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第三話〜白銀の戦い〜

「ふぅ…美味しかった」


 夕食のパスタを堪能した後、独り宿へ向かいながら夜風を感じる。空に浮かぶ三日月を眺めながら静寂で穏やかな街を歩いていく。戦場の熱は引きつつあったが、体はまだ昂ぶったままだった。


──物足りない。


 オーガ・キングとの戦いも、結局は一方的なものだった。技術による戦術を使うまでもなく、力くらべで終わってしまったからだ。心のどこかでもっと強敵との戦いを求めている自分がいる。だが、戦場はそう簡単に都合よく現れるものではないこともイーリスは知っていた。


「……まあ、気長に待つか」


 そう呟いて宿へ向かおうとした瞬間、路地の奥からかすかに誰かの嗚咽が聞こえてきた。


「お願い……誰か、助けて……!」


 イーリスは足を止め、声のする方へと視線を向ける。そこには一人の女性が膝をつき、震えていた。彼女の体は痩せ細り、薄汚れた服にはところどころ破れが見えた。頬はこけ、目は腫れ上がって赤くなっている。まるで 絶望に囚われた者のようだった。イーリスはため息をつきながら近づく。


「……どうしたの?何かあった?」


 声をかけると、女性は驚いたように顔を上げる。白銀の髪に白と黒の軽鎧──その姿を見た瞬間、彼女の目に 微かな希望が宿る。


「白銀の……!えっとその、わ、私の娘が……! 娘がいなくなったんです!」


 イーリスは無言で続きを促す。女性は涙を拭い、震える声で話し始めた。


「私は……借金をしていて……」



 女性は庶民だった。夫は病で亡くなり、娘を育てながら細々と働いていた。その中でどうしてもお金が足りず、やむを得ず借金をした。毎月、なんとか返済を続けていた。だがある日、取り立て人が態度を変えた。


『こんな額じゃ話にならねえ。今後の返済額を倍にする。文句は受け付けねえぜ?』


 当然、そんな大金を払えるはずもない。女性は必死に交渉した。だが男たちは冷たく笑いながら、次の言葉を告げる。


『払えねえなら、ガキを担保にしろ』


 その瞬間、女性の血の気が引いた。


「そんなの……そんなの、できるはずがない!」


 彼女は泣いて懇願した。返済額を減らしてもらえないか、もう少し待ってもらえないか。しかし──


『……まあ、よく考えとけや。次の支払い日までにな』


 男たちは嘲るように笑い、その場を去っていったのだった。



「娘が……いなくなったんです……!」


 そして事件が起こる。仕事を終えて帰宅すると、家の中は荒らされていた。倒れた家具、砕けた皿、床に残る引きずられた跡。それはまるで、何者かと必死に抵抗した痕跡 のようだった。


「お願いです……助けてください……!」


 女性は泣きながらイーリスの腕を掴む。


「たった一人の娘なんです……あの子がいないと、私は……っ!」


 イーリスは無表情のまま、彼女を見つめていた。特に同情を浮かべることもなく、ただ静かに考えているようだった。


そして──


「……分かった」


 短く、それだけを言った。


「つまらない戦いは嫌いだけれど、人が悲しむのはもっとつまらない。明日にでも冒険者協会に顔を出すように」


 女性が顔を上げたときにはすでにイーリスは踵を返し、夜の闇の中へと消えていっていたのだった。

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