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天狗と誘拐と女性と 3

柄池視点

 柄池達は歩んでいき、目的の旅館へと辿り着いた。


「みんな、ここだよ」


「ここが目的の旅館……」


 柄池は目的の旅館に着いた事をみんなに知らせて、大越は旅館の上から下をその場で視界に入れつつ、言葉を出した。


「派手さはないけど、分かるぜ……ここは隠れた名旅館ってやつだろ?」


「そこまで深くは調べてない。まあ、評判が悪いとまではいってないことは確かだが」


 旅館を見て古賀松は得意げを帯びた声を出すと、龍富は一応の肯定を言葉にした。

 旅館は派手な色彩をまとってないが、綺麗ながら上品な印象を出す。

 古賀松の行ったことも間違いではないかもと柄池は感じてもいた。


「荷物置いたら、すぐにまた出るんだよね?」


「そうだよ、ところで……疲れてない? 歩けそうにないなら、その時の行動も考えているけど……」


 愛川はこの後のことを聞くと、柄池は肯定とともに愛川へ疑問を投げる。

 愛川の体力というやや気がかりになる問題はあった。

 だが最初の頃よりか、体力の事で大丈夫と思える要素も増えたことは事実でもある。


「うん、まだ歩けるよ」


「なら大丈夫か」


 愛川は体力に問題ないと話して、柄池は大乗だと言葉でも確認した。

 それから8人は旅館の入り口まで歩き、その入り口で着物を着て髪を一つにまとめた女性を見かける。


「いらっしゃいませ、ようこそこの旅館においで頂きまして」


 この旅館の女将であろう女性は深々とお辞儀をして言葉と共に出迎える。


「この旅館に泊まる予定の龍富だが、荷物だけ先においても?」


「はい、お客様の予定も伺っておりますので、構いません」


 龍富は荷物を置くことを伝えて、女将はそれに許可の言葉を出す。

 事前に荷物は一旦置くと女将に話していたので、話も通じていたのだ。


「では、私めが部屋へと案内致します。どうぞこちらに」


 女将は館内へと手を向けて案内を言葉でも引き受ける。

 8人は玄関で靴を脱いで、スリッパに履き替えてから旅館内へと入って行った。

 内観も外から見たイメージがそのまま引き継がれたようで、派手さはないが綺麗で上品な印象をもたらしていた。


「ははっ、内見も良さげだな。これは隠れた名旅館かもな」


「いいわね、私はこういう雰囲気の旅館好きよ」


 気に入ったのか古賀松は言葉でも評価をして、八雲もまた気に入ったと話す。


「気に入って頂けて何よりです。この旅館の女将をやっていて、こういう言葉は感無量です」


 8人は移動して部屋へと辿り着く。

 また、部屋割りは事前に決めてはいなかったので、一箇所の部屋に荷物をまとめる事にした。



 そこから8人は荷物をまとめて、最低必要な物だけを持って出ることとなる。

 のだが、ここで一人漸く部屋を出た人がいた。


「予備の財布と貴重品があんな奥に紛れていたなんて……」


 一人で出る事になった柄池は呟きつつ部屋を出ると同時に部屋に鍵をかけて、部屋を後にした。

 他の7人はすでに部屋を出たが、柄池はちょっとしたトラブルで最後に部屋を出ることとなる。


「急がなきゃいけないってのに、こんな事で時間を食ってしまうなんて……」


 そのトラブルで悔やむ言葉を呟きながら柄池は急いで移動した。

 事の経緯として、柄池は荷物自体はそれ程持っていくものもなかったが、予備の財布と貴重品が荷物の中から見つからなかったのだ。


「まあ見つかったし、忘れただの盗まれただのよりかは結末として軽傷ではあるか」


 トラブルはあったもの、解決してひとまずよしと柄池は自らにも言い聞かせる。

 流石にない事を放置するわけにいかず、柄池は探したい事を皆に伝えて、一人残って荷物の中を探す。

 そこで探していて、一人だけ部屋を出るのが遅れたわけになる。

 柄池は急いで階段を降り始める。

 降りた先では女将がゆっくりと歩いていた。


「ん……あれって……」


 女将を見て柄池はふと言葉を出した。

 その女将は旅館用の配膳に使う小さい座卓、しかもそれを複数上に重ねて持ち歩いていたのだ。

 重なった座卓は若干横揺れを起こしながら運ばれて、これではいつ崩れてもおかしくないと言えよう。


「……」


 柄池は言葉が出なかった、急いでもいたからだ。

 だが、この光景を見過ごすわけにもいけなかったので女将の元へと駆けつけて行った。


「あの、手伝いますよ」


 柄池は重なって崩れ落ちそうな座卓に手をかけて、上の二つを手に収める。


「え?あの、お客様にそんなことはさせられないので……」


「とは言っても……このままだと、コケる未来しか見えなかったので……」


 女将の遠慮の言葉があるも、柄池は引き受けるとの言葉を出して、重なった座卓を柄池の胸に寄せた。

 重なった座卓の塔は安定感が出ていて、崩れることはこれでないだろう。


「あ……そんなことは、えっと……ないと思いますが……」


 否定の言葉を出すも女将は多分と言葉の最後に小さく付け加えていた。

 不安なところは女将自身も感じていたように見える。


(ほっとくと女将さんが不味かったし、急いではいるけど……やむを得ないか)


 柄池は心に言葉をとどめておく事にする。

 座卓の塔を崩してこけてしまう女将の姿はやはり見過ごせなかった。


「余計なお世話かもしれませんが、見てて不安だったので手伝わせてください」


「……では、お言葉に甘えて。この通路の奥の部屋迄でいいのでお願い致します」


 柄池の再度の手伝う言葉に女将はお願いの言葉を出して、柄池は手伝う事になる。

 それで二人は座卓を奥の通路へ運ぶ。


「すでにお帰りになられましたが、先ほどまで団体のお客様が来ていまして、それで食器などの片付けをしていました」


「ああ、そうですか。多くのお客様が来て、急いで片付けようとあんなに運んだと」


 女将はこの数の座卓の運ぶ経緯について語り、柄池もその経緯についての理解を言葉にする。

 柄池は女将の持つ重なった座卓をまだ引き受ける事は可能であったが、女将の方で拒絶する可能性を感じて敢えてこのままにした。

 従業員でもない柄池の方が数多く座卓を持って、女将の方が数が少ない絵を見れば旅館としての評判が悪くなるかもしれなかった。


「お恥ずかしながら……なんとか持ち運べると、踏んではいたのですが……」


 女将は視線を下げて失態についての理由を語る。


「まあ、行けると思って微妙にダメなラインを超えていたということはありますからね」


「ありがとうございます。そう言っていただけるだけでも、気は楽になります」


 柄池もまたその理由にこういうこともあるとの言葉で返し、女将は気遣いの言葉に感謝をした。

 会話をしつつ移動して、二人は奥まで運ぶこととなる。


「ではここまで運んで頂ければ、そこの角においてください」


「分かりました。ではここに置きます」


 女将は置く場所を話し、理解を伝える言葉を柄池は話す。

 柄池が座卓を部屋の角に置くと、大きな声が響いた。


「おーい柄池! 急いだ方がいいぞ!」


「急がないと、おいて行く事になるから早くこいよ!」


 その声は聞き知った声、大空の声であり、のちに古賀松も大きな声で大空に続く


「あ、もしや貴重な時間を私の方に費やして……?」


「え、いや、そんなことはないんで! 急げば間に合いますから!」


 申し訳なさそうに女将は疑問を投げかけると柄池は手を振って否定した。

 逆に気を使わせると申し訳ないと感じて、柄池は否定の言葉を選んだ。


「それでは、俺はこれで!」


「すいません、わざわざありがとうございます」


 急いでこの場を離れて、柄池は去る言葉を置いておく。

 女将はそれに礼の言葉を送った。

 女将の言葉を背にして柄池は急いで旅館の玄関へと向かう。

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