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気象予報士 【第1部】  作者: 235
暗闇に堕ちる
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 辺りが暗くなってから、蒼羽はやっとベースに戻ってきた。

「お帰り。遅かったね」

 カウンターの中から声をかける。緋天を送り届ける間に、彼女に何か起こったのかと心配し始めていたのだ。

「駅の前で結晶に反応が出た奴を見つけて、追いかけてたんだ」

「ええ? じゃあ緋天ちゃん電車で帰ったの? かわいそうに」

 仕方がないとは言え、あれだけゆっくりと歩いていた緋天が、一人で帰ったのかと思うとやるせなかった。ゆっくりと歩いていたのは、足が痛かったからだ。それなのに、自分たちが心配すると思い、笑みさえ浮かべてみせたのだ。

 ふと蒼羽の顔を見ると、厳しい表情が浮かんでいて。拳を握りしめて、吐き捨てるようにつぶやいた。


「俺のせいなんだ」


 いつもと違う様子の蒼羽。

 そんな風に感情をあらわにする彼が珍しくて。少し居ずまいを正す。

「どういう事なんだ?」

「あいつが。後ろから声をかけたのに気付いてたんだ。それを聞こえない振りをして先に進んだ。そのせいであいつが倒れて、足に怪我させた」

 

 固く握りしめたその左手から。

 赤い血が落ちて。


「・・・蒼、羽」


 ぼんやりとそれを目で追って、ようやく我に返る。

「蒼羽!やめろ!!」

 カウンターから飛び出して、蒼羽の前に回り込む。


 これは何だ。


 何が起きている、と混乱して血の気が引いていくのが分かった。ああ、と呻き声を上げたくなりながら、勝手に口が開いていた。

 正論を。

 落ち着いて、正論を。

「・・・っ悪いと思ったのなら謝れ! お前が無視したのは悪かったけど、彼女が貧血で倒れたのはお前のせいじゃない」

「違う・・・」

 蒼羽は虚ろな目で自分を見る。すがるように。

「ちゃんと振り返って足を止めてたら、俺を追いかけようとして動く事もなかった。・・・ふらついたまま歩いて、自転車に跳ね飛ばされる事もなかったんだ!」


 こうやって、声を荒げるなんて。それも、悲痛な声で、訴えるなんて。

 目の前で取り乱す、彼が。

 数年前に見た、今の身長の半分程しかない子供の蒼羽と重なった。


「・・・最低だ」


 うつむいて、つぶやいて。

 うなだれる蒼羽がいつもよりも小さく、庇護の必要な子供に戻ったように見えた。

 何と返せばいいのか戸惑う。

 戸惑うけれど、ここで何も言わなければ、自分こそ数年前と何も変わらない。





「いいか? 過ぎた事はどうしようもない。分かるな?」

 ベリルのその言葉は。

 自分が昼間、彼女に偉そうに言った言葉で。

「お前が悪い事をしたと思ったならあの娘に謝れ。理解してもらうまで何度でも謝ればいい・・・。緋天ちゃんは、・・・心の広い娘だ。ちゃんと謝ったら、すぐに笑って許してくれるから」

 ベリルが微笑んで、自分を見る。

 何故そこで、簡単に許してくれるなどと、口にできるのだ。 

 

 

 ベリルにも言えない、黒い心を。

 彼女の弱った隙をついて現れた、黒い心を。

 体の内側を蝕んで、取り返しのつかない事をしそうな、黒い心を。

 

 彼女は笑って許してくれるのだろうか。

 このどうしようもない罪悪感を、その笑顔で浄化してくれるのだろうか。


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