百八十七話「ハロウィン変事10 彰VSディール1」
始まった彰対ディール戦。
お互い距離を詰め合って、最初の位置からちょうど中心で激突。
剣のリーチを生かして彰が先手を取った。
「うらぁっ!!」
大きく振りかぶってからの斬り下ろし。
「デオクレタカ……!」
ディールは腕をクロスしてブロック。
刃のついた剣に対して生身の腕。
普通なら腕が途中からスパッと斬れて、相当スプラッタな絵になりそうだったが。
ガンッ!!
まるで金属と金属がぶつかり合ったような音がしてディールが弾き飛ばされる。
「ナッ……!?」
器官で強化した腕によってガードに成功はしたもの、驚いているディール。
「おいおい、そんな暇は無いぞ」
弾き飛ばした方、彰は余裕の表情だ。
「ナニヲ……ッ!?」
ディールも言い返そうとして、こちらに飛んでくる緑色のナイフに気付く。
交差した次の時には彰が精製を完了させ飛ばしたナイフだ。
「クソッ……!!」
ナイフの本数は二本。
足元を狙ったそれに反射的にディールは後ろに飛びのいてかわそうとするが。
「……!! 器官、足! 力の強化!」
何かに気付いて能力を再発動。
と、同時にナイフが地面に刺さる。
「よくデータを見ているようだな。……解除!」
彰は最初からディールに当てる気の無かったナイフを解除。風に戻すプロセスを行うと。
バンッッッッ!!!!
爆発音が鳴り響く。
爆発の正体は風。
必要以上の風を用いて金属化を行う、風の圧縮金属化を施したナイフを解除したために起きた現象。
その直撃を受けたディールはひとたまりもない……はずだったが。
「グッ!!」
その技をサーシャに渡されたデータで知っていたため、間一髪のタイミングで足の強化が間に合った。
体勢を崩しそうなところを踏ん張ってこらえるディール。
その結果風に押され後退するだけに留まった。
「ちっ、さっさと終わらせてやろうと思ったのによ」
体勢が崩れた瞬間を狙って詰めていた彰だが、無駄に終わったことを知り、立て直しに距離を取る。
「……ドウシテダ?」
「何が?」
風を耐えきったディールからの質問。
「データノスウジト、マルデチガウ。サイショノコウゲキモ、ツギノカゼモ」
「……まあ、そうだろうな」
二ヶ月前の俺だったら、最初の激突の時にディールの防御に弾かれてたたらを踏んだか、いいとこお互いに飛ばされたくらいだっただろう。
一方的に弾き飛ばすほどの力を出せたのはこれまでの修練の成果だ。
威力の上がった風の圧縮金属化も同様。
だが。
「それを素直に教えてやるほど俺もお人よしじゃ――」
「能力と動きをシンクロさせたのか」
「……手を出さないんじゃなかったのか?」
あっさりとネタばらしをしたのは観戦中のサーシャ。
「手は出していない。口を挟んだだけだ」
「屁理屈を」
「圧縮の方もより多くの風を取り込んでいる。……どちらも努力の成果が見られるな」
「そりゃどうも」
彰がディールを圧倒したのは、サーシャの言う通りのことをしたからだった。
剣を振る際に、自身の腕の動きだけでなく、錬金術を使って剣自体も動かす。その二重の力を持ってしてディールの防御を突破したのである。
この技自体はGWの試合時に彩香がやってみせたのだが、彰は能力の扱いに慣れておらず今まで使うことが出来なかった。それをこの二か月の間で会得したのだ。
圧縮の強化も能力の扱いに慣れた結果だ。
「……ドウヤラ、サイショノコトバハ、ホントウノヨウダナ」
「ハッタリだと思ってたの……かよ!!」
彰もただ相手のおしゃべりに付き合っていたわけではない。
話している間に量産しておいたナイフを並べて一斉に投射。
「フンッ!!」
魔力の反応からそれを推測していたディールは先からかけておいた足の強化を生かして跳躍。
自らの背の高さを優に超えるそれで、ナイフを全て回避する。
「ダガ、オマエノノウリョクノ、ホンシツハカワラナイ。キョリヲトレバ、コウゲキガタンチョウニナル」
「ナイフを投げるくらいしか無いが、全て軌道は直線でかわしやすい」
サーシャが口を挟む。
「……けど、距離を取ってたらおまえだって攻撃できないだろう?」
『器官』の本質は肉体強化だ。近距離の肉弾戦しかこちらにダメージを与える手段は無いはず。
「ソンナコトワカッテイル」
言われるまでも無いとディールは能力を行使。
「器官、足! 速度の強化!」
これまで二回の力の強化と違って速度の強化。
「フンッ!」
「うおっ!?」
瞬く間に彰に肉薄し、蹴りを放つディール。
虚を突かれた彰は慌てて盾を作って受ける。
が、すぐにディールは受けられた右足を軸にして左足で回し蹴り。
「くっ!」
盾をスライドして受けるが、その間にディールは次の攻撃の態勢に移っている。
「ドウダ、トラエラレマイ!」
前後左右にステップして、彰に反撃の隙を与えないまま攻撃を続ける。
それを受けるので精一杯の彰。
「……調子に乗るなよ!!」
「ホザケ! ナニモデキナイ、ガキガ!!」
威勢のいいことを言う彰だが、現実には反撃のチャンスを掴めていない。
徐々に回転率を上げる攻撃に、防御が追いつかなくなり。
「ココダッ!!」
ディールの渾身の蹴りががら空きの腹に突き刺さ――
ピタッ。
ろうとして止まった。
「……!?」
上げた足が何かに阻まれたような感触を返す。のに、その何かが目に映らない。
「残念だったな!」
その機を逃がしはしない、と思い切って剣を振る彰。
上半身を狙った攻撃にディールは、
「……っ!? 器官、腕! 力の強化!」
何とか腕を強化して受け切ろうとするが。
「フェイクだ……っ!!」
彰はすぐに攻撃目標を変更。腕ではなく足を狙って剣を振り下ろす。
ズバッ!!
「ギャアアッッ!!」
足を斬られたディールが喚き散らす。
が、我を失ったわけではなく、強化した腕を振り回して彰の追撃を拒む。
至近距離でランダムに振られる腕に、近づくのも困難と判断したのか彰は一旦攻撃を中止。
「クソガキガァァァァッ!!!!」
血が流れ続ける足を抑えてうずくまりながらディールは吠える。
「……クソガキで結構。そのクソガキにしてやられているおまえのほうが、よっぽどだがな」
だがその気迫にも彰は押されない。
「……器官、足! 回復の強化!」
冷ややかな彰の対応に冷静さを取り戻したのか、ディールは足の治癒を急ぎながら考える。
このガキ……さっき俺の足が止まるのを分かっていたな。でなければあんなにスムーズに攻撃に移れないはずだ。
つまりあの事態はあのガキが引き起こしたこと。……データには書いてなかったが……やつの能力にそんなことが出来るのか……?
それに。
「器官ノジャクテンニキヅイタノカ……」
「まあな」
彰はうなずく。
「おまえの器官の強化は大きい。能力のブーストを受けた俺の剣を止められる程度にはな。……だが、その代わり強化を受けられるのは一度に一部位までだ」
そうだ、かけられるなら腕の強化と足の強化を同時にかけた方がいいはず。それが出来なかったから、強化していない足を斬られてダメージを受けた。
「正直に言って今まで戦ってきた肉弾戦系能力者……全身強化される上に獣の本能が付く『獣化』、相手の動きを全て読み切る『未来』……やつらの方がよっぽど脅威だったぜ」
「……ソコマデ、コケ二サレテハ、ダマッテイラレナイナ」
足の傷が塞がったディールは立ち上がる。
結構治癒のスピードが速かったな……これじゃあ余程の攻撃をかけないと倒せなさそうだ。
ディールにかけた挑発とは裏腹に、彰は全く油断していない。
そもそもこの治癒力もあの二人には無かった力。
「それに……」
この二か月彰は二人の師に教えをもらっていた。
能力の使い方などの基礎的なことを教わったのが風野藤一郎で、能力者の戦い方という応用的なことを教わったのは雷沢だ。
雷沢さんの言葉を借りるなら……まだやつは本気を出していない。
能力をそのまま使っている間はまだ本気を出していない証拠。応用的な使い方をしてから本番だと。
俺にとっての圧縮金属化だったり、蹴りを止めた新技だったり、そういう裏技をディールだって持っているはずなのだ。こんな依頼を受けるプロの能力者なのだから。
だから挑発してさっさとそれを出させるように誘導したが……さて、どうなるか?
「ワタシノ器官のジャクテンハ、キョウカシタブイイガイヲ、ネラワレルコト。ダッタラドウスレバイイノカ?」
坦々とした声。今にも溢れ出しそうな感情を抑えているディール。
「………………」
「Easy.コウゲキヲ、サセナケレバイイ」
英語交じりに言ったディールに対して、
「そんなことできるわけないだろう?」
彰は返す。
「ニホンデハ、コウゲキハ、サイダイノボウギョ、トイウンダッタナ?」
「……そうだが」
「ソノシュダン二、テカズヲフヤス、トイウノガアル」
「………………」
手数を増やすって……こいつ何をする気で……。
「ダッタラ、ソレヲオコナエバイイ」
「それはしただろう? けど、無様に俺にやられて……」
「チガウ。……マアイイ。ジッサイニミセテヤロウ。器官ノホンキヲ!」
そしてディールは唱える。
「器官、四本腕! 力の強化!」
メキッ……メキッゴキッバキッ!!
ディールの体内から異音が発せられる。
「なっ……!?」
まさか……そんなことが!?
彰が驚愕する間にディールは能力の発動を終える。
「ココカラガ、ホンバンダ」
ディールは彰に対して新たに生えた腕二本を加えて、四本の腕を構えた。




