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気象予報士 【第1部】  作者: 235
害虫駆除と彼の本質
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「帰るぞ」

 センターで帰り仕度をする緋天に、蒼羽が呼びかける。

 その表情には、特に何の感情も伺えないのだけれど。

「わっ!蒼羽さん。びっくりしたー。朝もびっくりしたけど」

 驚く緋天を見て、少しだけその口元が緩んでいるではないか。

 そんな風に、柔らかい笑みを見せるなんて、何年ぶりだろう。

「・・・蒼羽。緋天さんを迎えにきたのか?」

 朝、蒼羽がセンターに緋天を送ってきて、緋天を眺める若者全員に睨みをきかせて帰っていった、というニュースが自分の耳にも入っていたから。何とか大きな驚きを見せることもせず、彼らに声をかけることができた。蒼羽が緋天のおかげでだいぶ変わったと、ベリルから聞かされていたこともあり、どうしても頬が緩んでしまう。

「ベリルから買い物も頼まれてるので。ついでに」

 彼女に向けていた笑みを瞬時に消して、しらじらしく言う蒼羽が、とてもおかしくて。もう笑いを押さえる事が出来なかった。

「あっ!そうだ、害虫駆除、うまくいきました?」

「・・・ああ。だいぶ減った。あとはしばらく様子をみる」

「害虫・・・? ああ!そうか!蒼羽、君は・・・もう、あはは、あー駄目だ、腹が痛い・・・」

 害虫とはおそらく。緋天に手を出そうとする若者達の事で。

 蒼羽が裏で必死に彼らに牽制しているなどと、純粋な彼女は少しも気付いていない。

「ええ? オーキッドさん? そんなに面白いことありましたっけ・・・?」

 笑い続ける自分に困惑する緋天を見て、蒼羽は言う。

「・・・とりあえず放っとけ。帰るぞ」

「うーん。はい。・・・じゃあ失礼しまーす」

 

 


 

「・・・えっと、お買い物ってなんですか?」

 街の大通りに入って、黙って歩く蒼羽。歩幅はしっかり自分に合わせてくれているが、しばらく沈黙が続いていたので、なんとなく声をかけづらい。

「ベリルが注文していた包丁を取りに行く」

 勇気を出して聞けば、あっさりとそう答えて、蒼羽は立ち並ぶテントの合間を抜けて、細い小道に入った。

 彼とのコミュニケーションは難しい、とずっと思っていたのだけど。こちらから聞けば答えてもくれるし、ようやく何かをつかめた気がした。


 そのまままっすぐ進むと、突き当たりの大きな家の前で止まる。

「いらっしゃいませー。あ、蒼羽君」

 扉を開けた彼に続いて中に入ると、中年の、恰幅の良い男性が蒼羽に声をかけてきた。いらっしゃいませ、と言われた事で、この場が店だと判断できた。目の前に広がる空間はとても広く、玄関の正面にどっしりしたカウンター。その奥に衝立があって、向こう側からざわざわと、多くの人間がいる音がした。

「ちょっと待っててねー。今持ってくるから」

 

「親父ぃ、あのさー、っと、蒼羽じゃん」

 蒼羽と二人で大人しく待っていると、背後の扉が開いて。

 振り向けば、赤い髪の男性。そのまま嬉しそうに蒼羽の名前を呼んでいる。

「あ、アクセサリー屋さん。こんにちは」

 見覚えのあるその顔に、あいさつをすると。

「お、おお! 君は・・・この前のアウトサイドの娘だ! いやー、あの時は蒼羽、大活躍だったなぁ」

 自分と蒼羽の顔を見比べて、彼は言う。

「お前、ベリルさんの包丁取りに来たんだろ? なんか、親父がこの前のバングルの調整したいって言ってたから、多分長くなるぜぇ。だからさー、その間、この娘ちょっと借りていい?」

「何でだ?」

 蒼羽が半ば睨みながら、そう返して。

 唐突に思いついた、とでもいうようなその申し出の答え。きっと面倒な事が嫌なのだろう、と容易に想像できた。

「おわっ! 怖いなぁ、睨むなって。いや、ちょっとオレの作った指輪とか見て欲しいんだ。この前、君、手作りっぽいネックレスしてたでしょ? あれ、かなりセンス良かったから、オレのにアドバイスして欲しいんだよ」

 彼の目聡さに少し驚くが、その言葉は自分の興味をひいた。先日、蒼羽とこの街を歩いた時、確かに自分で作ったシルバーの飾りを首につけていたのだ。

「・・・行ってくるか? 俺がこいつの親父と話してる間、暇だろう?」

 蒼羽がこちらを伺いながら言った。

 その顔は、何か困惑しているようにも見えるのだが、寛大なその言葉に嬉しくなる。

「えっと、じゃあ、よろしくお願いします」

「うんうん。じゃ、オレら、この前のテントにいるからさ、蒼羽の用が終わったら迎えに来いよ」

 

 

 

 

「あの、・・・蒼羽さんと仲いいんですか?」

 外に出て、気になっていた事を歩きながら聞いた。

 一歩分、道案内をするように前を歩いている彼の口元は緩んでいる。気さくな感じの彼には、蒼羽のようにとても緊張をしながら話しかけなくても大丈夫。

「うー、仲いいっつーか、なんだろ? ガキの頃から知ってるから情が移った、って所かな」

 頭をひねりながら、男がそう言う。

「あ、オレ、フェンネル。フェンって呼んで。君、緋天ちゃんでしょ?」

「ええ? 何でみんなあたしの名前知ってるんですか?」

 フェンネルはそれに笑って答える。

「だって、有名だしな。まあ、蒼羽がバックにいるから、あからさまに声をかける奴は少ないだろ?」

「うーん。そういえば。やっぱ蒼羽さんてすごいんだ・・・」

「でも、本当に蒼羽が君に優しいからさ、オレ、すっごい驚いたよ」

 そう言ってフェンネルは話し出した。その横顔はとても嬉しそう。

「あいつはね・・・」


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