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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
七章 ハロウィン、明かされる秘密
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百八十四話「ハロウィン変事7 謎解き」

 電車から黒人男性が降り、結上駅に立つ。

「フウ。ヨウヤクツキマシタネ」

 その正体は能力者ギルドの一員。日本の能力者の調査、の依頼を受けた者だ。

 依頼内容も単純、すぐに終わるだろう。……その割には良い報酬額だな。

 改札を通ったその時まで――一人の少年に声をかけられるまではそう思っていた。


「ようやく来たな。おまえ、『器官オーガン』の能力者……だろ?」








 由菜家の外。能力者四人が集まっている。

「――まず今回の事態、彰さんの様子がおかしくなったことですが……まずは最初から振り返ってみましょうか」

 恵梨の解説フェイズが始まった。

「最初は恐らく四時間目のことです。彰さんがそわそわしだして……きっと異能力者隠蔽機関から能力者ギルドが訪れたことを知らされたんだと思います。方法はハミルさんの『念話テレパシー』でしょう。

 その次は昼休みの始まり。彰さんは嘘をついてまで私たちから離れました。理由は能力者ギルドに対して一人で対応するため。……前から自分の犠牲でみんなの日常を守れるなら本望だ、と言っていた彰さんですから間違いないでしょう。

 ここまでは普通の事態。放課後に先生と一緒に推測した通りなのだと思います。……ですが、ここからが難解極まりない。彰さんがまるで別人のようになってしまうという出来事が発生しました」

「そうやで、結局どうして彰はおかしくなったんや?」

 火野の質問に恵梨は優菜の協力でたどり着いた真実を伝えた。


「火野君の質問は正確にいうと間違いです。正しくは……そもそもここにいるのは彰さんじゃないんです」


「彰やない……?」

「そ、それって……」

「………………」

 衝撃を受けたのか、彰の方を見る二人。だが、彰は黙ったままその視線に答えるだけだ。


「肯定も否定も無しですか……。まあいいでしょう、続けさせてもらいます。

 別人ならここにいる彰さんそっくりの人物は誰なのか。先生と一緒に雷沢さんの話を聞いたときは、ギルドの能力者が彰さんをおかしくしているという結論に達しました。そのまま考えるなら、ギルドの能力者が彰さんに化けていることになりますが……」

「そうやないのか?」

「はい。ギルドの能力者が関与しているとなると、おかしなことが一つあるんです。異能力者隠蔽機関についてです。

 彼らは彰さんにギルドの情報を渡しています。なら、その戦闘の結果も知っていておかしくないでしょう。……それなのに、こんな結果になったことを私たちに一言も伝えて来ないんです」

「確かに……。直接伝えるのが無理でも『念話テレパシー』を使えば大丈夫なはずよね」

 彩香の言う通りだ。


「それに彰さんが別人だとしたらおかしなことがもう一つ、どうして私たちのことについて知っていたのか、ということです。

 これが彰さんに化けているのが姿、形、記憶までコピーする能力……だったりしたら説明が付きそうですが、そうしたらどうして優菜さんの質問に答えられなかったのかという疑問が浮き上がります。それに思い出したのですが、彰さんは生徒会長の毬谷さんと副会長の古月さんの名前も答えられませんでした。それも記憶をコピーしていたら考えられない事態でしょう。

 だからこの人が中途半端に彰さんの記憶を持っている理由は……やはり中途半端に教えられたからなのだと思います」

「教えられた……って誰になのよ?」


「そんなの簡単でしょう? 彰さんの記憶を教えることが出来るのは……彰さんしかいません」


「「……!?」」

 恵梨の答えが予想外だった二人。


「でも……それっておかしいわよ! どうして彰が自分の偽物に自分の記憶を教えないといけないわけ!?」

「……一つ勘違いをしていませんか? 彩香は無意識に偽物=敵だって考えていますよね?」

「俺もそう思っていたけど……違うんか?」

「先ほども言った通り、異能力者隠蔽機関が何も言ってこないことから、彰さんの偽物は敵ではないはずなんです」

「けど、日本の能力者にはこんなことが出来る能力の持ち主はいないはずよ!」

「そうですね。日本の能力者にはいません……が、私たちの味方には一人こういうことが出来る能力者がいましたよね?」


 恵梨は視線を彰の姿をした誰かに向ける。


「その様子だと……気づいているようですね」

 彰の声で話される女の口調。猛烈な違和感に恵梨は自分の考えが正しかったことを確信する。

 そして恵梨は答えを言い放った。




「そろそろ本当の姿に戻ってくれませんか。――異能力者隠蔽機関のハミルさん」




「………………」

 彰が光に包まれる。能力の解除が始まったのだろう。

 光が晴れて、現れた一人の女性。

「正解です。よく分かりましたね」

 ハミルはそのように言うのだった。






 ふう、どうやら私の推理は当たっていたようですね。

 恵梨は安堵の息を付く。

 雷沢、優菜、美佳の三人に助けられてようやくこの事態を把握できた。……彰さんならもっと早く気付き、的確に対処していたでしょう。……彰さんに追いつくにはまだまだ精進が必要ですね。


「ど、どういうことや……? 彰が女に……」

「……そういえば言っていたわね。文化祭の裏で行われた、犯罪者モーリスの捕獲。そのときにモーリスの娘に化けて改心させたっていう」

「私の『変装ディスガイス』見たことのある人と姿、形を一緒にする能力と『声変化ボイスチェンジ』聞いたことのある声に変化させる能力です」

 異能力者隠蔽機関のハミル。その身に宿した能力は多数。今判明しているだけでも『探知サーチ』『念話テレパシー』『言葉ワード』そして『変装ディスガイス』『声変化ボイスチェンジ』がある。

 たぶんこれで全部じゃないんでしょう……。これだけだったら多数とは言わないはずです。


「それにしても私が化けていた彰さんはそんなに変でしたか?」

「おかしいなんてものじゃないわよ……」

「別人やって言っても通じたで」

「おかしいですね……結構似ていると思ったんですが……」

 首をひねるハミル。

「まあハミルさんは不真面目な状態の彰さんと会ったことがありませんからね」

 自分たちが異能力者隠蔽機関と会うときはいつも能力者に関することが起きたとき。つまり彰さんが真面目なときなのだ。

 いつも何だかんだで事態を解決する彰さんを見てれば、それは美化してもおかしくありませんね……。


「まあ彰の正体がハミルさんやったってことはこれで一件落着やな。結局能力者ギルドも関わってなかったってことやし」

「そう……なのかしら」

 火野の気楽そうな物言いに、彩香は何かしこりが残っているような反応。


「……とんでもないです。ここからが本番です」

 そうだ、私の考えが当たっているなら今頃……。

「ここからって何や?」

「考えても見てください。どうして彰さんはハミルさんにこんな自分の真似事をしてもらうように頼んだんでしょうか?」

「それは……」

「わざわざ嘘をついてまで昼休みに抜け出したこと。昼だけとはいえ、いつも勉強を大事にしている彰さんが授業を他の人に受けさせたこと。そんな彰さんらしくない行動に加えて、彰さんのフリをさせたハミルさんを使ってまでパーティーを開かせたのは――」



 恵梨は地団駄を踏みたい思いだった。

 あれだけさせまいと警戒していたのに。彰さんは文化祭、夏祭りと続けて今回も……。



「私たちに日常を過ごさせ、自分は一人で能力者ギルドの依頼を受けた者を倒しに行くためです」











 能力者ギルドの依頼を受けた黒人の能力者は動揺していた。

 それもそのはず。


「ドウシテ、ココニイルノデショウカ、タカノアキラ?」


「さあな。考えてみろよ」


 段階を踏んで行う予定だった調査。

 それ故にまだ接触すべきでなかった調査対象――高野彰が目の前にいるからだった。

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