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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十二章 夏の始まり
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二百八十八話「荒くれ者」

 武器を構えた荒くれ者は剣呑とした雰囲気を隠すこともしない。


「……ん、二人増えたか? まあいい、まとめて刈るだけだ」


 彰と由菜を一瞥した後、臨戦態勢に入るその男。

 彰は突然の展開に付いていけない。


「ちょ、どういうことだ!?」

「その反応、やはり仲間ではなかったのですね」

「仲間な訳があるか! ……ああもう察するにあいつから、メオさんたちは隠れていたってことだな?」

「……ああ、そういえばお嬢様が名前を言ってましたね。そういうことです」

 彰は女性、もといメオに確認を取る。


「追われている理由は何だ!?」

「理由ですか……難しいですね。強いて言うなら私たちが金目の物を持っていそうだと思われたから、でしょうか?」

「は?」

 メオの平然とした答えに、反応に困る彰。

「山賊紛いの行為ですし、彼らが生きるためとも……いえ、それとも彼らがいたこの道を通ってしまったせいといえるでしょうか?」

「えっと……本気で言ってるんだよな?」

「もちろんです」

 どうやらメオに嘘を吐いている様子はない。


 山賊……今日日きょうびその単語を現実で聞くとは思わなかった。 

 ここはそれほど治安の悪い場所ということなのだろう。生きるために犯罪に手を染める輩がいる場所。

 日本語が通じなかったし、外国ならそういう場所があってもおかしくないか。

 相変わらず、ここがどこで、何故俺たちはここにいるのかという疑問は付き纏うが。


「厚かましいことで恐縮ですが……お願いがあります」

 するとメオの方が、荒くれ者から視線を切らないまま頼んできた。

「分かっている。こいつを撃退しろ、ってことだろ。そのために俺が頼りになりそうなのか監視していた」

 彰は先回りして答える。

「……そういうことです」

「だったら答えはYESだ。……どうせ俺たちも標的にされているみたいだしな。由菜、少し離れていろ」

「うん」

 由菜を遠ざけて彰も戦闘態勢に入る。


 やつの武器……使い慣れているな。

 片手持ちの斧。すり減った刃や、血を吹いた跡からリアルさを感じる。山賊というのも納得の話だ。

「武器も持たねえガキが何言ってやがる」

 こちらを舐めきった態度。反抗の意を示されても臆した様子はない。戦い慣れているのだろう。


「……」

 だが、相手が悪かったな。こっちは能力者だ。

 この期に及んで、相手は能力を使用する様子はない。戦闘中に使うタイプなのかもしれないが、彰は直感的に無能力者だと判断した。

 無能力者に対して能力を使うのは少しだけ気が引けるが、人を傷つけようとしているやつに容赦しても意味がない。

 それに……無能力者相手に能力を使えば異能力者隠蔽機関が来るはずだ。

 隠蔽機関はあの封印について何か知っているはず。ラティス達に話を聞けばこの事態の謎も解ける。


「まさに一石二鳥だな……さっさと片づけてやる」


 彰は風の錬金術を発動。

 魔力を消費して風を起こし金属化。虚空から右手に剣を出現させる。


 さて、能力にビビっている間に先制して――。




「ま、まさか……おまえ能力者なのか!!?」

 荒くれ者は能力を見て過剰に驚く。

 だが、その驚きは手品を見たときのような度肝を抜かれたものではなく……まるで親の仇敵を見つけたときのような憎悪の混じった驚き。


 つまり、やつの反応は……。

「能力を知っている……?」

 どうして? そんな一般人がいてはいけないはずだ。異能力者隠蔽機関によって無能力者から、能力の存在は隠蔽されていないとおかしい。

 何らかの能力を知る組織の構成員なのか? いや、そのような様子は無かったし、それにどうして能力者を恨んでいる…………?


 続くつぶやきは彰をして心胆を寒からしめた。

「虚空からの剣の出現……おそらくBランクか」

「っ……!」

 Bランク。異能力者隠蔽機関のハミルが言っていた、能力の分類法。能力による強さではなく、事象改変度の大きさによって、ABCで分けられる。

 確かにハミルは俺の錬金術がBランクだと言っていた……それをどうしてこいつが知っている……!?

 雷沢さんも知らなかった。前に確認したとき、能力者ギルドの執行官ルークさえも知らなかった。そんな情報をどうしてこんな荒くれ者が……!




 封印の穴を落ち、この場所に来てから覚えた違和感の数々。


「…………」

 悪い予感がしてきた。

 それは目の前の敵に対してではない。


 俺たちが降り立ったこの場所に対してだ。


 これはもしかして……大変なことに巻き込まれたんじゃ……。




 ピィ~~~~~~~ッ!!


「能力者が……それもBランクのやつがこんなところを通るとは思わなかったぞ。だが好都合だ……おまえらは確実に、殺す」

「っ……!」

 気づくと荒くれ者は首にかけていた笛をくわえて吹いていた。骨を加工して作られたそれは、甲高い音を響かせる。

 ちっ、考えるのは後だ! まずは目の前に立ちふさがる脅威を片づけなければ。

 笛を鳴らした意味は分かる、この場所を知らせるためだ。それにメオは言っていた……『あいつら』に追われていた、と。


「何事っすか!!」

「ここにいたのか……手間をかけさせやがって!」

「獲物を独り占めしないなんて珍しいっすね。まあ俺たちも楽しめるなら大歓迎っすけど」

 音を頼りに、荒くれ者の仲間が集う。

 その数八人。それぞれに使い慣れていると思われる武器を持っているのは一緒だ。

 彰たち四人は完全に包囲される。


 数の差は絶対的。それにこっちは内、女が三人だ。有利な状況に浮かれる荒くれ者たちに、

「油断するな! そっちの男はBランクの能力者だ!」

 笛を吹いた、雰囲気からしてリーダーの男は仲間に注意を呼びかける。


「へぇ……」

「なるほど……こんなところにいるとは珍しいじゃねえか」

「…………(ギリッ)」

 その一言で、七人の目にも濁った殺意が灯る。


「やっぱりか……」

 こいつら荒くれ者の仲間たちも能力者について知っている。もちろんランクについても。

 そしてどういうわけか、Bランクというところにも重きを置かれているように感じた。

 にしても能力者を恨むって……何の背景があってそんなことに……。



「妾の出番じゃな」

 周囲を警戒する彰に、いつの間にか少女が近寄っていた。彰の肩に手を置いて、ドヤ顔をしているが付き合っている余裕はない。

「邪魔するな、やつら本気だぞ」

「分かっとるわい。それより八人も相手にして勝ち目はあるのか」

「……そんなの知るか。やらなきゃ死ぬだけだろ」

 少女の指摘は図星だ。

 自分一人だけならどうにでもやりようがあった。錬金術なら多対一もこなせる。相手の攻撃から逃げながら一人ずつ潰していけばいい。

 しかし、彰は由菜を含めたこの三人を守りながら戦わなければいけない。

 この三人を狙われては対応を迫られ、煙に巻きながら戦う方法が封じられる。そうなってはかなり厳しいだろう。

 だとしてもこの三人を置いて逃げる選択肢は彰にない。

 守るために戦う。その信念を捨てるくらいなら、死んだ方がマシだ。


 彰の苦渋の表情を見てポンと手を打つ少女。

「なんじゃ、苦戦は見えているのだな。つまり妾の出番じゃ。力を貸してやろう」

「しつこいぞ! おまえに何が出来るってんだ!?」

「なっ、おまえじゃと!? 妾には立派な名前が、レリィという名前が付いておるのじゃ! さっきから無礼じゃぞ、お主!」

「だからそんな場合じゃねえ!」

「……ああもう怒った! 力を貸そうと思っていたが、お主が謝るまで――いたたたたっっ!!?」

「レリィお嬢様、さっさとしてください。死にたいのですが」

 メオがレリィの頭を鷲掴みにする。


「はん、仲間割れか! 行くぞ、おまえら! 俺たち四人で男を狙う! そっちの四人で女どもを狙え!」

 それを好機と見たリーダーが号令をかける。俺が由菜たちを守るだろうということを分かっているその命令。

 くっ、厄介な。


 八人が迫る中、メオは鷲掴みしたまま命じた。

「ほら、来ました。さっさと能力を使ってください」

「いたっ……分かった! 分かったから離せメオ!」

「能力……?」

 そういえば……メオさんは『私たちの能力』と口にしたことがあった。つまり……このレリィとかいう少女も能力者なのか。


「全く酷い目にあったわい……。少年! この場を切り抜けたら、土下座じゃからな!」

「何でもいい! 力があるなら貸せ!」

 言い争うだけ時間の無駄。猫の手でも無いよりはマシ、と彰はレリィに助力を求める。

「……まだまだ反抗的じゃが、まあさっきよりは良くなったな」

 レリィはこんなときなのに鷹揚にウムとうなずくと、また彰の肩に手を置いて。



「発動! 『強化ブースト』なのじゃ!」



 能力を発動した。

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