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第二話〜白銀の戦姫〜

「はぁ、はぁ……また消化不良か。オーガ・キングも所詮こんな程度か」


 荒野に吹き荒れる砂塵の中、一人の戦士が立っていた。

白銀の髪をなびかせ、白と黒の軽鎧を纏い、返り血に染まった剣を肩に担ぐ。


「凄いな、あの人は。名前は確か……」

「イーリス・テスタメントだ。二つ名は“白銀の戦姫”だったか?」

「そう、それだ!……本当に一人でオーガ・キングを倒してしまうなんてな」


 冒険者たちは、彼女を見つめながら囁き合う。


「信じられない。さっきまで地獄のような戦場だったのに、今じゃまるで嵐が過ぎ去ったみたいだ……」


 彼女は王国北部の辺境で発生した魔物の群れ討伐の依頼を受けていた。依頼対象だったオーガの群れを蹴散らしただけでなく、討伐隊の誰も手出しできなかった上位個体の鬼王-オーガ・キング-すら、彼女の手によって斬り伏せられていた。


「はぁ……つまらなかった」


 イーリスは満足いかなかったようで、ため息を吐きながら剣の血を払う。疲れは微塵も感じられない。むしろ彼女の表情は、どこまでも退屈そうだった。



「あんなのもう"白銀の戦姫"というより“暴食の戦姫”と呼ぶべきか?」


 彼女の実力は、もはや人間の域を超えている。それは誰の目にも明らかだった。だが、イーリスは噂話に興味を示さず、肩をすくめるだけだった。


「異名ねぇ……そんなつまらないものに興味はないね」


彼女は自分を英雄だとは思っていなかった。彼女にとってのイーリス・テスタメントとはただの戦士であり、ただ戦場を渡り歩く流浪の冒険者に過ぎない。異名や称賛など、彼女にとってはどうでも良いことだ。戦えれば、それでいい。それこそが彼女の戦う証だった。


「さて、帰ろうかな。お腹減ったし」


 半身を返り血で濡らした彼女は剣を仕舞い、骸と化したモノを背に向けて歩き出した。



「帰ったぞ」


 戦いを終え、イーリスはギルドへと帰還した。酒場にいた冒険者たちは、彼女が現れたことに気づくと歓声と驚嘆の声を上げる。だがイーリスは人々の間をすり抜けるように進み、まっすぐに受付のカウンターへ向かった。


「お疲れさまです、イーリスさん!」


 カウンターで微笑んでいたのは、ギルドの受付嬢ルミエラだ。整った栗色の髪を肩まで垂らし、翡翠の瞳が眼鏡の奥から覗く、知的な雰囲気を持つ女性だ。イーリスは気楽に手を挙げながら、いつもの調子で話しかける。


「お疲れ。今回もまたつまらない戦いだった」

「そうでしたか…。そうなるとイーリスさんの求めている相手はこの世界に存在しないのかもしれませんね?

「それは困るな。もしそうなら私は癒しを得ることが出来ないことになってしまう。報酬、もらっていくよ」


 ルミエラは笑顔を崩さず、書類を整えながら言った。


「そんな敵が出てきたら世界は滅んでしまうので出てきて欲しくはないですね。それにしても、また“とんでもない”ことをしてきたみたいですね?」

「またってなんだよ、またって。私はただ、依頼をこなしただけだけど?」

「普通の冒険者なら、オーガの群れを討伐するだけで精一杯なんです。ましてやオーガ・キングまで一人で倒して五体満足で帰還できる人なんて、冒険者協会に所属する冒険者の中でもイーリスさんくらいなんですから」


 ルミエラは苦笑しながら書類に受け取りのサインをする。


「本当に気をつけてくださいね? 貴女の正体がバレることも、怪我をすることも、ギルドにとっては大損失なんですから」

「そうだな、善処するよ」

「善処するって……イーリスさん、善処したことありましたか?」

「あはは」


 イーリスは肩をすくめつつも、どこか楽しげに笑う。異名だとか称賛だとかは どうでもいい話だが「強者」として認められること、それだけは何よりも嬉しかった。


「それで、また次の戦場に行くんですか?」

「さあね。強敵のいるところに私は現れる。ただそれだけだよ。じゃあまた来るから」

「まったくもう…。イーリスさんってば…」


 報酬を受け取ると、イーリスはギルドのカウンターを離れた。すぐに新しい依頼を受けることもせず、そのままギルドを後にし、夜の街を歩き始めた。彼女は 常に流浪の旅を続ける。どこかに拠点を持つこともなくどの国にも長く留まらず、ただ戦場を求めて旅を続ける。


「さて……次はどこへ行こうかな」


 銀白の髪をなびかせながら、彼女は月明かりの下を歩いていく。異名を持とうと噂が広がろうと、彼女はイーリス・テスタメントでしかない。彼女の生きる(テスタメント) は、戦場にこそあるのだから。

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