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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十二章 夏の始まり
299/327

二百八十六話「謎だらけの地」

 …………………………。















 ザザッ…………ザザッ…………。

 聞こえてくるは葉擦れの音。周期的なそれはちょうどよい子守歌。


 漏れ照らすは日の光。

 夏の凶暴な日差しも、木々に遮られ和らぎ心地よさを演出する。


 広がる地面はほどよいひんやりさ。

 熱を吸われた身体の正面、日光で熱くなった背面。一度寝返りを打てば、それは逆転しいつまでも寝ることが可能に…………。


 あれ? 寝る?


 えっと…………確か……。

 一番最近の記憶を引っ張り出す。

 地図にない島を探索中に見つけた封印……俺たちはその底なしの穴に落ちて死んだんじゃなかったのか……?

 いや、死んでいたらこの意識が残っているはずがない。

 つまり…………。


「生きてる……?」


 高野彰は起き上がる。


「んっ…………」

 そして彰の覚醒の気配が伝わったのか、釣られてもう一人の少女も起き始めた。

 穴に落ちていく中、真っ先に助けるため握った手そのままに彰は声をかける。


「起きたか……由菜?」

「彰……………………って、あれ? 私たちどうしたんだっけ? 何か穴に落ちていった気がしたけど……私まだ寝ぼけてる?」

「……いや、十分に起きてるぞ」


 把握しきれていない由菜だったが、謎だらけの現状を前に彰も大差は無かった。




 しばし何をすればいいのか分からずにぼーっとしていたが、これではいけないと周囲を確認する。


 まずおかしいところが、近くに人影が彰と由菜の二つしかないところだった。

 封印の穴を一緒に落ちていったはずの恵梨、彩香、火野、火野妹、雷沢、光崎の姿が見当たらない。

「……みんなどこ行ったんだ?」

 先に起きてこの場を離れている? いや、そうだったら俺たちを起こさない理由が無い。

 だったらそもそもこの周囲にはいなかったとしたら……俺たちが偶然助かっただけで、他のみんなはあの穴で……。

「………………」

 いや、考えるのはよそう。絶対どこかで無事でいるはずだ。


 次に周囲の風景を観察する。精査するまでもなく違いがいくつも見つかった。

 封印のあった山の頂上は開けた場所だったのに対して、ここは木々に囲まれ見通しが悪い。

 地図にない島にも森はあったが、木の種類からしてここはその森の中でも無いようだった。いや、そもそも木々の隙間から見える遠景に山が混じっているのがおかしい。ここは海のど真ん中の島じゃなかったのか?

 得られた結論は新たな疑問。

「ここは――どこだ?」

 どうして穴を落ちた先にこんな風景が広がっているんだろうか。


 目に見える範囲にある情報はこれだけ……分かることが少なすぎるな。

「ね、ねえ、彰? こ、これってどういう状況なの……?」

 由菜も状況を分かってきたようだ。声が震えている。……能力者のことを知っていても、騒動に巻き込まれたのは初めてだ。話で聞くのと、体感するのでは大きく違うだろう。

 安心させるためにも大丈夫だと言いたい……のだが、それだけの根拠が無い。せめて現状の推測を伝える。

「あの封印はおそらく異能力者隠蔽機関が隠しておきたかったものだ。理由は世界の秩序を守るためのはず。その封印の先にあった穴に落ちた結果、こんなところにいる理由は分からない」

「じゃ、じゃあ恵梨は! 彩香さんは! ……みんなはどうしたの! どうして彰しかいないの!?」

「それも分からない……すまん」

「え……いや、だって……そんな……!?」

 みるみる恐慌状態に陥る由菜。

 パニックを起こす寸前、それでも俺に大丈夫と無責任な言葉は吐けなかった。だから。


「安心しろ」

「……え?」


 由菜の肩を掴み、顔をつき合わせて宣言する。


「みんなは絶対に生きている。そして由菜も絶対に俺が守る。結上市に……いつもの家に送り届けるから……だから安心してくれ」

「彰……」


 詭弁だ。現状すら把握できていないのに、どうして絶対なんて言えるのか。

 それでも気持ちは宣言した通りだ。

 絶対に無事で家に戻る。それ以外の結末は認めない。


 その思いが伝わったのか、由菜の表情からは徐々に恐怖が消えて、いつもの調子になり……通り過ぎて顔が真っ赤になる。


「……顔が近いって! そ、それにずっと手も握りっぱなしだし……!!」

「え、ああ……すまん」

「あ……」


 デリカシーが無かったかと反省して離れる彰。言うことに従ったのに、由菜が残念そうな表情をしたのは何故だか分からなかった。




「……うーん、そうね。悩んでいても仕方ないわよね! 前向きに考えて行きましょ!」

 由菜の吹っ切れた風な声に感謝しつつ、彰も意識して明るい声を出していく。

「そうだな! よし、検討だ! ここはどこか、思いつく限り考えてみるぞ!」

 現状を把握できなければ対処が出来ない。情報がこれ以上見つかりそうにないため、今あるものだけで推測するしかない。


 由菜が手を挙げて発言する。

「はいはーい! あの穴を落ちた先がここだった、って可能性は無いの?」

「『何と地底には、地上と変わらず青空や森が広がっていたのだ!?』という展開か。あり得なくはないが……だったらどこから落ちてきたんだ?」

 彰は空を見上げる。分かってはいたが、いつもと変わらない空が広がるばかりで、穴のような物は見つからなかった。

 一度見えなくなった空がどうしてまた広がっているのか、どこから落ちてきたのかという疑問が解けない限り地底説は難しいだろう。


「それもそうか……なら夢落ちとか? 穴に落ちたのも……いえ、いっそのこと地図にない島さえも夢だった………………とか?」

 言いながら自信が無くなってきた由菜は、彰の頬をつねって確かめる。

「いててっ!? 俺の頬をつねるなっ!」

「やっぱり違うか……にしてもどうして夢かを確認するときに頬をつねるんだろうね? デコピンでも手を叩くでもいいのに」

「知らねえよ!? ってか、自分の身体でやってくれ!?」

 声を荒げながらも彰は安堵していた。

 現実逃避かもしれないけど……こんなときでもふざけたやり取りが出来るのは余裕がある証拠だ。思い詰められてもいいことはないしな。


「……私からは以上であります!」

 アイデアの尽きた由菜が敬礼姿で報告する。

「そうか。じゃあ俺の考えは……やっぱり何らかの能力が関わっているって可能性だろう」

「え…………あ、そうか。封印も能力だったわけだし、あの穴も能力によって作られた可能性はあるわね。……そもそも底のない穴なんて普通あり得ないし……」

 気づいたら全く知らない場所にいた……そして海も見当たらないということは地図に無い島とは全く別の場所のはず。

 そんな事態を起こせる能力……候補としては。


「あの穴を落ちた瞬間にどこかに瞬間移動させられたとかかな」

「……つまりあの穴はワープホールだった。入るとどこかに飛ばされるってことね」

 Aの地点の穴に入ると、Bの地点に飛ばされる。ゲームなどで聞く言葉である。

「どうしてあんなところにあったのかは分からないが……それなら隠蔽機関としても見過ごせないはずだ。ワープホールなんて世界を揺るがす発見だし、それが能力由来の物なら隠蔽するだろう」

 安定して運用できるなら輸送革命になる。……まあでも、こうやってどこに飛ぶか分からない代物だったら欠陥品だが。


「なるほど……他には?」

「この見えている景色が全部幻影だった場合だな」

「これが? でもすごいリアリティよ?」

 由菜は地面を触りながら、懐疑的な表情になる。

 彰も自信のある説じゃなかったため、由菜の反応はもっともだと思った。思いつくだけで多くの問題点がある。

「由菜の言う通り、これだけの雰囲気、触覚、温度全てを完璧に再現できる能力なんて強力すぎるし、この景色全てが幻影だったとしたら魔力が感じられるはずだし、そもそも穴から落ちた俺たちに誰が能力をかけたのか。術者は現在どこにいるのか…………………………………………………………」

「……? 彰、どうかしたの?」

「しっ!」

 口前で人差し指を立てて静かにするようジェスチャー。

 突然の事態に置いてかれる由菜の前で、彰は何かを確かめた後、風の錬金術を発動してナイフを作り出し掲げる。



「そこにいるやつ出てこい! 出てこなければ敵意があるとみなすぞ!」



 近くの藪を睨みつけながら彰は言い放つ。

 もし幻影をかけている術者がいるとしたら、俺たちを近くにいるはず。そういうわけで何気なく周囲の魔力反応を確認してみると……極々かすかな魔力反応がそこから感じられたのだ。

 いつからいた? 注意してようやく感じられる魔力反応。最初からいて、俺が見落としていたとしてもおかしくはない。

 何者かは知らんが……ちょうどよく俺たちの周囲にいて、隠れて監視している能力者だ。この事態に無関係だとは思えない。


「由菜、俺の後ろに隠れていろ」

「う、うん」

 由菜を背中にかばうようにしながらも、全神経を能力者の隠れている藪に集中。

 魔力反応は継続中。警告に対して、謎の能力者に逃げる様子はないが、代わりに出てくる様子もない。

 どういうつもりだ? まだバレていないと思っているのか?

 まあいい、とりあえず威嚇だ。


 彰はナイフを魔力反応から少しだけ外した場所に飛ばした。


 ガサガサと音を鳴らし、ナイフは地面に突き刺さる。手応えは無い。


 威嚇だったためその結果は想定通りの物。


 しかし、対する能力者の反応は予想外。


「○×△!!? ○×△!!」

「……○×△」


 というのも藪の中から、怒った様子で聞いたことのない言語をまくし立てる少女と、それを取りなす落ち着いた女性が無防備に現れたからだった。

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