮が呆然としている間に、またもボールを奪取した相手チームがサッカー部の織田にボールを送り、そこから秋人の足元にボールが供給される。
今度も先ほどの悪夢が再現された。
寸分違わぬフォームで、寸分違わぬコースをついて秋人のシュートが3ーAのゴールを割った。
「2点目!」
きゃーと悲鳴が起こる。
元宮は何が起こっているか理解できなかった。
そもそも、如月秋人は美術部の軟弱者で、体が弱く体育はほぼ欠席という状態と聞いていた。それが、プレミアでも真っ青な超ロングシュートを立て続けに2本決めてきたのである。
観衆は湧いている。秋人のチームメイトたちも大いに盛り上がっている。3ーAのメンバーがチラチラと元宮を見ている。どうにかしろよと目で訴えかけていた。
「バカな…」
元宮は呻いた。しかし、悪夢はまだ終わらなかった。
「秋人!」
2ーBの生徒がボールを奪取し、織田に送る。流石に3点目を阻止しようと3ーAでサッカー部に所属している生徒が織田に攻撃をしかけるも、織田は華麗にスルー。そして、そこに走り込んでいた大柄な生徒がおっかなびっくりの腰の引けたフォームで秋人にパスを送った。
「ナイス!智輝!」
「いや、ナイスじゃねえだろ」
智輝が自分のまずいパスに苦笑をこぼす。しかし、秋人は智輝の送った下手なパスの出所まで素早く戻っていて、そこからまたもシュートの体勢に入った。
「嘘だろ」
思わず水谷は呟いた。しかし、彼の目は理解していた。あの少年が前2本とまったく同じフォームで振り抜いたことを。
「ゴール!!!」
ホイッスルが鳴り、2ーBのゴールがコールされた。3点目である。
秋人はまだ納得いかないのか、微妙に首を傾げている。
そして、恐ろしい号令をかけた。
「スピードアップ!!」
秋人の出番は10分だけだ。このままでは10点に届かない。織田に約束したので、秋人は10点取り切るつもりだ。
「は、や、く!」
と彼らの英雄が求めるので、2ーBの男子たちは奮起した。
「先生…なんか俺の知ってるサッカーと違う」
当夜がボソリと呟く。桜子も微妙な顔つきだ。
「どっちかというとサッカーというより砲台だね」
との彼女の言葉は言い得て妙だ。
試合は、秋人が起点になってバカスカシュートを打ちまくる、かなりシュールな展開になった。
2ーBの作戦は簡単。
どこからでも秋人に繋げる。秋人はどこからでも来たらシュートを打つというものだ。
「マヌエル?私、フットボールってボールをこう、蹴ったりして何人かで繋いでいくスポーツだったように記憶してるんだけど」
とレオネアが護衛に確認するのも仕方ない。マヌエルは
「一応手は使ってないのでおそらくフットボールかと…」
と曖昧な返答である。
無言でグラウンドを見つめていた薫は、チラリと自分たち近くの父兄席で、カメラを回している二人連れを確認した。
「あとで、あれ回収しないとな」
とボソリと薫が告げる言葉を聞いて、冬由がグラウンドに目を向ける。
「あれ、魔法?」
「いや、本人の技術」
「どうやって?」
「たぶん、軌道を計算してる。秋人は数学が得意なんだ」
まあ、普通の人間はいくら計算で角度と強さを算出できても、その通りにボールは蹴れないのだが。
「秋人に教えてくれた人が、やたら上手かったらしい」
「だろうな」
桜子も秋人がその人物のフォームをコピーしたことに気がついた。先ほどから秋人はずっと同じ打ち方をしている。
朝稽古中、秋人の飲み込みの速さに驚かされていたが、秋人はとにかく人の動きをコピーすることが早く、その上それを自分の体格に落とし込んでアレンジすることも可能だった。
秋人の剣技が急激に伸びたのはその所為だ。何しろ稽古相手は1000年に一人の天才剣士である。
そんなコピー能力も、コピー元がなくては始まらない。
動画などからでも可能なのだが、やはりその場でやってみせてもらった方が、秋人的にはやりやすいらしく、そして今回その見本が凄まじくよかったのだ。
「それに、この一月、秋人は毎日放課後ボール蹴ってたからな」
と薫が秋人の努力を纏める。
「一月であれができるようになれるなら、きっと悪魔に魂を売ってもいいって選手が続出するでしょうね」
レオネアが思わず呟いた言葉に、その場の全員が頷いた。
梶原「なあ、秋人くん。ほんとに試合出られないの?」
秋人「そうなんですよ。バレたらたぶん勝ち点没収とかですよね?確か」
織田「そりゃあ、智輝があんだけしつこくなるわけだよ」




