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気象予報士 【第1部】  作者: 235
絡まった糸を解く
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 カタン、と音を立てて扉を開ける。

「おはようございます・・・」

 バタバタと、カウンター横の扉の廊下の奥から足音を立てて、ベリルが走ってきた。

「緋天ちゃん!! 待ってたんだよ! 話があるんだ!」

「ベリルさ、・・・っ」


 話したい事が。聞いて欲しい事が。いっぱいあったのに。

 彼の顔を見たら、出し切ったと思った涙がこぼれて、止まらなくなった。


「落ち着いて。土曜日何があったか、ゆっくり話して」

 

 優しい声に促され。土曜日の行動を、全て話す。

 午前中は普通に話していた事。お昼を食べに、ベースに戻ろうとして、高校の同級生に会った事。その場で話し込んで、蒼羽を怒らせてしまった事。追いかけようとしたら、貧血で倒れて、目が覚めたら、蒼羽はまた普通に接してくれた事。

 

 


 

「蒼羽さんを怒らせてしまった事は分かってるんですけど。その後普通にしてくれたから。自分が恥ずかしくて。あたし、何でちゃんとできないんだろうって・・・」

 悲しそうに言う緋天は、とても痛々しく。泣きすぎたのだろう、目の周りが赤く、声も弱い。それでも彼女の行動がその言葉通り、蒼羽を腹立たせるという事はないと悟る。

「うーん・・・その話だと、何も問題はないはずなのになぁ。蒼羽は何を気にしているんだか・・・」

「え? 何かあったんですか?」

 あれだけ異様に自分を責めていたのだ。緋天の知らないところで何かあったのだろうか。

「あいつ、何か、緋天ちゃんを怪我させた、とか、その事以外に、何かを気にしてるんだ。私にも言ってない」

「・・・それは、あたしに対して何か怒ってるんです」

「それだよ!! 私には、蒼羽は別に緋天ちゃんに怒ってるようには見えないんだ。でも君の話だと、怒ってるように見えた。蒼羽が君を置いて先に歩き出したのは、緋天ちゃんが同級生と話してた時。その時すでに何かが蒼羽の中で気になっていたとしたら。そうだ、話の内容が原因だ」

 

「何を話していたか、思い出してくれる?」

「え? 始め、声かけられて。久しぶりだね、って」

「次は?」

「えっと・・・山岸君が、あたしが高校の時より、だいぶ変わったって言い出して。髪が伸びたね、って言って髪を触ったから、委員長の・・・えっと、木下君と細川さんが山岸君に注意して。あれ? 何でだろ?」

「緋天ちゃん・・・嫌じゃなかったの?」

「あの、別に変な人じゃないし。クラスメイトですよ?」

 根本的なその同級生の目的を理解していない彼女は純粋すぎて。苦笑するそれが、まぶしかった。

「・・・じゃあその次は?」

「えーっと。成田さんが蒼羽さんを見て彼氏なの?って聞いて。見たら10メートル位離れてて、それであわてて追いかけたんです。そうだ、離れてたから話の内容は蒼羽さんに聞こえてないですよ」

「話は聞こえてない、か・・・」

「やっぱり話し込んでた事に怒ったのかなぁ・・・」

 顔をくもらせてうつむく緋天は弱々しい。

「いや、だから、蒼羽は緋天ちゃんには怒ってないってば・・・・・・何か別の・・・」


 話をしているのを見ておかしくなって、緋天には怒っていないが、でもやはりその話に関係がある。


「ああ!!そうか、分かったぞ!!」


 単純に考えていたらすぐに思いつける事なのに。

 関る人間が蒼羽というだけで、どうしてもそんな世俗的な考えから遠ざかってしまっていた。


「え!! 何ですか?」

「うーん。ごめん。教えられない」

「ええ?何でですか?」

「変な行動の理由は分かったけど、蒼羽が気にしてる事はまだ分からないんだ。でもだいたい、あいつが考えているラインは見えた。今日話をしてみるから。緋天ちゃんは、とりあえず気にしなくていいよ」


 久しぶりに明るい気分を感じて、こんなに嬉しい事を自分だけが知っていてもいいのだろうかと思う。

 

「君が自分を子供だと思うなら。今はまだそのままでいいんだ。無理して、自分が思った事と違う行動をしたり、我慢して違う選択を取ったり。そんな事はしなくていい。その場で正しいと思う事をして。後から間違えてた、って気付いたり、反省する事も多いかもしれないけど。それはそれで勉強になるから。いい加減な事をしたりしなければ、誰も責めたりしない。温かく見守ってくれる。分かった?」

「・・・はい」

 本当は落ち込む彼女の手を取って、感謝の言葉を述べたいのだけれど。そんな事をしても、今の緋天にとっては何の解決にもならず。まともな意見を口に出す。そうすると、少しすっきりした顔をして、彼女は微笑んだ。

「よし。じゃあ、この話はおしまい。あと少ししたら、センターに行って。迎えの人が来てくれるからね、その人と一緒に。今日は一日センターで過ごしてね。緋天ちゃんが休んでたから、向こうはうずうずして待ってるよ」

「あ、三日も休んじゃったから、怒られるかな」

「それはないよ。何て言うか・・・こう、やる気満々だったのに、勢いをそがれて、無駄なエネルギーを有り余してる、って感じ。覚悟しといた方がいいよー、あの人達のパワーに押されないようにね」


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