三百五話「クエスト暮らし」
「こっちにも生えてたよ」
「おお、そうか。じゃあさっさと採取するか」
「待つのじゃ! 絶対に妾の方が彰よりたくさん取るからな!」
「競争じゃありませんよ、レリィお嬢様」
彰、由菜、レリィ、メオ。
四人はガヴァに滞在して三日が経っていた。
現在はガヴァ近郊の森で薬草の採取を行っているところである。
薬草採取はクエストであり達成すれば報酬をもらえる。その日銭で日々を過ごしているというところだった。
(異世界にやってきて最初はとんでもな異常事態だったけど、何だかんだこのクエスト暮らしにも慣れてきたな)
ガヴァの村役場の掲示板に張り出されたクエスト。どうやらそうやって頼み事をするシステムがスタリシア王国では作られているらしい。
これまで彰たちが受けたクエストは落とし物探しや家事手伝い、物品の採取など地味な仕事ばかり。
荒くれ者や魔物の討伐といったクエストもあり、そちらの方が報酬は良かったが、彰はそれを拒否していた。
(由菜を一人にするわけにはいかない)
ここは異世界であって日本ではない。異世界初日には荒くれ者に襲われたのだ。ガヴァの町中の治安は良さそうだが、かといって完全に安全というわけでもない。
由菜を宿に留守番させることも考えた。レリィ、メオと一緒にいれば滅多なことは起きないだろう。その程度には信用している。
だがこれにはまた別の問題があり、彰がいないと『言葉』の効果が無くなり、由菜はレリィ、メオとも意思疎通が出来なくなる。
特に娯楽も無く誰とも話せない部屋に一日置き去りにするのもしのびなく、こうして由菜も一緒に出来る易しめのクエストを選んでこなしているという次第であった。
「あー、一体いつまでこんなことせんといけないんじゃ」
最初こそ威勢の良かったものの飽きてきたのか文句を言い始めるレリィ。
「もちろん目標の金額が貯まるまでですよ、ほら手を止めない」
メオが諫めにかかる。
目標の金額。
俺と由菜には元の世界に戻る、みんなとまた合流するという目標があるが、勝手の分からない異世界において現状はレリィとメオさんに付いていくことにしている。
その二人の目標はというと、どうやらここからかなり離れたスタリシア王国でも辺境に位置するトーゲ村という場所に行くことらしい。
とても歩いて行ける距離じゃないので馬車に乗っていくらしいが、その旅費がどうにも辺境で遠くあるため高くなるらしい。
そのためこの辺りでも一番の町、ここガヴァに滞在してクエストをこなしているというわけだ。
「また言い争ってるんだ、あの二人」
手に持ったたくさん持った薬草を置きにきたついでだろうか、由菜の言葉。
「いつものことだな」
「……うーんやっぱりレリィって良いところのお嬢様なのかな?」
「お嬢様という存在が地味な作業を嫌うっていうのは偏見だが…………まあメオさんっていう従者を連れてる時点でそうだろうな」
「だったらどうして二人だけなんだろう?」
当然の由菜の疑問。
レリィとメオの素性……この三日間でもそこまで踏み込んだことは聞けなかった。まだ二人との距離感を測りかねている。
「俺たちだって異世界から来たってこと言えてないんだ。あっちにだって秘密にしたいことの一つくらいあるだろ」
「まあ、そうよね」
「………………」
「………………」
不自然に会話が途切れる。幼馴染みで気心の知れた二人にとっては珍しい空気だ。
「じゃ、じゃあ私はあっちの方探してくるから」
「お、おう」
ギクシャクしたまま解散する。
(由菜の様子……元の世界の頃と違うよな……。いや異世界に来てるんだし変わって当然か……)
この異世界でもいつも通り振る舞えているのは由菜のおかげだが、その由菜がいつも通りじゃ無くて調子が狂う。
何が原因なんだろうか……?
(いつも通りじゃ駄目よ……彰はこの異世界でいっぱいいっぱいなんだから……自重しないと)
この三日間だって彰は何も言わないけど、私がいるせいでこんな地味なクエストを受けているに決まっている。
少しでも負担を負担を減らすために採取頑張らないと!




