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気象予報士 【第1部】  作者: 235
暗闇に堕ちる
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 二階から降りてきた蒼羽と自分を見て、ベリルが声をかけた。

「ああ、緋天ちゃん。電話しておいたから」

 その手には分厚い電話帳と携帯。

「本当に大丈夫なんですよ?」

「まあ、一応ね。念の為」

 ゆっくり歩いて、心配そうに自分を見るベリルの開けた扉を通る。

「じゃあ、申し訳ないんですけど。今日はこれで失礼します」

「うん。また月曜にね。痛かったら無理しなくていいよ。電話して」

「はい。お疲れ様でした」


 

 蒼羽と並んで駅に向かう。蒼羽が自分のペースに合わせて歩いているのが、今はどうも気まずく感じた。

 横断歩道で信号待ちをしていると、彼は眉間にしわを寄せて、首の鎖を引っ張り出しす。シャツから出てきた結晶が、黒を混ぜたような濃いオレンジ色の光を発して光っていた。

「・・・あ、蒼羽さん、もしかして・・・」

 彼は辺りを見回して、横断歩道の向こう側を歩いている、スーツを着た神経質そうな男性を見つめ。

「あいつだ・・・。悪い、一人で帰れるか?」

 その男から目を離さずに蒼羽は言った。

「大丈夫ですよ。あの人を追いかけるんですよね?」

「ああ。ちゃんと医者に診せてから帰れ」

「大丈夫ですから。えと、早く行って下さい」

「悪い」

 蒼羽は気遣わしげな顔を見せてから、背を向けて去って行った。

 

 

「これは今夜、だいぶ腫れるよー」

 赤くなった足を見て、医者が言う。

 絶対に足を引きずらないように、痛そうな顔を見せないように、ゆっくりゆっくり蒼羽の目の前で歩いてみせた。なぜかそうしないと、蒼羽を困らせるような気がしたから。

「痛み止めと、湿布、出しておくから。受付でもらって」

「はい、ありがとうございました」


 

 貧血で倒れる前に、蒼羽が見せた冷たい表情。

 目が覚めた時に見えた、何かに憤った横顔。

 両方とも、体が凍りつくくらいに自分を怯えさせたけれど。そんな表情を蒼羽にさせたのは、自分だという事が痛いくらいに良く分かって。その感情を向けられたのは、自分だという事も良く分かっていて。

 その後に、何事もなかったかの様に接してくれた蒼羽に、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 そういう事を考えないようにして、あれこれ話題を探したけれど。

 そんな、どうでもいいような話に反応して、蒼羽がピアスをくれた時は、その優しさが切なくて、泣きそうになった。


 帰り道、蒼羽が仕事をする為に離れた時は、心からほっとして。

 そんな自分が汚く思える。

 

 自分の何が悪いのか判っていない。

 相手にそれを聞く事も、謝る事もできない。

 それを考えないようにする為に、相手の優しさに甘えて逃げていた。


 アルバイトを辞めた時と同じだと気付いて。

 それを諭してくれたのは蒼羽で。

 今は誰も諭してくれる優しい人間はいない。


 

 青い石のピアスを見つめていると、とうとう涙がこぼれ落ちてしまう。

 右足が熱を持ってひどく痛む。

 これは自分への罰なんだ、と理解して。

 自分は子供なんだ、と思い知って。

 さらに涙が溢れた。


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