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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第九章 代理人、パパラッチされる

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4. 金子

 薫が入院して2日後に金子が病院までやってきた。一応引継ぎなども必要だからとのことだったが、どんな状態かちゃんと自分の目で確かめたかったのだろう。

 しかし、病室に入るなり金子は困惑の表情を浮かべていた。


「入院加療中じゃないのか?」

 金子の問いかけに薫は大きく頷く。ベッドにはテーブルが設置されており、ノートパソコンが鎮座している。さらに、両脇に書類ともう一台パソコンが置いてあり、法律関連の動画が2倍速で流れていた。


「んー、いい機会だから色々溜まっているものを処理しておこうかと」

 薫が手元の書類を見ながら答えると、金子は額を抑えた。


「なら、普通に事務所でやればいいだろう」

「俺もそう思うんだが、治療が3時間おきにあるんだよ」

 薫も当初はせめて自宅に帰してほしいと訴えたのだが、古藤は却下した。

 薫の魔力回路はかなり傷ついているので、一度に修理することができないらしい。一日4回ほど治療を受ける必要があるということだった。


「どういう症状なんだ?」

「あー、わかりやすく言うと魔法的な血管が傷んでいて、そのまま放置していると脳溢血のような状態になるみたいな」

「・・・・・お前」

「魔法使わなければ大丈夫なんだが、俺は魔法職だから使わないって選択肢はないからな」

 薫の言葉に金子は呆れたような顔になった。



「薫ー、お茶買ってきたよ」

 病室に秋人がやってきた。薫にお使いを頼まれていたらしい。毎日学校の帰りに着替えやら洗濯ものやらを交換したりしに来てくれている。


「あ、ごめんなさい。お客さんだった?」

 秋人が謝ると、薫は手を振って笑った。

「この前、話しただろ。同期の一番腕のいい弁護士の金子達也。俺が入院している間、所長代理をお願いしたんだ」

「初めまして。うちの薫がお世話になってます。秋人です」

 ぺこりと秋人が頭を下げる。挨拶が完全に身内の妻のそれである。その姿を金子は無言で見つめていた。


「…お前、いくら大学時代からぞっこんだった女に最悪の振られ方したからって、男、しかもこんな若いのに手を出すとか、ばれたら犯罪だぞ」

「どこから突っ込めばいいか分からんな」

 薫がため息をつく。


「彼は如月秋人。俺の被保護者で同居人でクライアントでパーティーメンバーで、俺は彼の代理人だ」

 金子は薫の言葉を理解するのに3分ほどかかった。

 頭の回転が薫に匹敵するだろう唯一の男をしても、全部を理解するのにそれだけの時間を要した。



「えっと…まずは整理しよう。お前は『3S探索者(シーカー)の如月秋人』の代理人になってるんだよな?」

「うん」

「この子があの『如月秋人』本人なのか?」

「ああ」

「それで、お前が保護していて一緒に暮らしてる?」

「そうだ」

「どう見ても10代なんだが…」

「10代の高校生だからな」

 金子は秋人をじっと見た。秋人は困ったように眉を下げている。


「嘘だろう…」

 がっくりと肩を落とす。

「親父のように思って憧れていたのに」

 金子の言葉は小さくて秋人には聞こえなかったが、薫にはしっかり聞こえていた。薫は必死に笑いを堪える羽目になった。



 金子は薫と同じくらいの長身で、銀縁の眼鏡をかけた所謂「インテリ眼鏡」である。

 パリッとした三つ揃いのオーダースーツに高級腕時計、海外ブランドの高級靴という出で立ちだ。一見、金に飽かせた金満ライフスタイルを送っているように見えるが、そうではないことを薫は知っている。敢えて知っていると言うつもりはないが。


「秋人の代理人業は手を出さなくていい。それは俺がやるから」

「分かった」

 引継ぎに来たので色々と業務を事務員の楠本に書き出してもらった。

 流石に今はもう楠本も小林も、秋人があの『如月秋人』であることは伝えられており、どうして薫のところで暮らしているかも大まかにだが説明は済ませていた。

 同じ事務所で作業するのに、この話を避けて通るわけにはいかなにので、ちょうどいいとばかりに薫が秋人のことを大雑把に説明した。


「見ての通りの年齢なので、不穏な事情があることは察してると思うが、探索者(シーカー)ギルドの一部の不心得者が、悪事を企てた。秋人のご両親が亡くなったのをいいことに、子供ながらに探索者(シーカー)として有能だった秋人を騙してこき使ってご両親の遺産を横領したり、討伐の報酬やらダンジョンのドロップ品を搾取し放題だった状態が、お前がよく知ってる『如月秋人』の実情だな」

 大雑把すぎる説明に、金子は頭を抱えた。秋人は自分の事を説明されているので落ち着かないのかもぞもぞしている。そんな秋人をチラリと見て金子は尋ねた。


「今は大丈夫なのか?」

「俺が代理人なんだぞ。当然だ」

「どうやって知り合ったんだ」

「佐代子にダンジョンの最下層に突き落とされた時にたまたま」

「凄い偶然だな」

 呆れ半分の金子の言葉に薫は肩を竦めた。


「まあ、探索者(シーカー)関連の業務は何かあれば知らせてくれるだけでいいよ。そんなに多くは動かないと思うから」

「分かった」

 有能な男なので、そこから先の引継ぎもあっという間に終わった。本来ならWeb会議で済ませられる内容だったが、金子は薫の状態を自分の目で確かめたかったのが本音だった。



「それじゃ、俺は帰る。何かあれば連絡するので携帯は離すなよ」

「分かった」

 そう告げて金子は辞去の挨拶をした。秋人も同じタイミングで帰宅することになったので、一緒に病院を出る。

 何となく二人並んで歩いていた。金子は事務所、秋人は自宅へと行き先が一緒だから自然とそうなった。


「如月さんは今はどうしてるんだ?未成年だろ?」

「ああ、僕一人暮らし慣れてるので平気です」

 秋人の言葉に金子は眉を寄せた。

「いや、未成年が3週間も一人は良くない。誰か親戚とかいないのか?」

「いませんねぇ。いたらそもそも僕は薫と一緒に暮らしてないので」

 それもそうである。金子は己の迂闊さにため息をついた。どうにも調子が出ない。この若い少年があの『如月秋人』だということが、理性では理解しても感情が飲み込めないのだろう。


「あの、僕のこと秋人でいいですよ。如月さんってくすぐったいし」

「そうか」

「はい」

 端正な秋人の横顔を見ていると金子は、ふと大学に入学したての頃の薫を思い出した。顔立ちは似ていないのだが、この超然とした態度はよく似ている。どことなく孤独の匂いがするところも。


「あと、他にも半分くらい一緒に暮らしてるみたいな人と、一時的に一緒に暮らしている人がいるので、一人じゃないから大丈夫です。ありがとうございます」

 秋人は金子が自分を心配してくれていることを察して、当夜と桜子のことをぼかしながら説明した。どこまで二人のことを話していいのか分からなかったのだ。


「そうか、一人じゃないならよかった」

 金子が小さく笑う。笑うと冷たい雰囲気が薄れ、少し優しい顔立ちになるのに秋人は気が付いた。しかし、金子はそこから少し難しい顔をした。


「神崎には言わなかったんだが、ちょっと厄介な男が海外から帰国してきてね。君が彼と二人で暮らしているという情報を知られると、トラブルになるかもしれないと思ってたんだ。でも、他にもいるのなら、大丈夫だろう。」

 金子の言葉に秋人は大きく首を傾げた。

「薫の知り合いですか?」

「うーん。まあそうなんだが。大学時代に揉めてね。少々厄介な男なので、君に対して何かしないかという不安があるんだ」

 奥歯にものが挟まったような物言いに、秋人はピンときた。

「もしかして、変態さんですか?」

「・・・・・・そこまではっきり言ってやると憐れにも思うが、まあ神崎の分類からするとそうだろうな」

 金子が深くため息をつく。

「少し時間あるかい?」

 金子の指し示す先に古い喫茶店があった。秋人は一つ頷いた。

金子「だいたいお前は前から思ってたんだが働きすぎだ。もう少し人を雇うなりなんなりして休む時間を作れ。子供を預かってるなら尚更だ。事務所の社員とか含めて生活を預かってる自覚を持て」

薫「うん、お見舞いのりんごありがとう。俺がりんご好きなの覚えてたんだな」

金子「帰る」

秋人「これがツンデレ…」

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