百八十三話「ハロウィン変事6 パーティー本番2」
由菜さんと昔した約束……どうして優菜さんはそんな質問を……?
「あ……」
この場合質問の内容は関係ないんですね。
本当の彰さんしか知らないことを聞いて、答えられなければそれで彰さんではないことが分かる。
……まあ、もちろん質問自体も気になるんですけどね。
由菜さんとした約束……幼なじみという関係性を考えると、ベタだがもし将来結婚する約束なんて出てきた場合由菜さんに一歩リードされてしまう。
「お、お母さん!? 何聞いてるのよ!」
「いいじゃない、気になったのよ」
「それなら私が教えましょうか?」
「美佳!!」
「……ちょっと彰君本人から聞きたいからごめんね」
美佳からの申し出を断る優菜。……それより、どうして美佳さんは知っているんだろうか?
「や、約束……というと」
それにしても彰さんの様子もおかしい。今まで発揮していた如才なさが無くなっている。
「そ、そういえば今日は一緒に帰ろうって約束をしましたが」
「何言っているのよ。そんな約束じゃなくて……もっと大事な約束があるでしょ?」
「えっと……」
「これまでにした一番大事な約束を教えて?」
もし別人だったとしても答えられるようなものでは納得できない。
「あ、彰も無理して言わなくていいのよ? というか言うな」
動揺が大きいのか由菜の口調が荒い。
「えっと由菜がそう言ってますが……」
「無視していいわよ。あんなの恥ずかしがっているだけなんだから」
「お母さん!!」
……母親がああだと苦労してそうですね、由菜さんは。
「分かりました。……俺が由菜とした一番大事な約束は」
そうしている間に、覚悟を決めたのか彰が口を開く。
「約束は?」
「……由菜と結婚するって約束したことです」
「ほ、本当にそうなんですか!?」
まさかのベタな展開に恵梨が大きく反応する。
「ど、どういうことよ彰! 説明を要求するわ!」
彩香も同じのようだ。
「どういうことと言われても……幼稚園の頃におままごとしてその流れでな。……今でもその約束は生きているのかな、由菜?」
くっ、この流れは……っ! ここで由菜さんが頷いたら、由菜さんEND一直線になってしまう。
こんな切り札があったなんて由菜さんは…………由菜さんは……。
「あれ?」
「………………」
彰さんの問いかけに俯いたままの由菜。
どうしてでしょうか……私だったら歓喜している場面のはずなのですが……。
「………………」
「………………」
顔を暗くしているのは美佳と優菜さんもだ。
どちらもいの一番に由菜さんを弄りだしそうなのに……?
「彰……それ、本気で言っているの?」
「確かに今の俺の態度じゃ疑われても仕方がないな。でも……」
「ちゃんと答えて」
言外にふざけないで、と告げている由菜。どうも雰囲気が恋愛のそれではなく、詰問のそれになっている。
「……本気だ」
「そう……」
その答えをもらうと由菜さんは踵を返す。
「どうしたんですか、由菜さん!!」
「別に……ちょっと体調が悪くなったから、部屋で休んでくるわ」
「でも……」
そう言われて言葉通り受け取れる訳が無い。
「………………」
だがそれ以上は話すつもりはないと、リビングを出て行く由菜。
「優菜さん」
「ええ、分かってるわ。……ちょっと由菜の様子を見てるから、みんなは気にせず楽しんでちょうだい」
美佳と優菜は慌てていない。由菜がどうしてああなったのか分かっているようだ。
気にせず楽しんでと言われても……。
「じゃあ食べるか」
「なあ、仁志。どっちがたくさん食べられるか勝負せんか?」
「おおっ! いいな、それ!!」
……あのバカ二人ぐらいしかそんなことできない。
「それにしても……今の反応」
由菜さんは全く喜んでいなかった。
ということはさっき彰さんが行った結婚の約束というのは……。
「嘘なのよ」
「……!? 美佳さん……」
いつの間にか美佳さんが隣まで来ていた。
「嘘って……」
「私の知っている由菜と彰がした一番大事な約束は結婚なんかじゃない。……あ、本当は何なのかは本人たちから聞いてね。私が話すことじゃないから」
「そうですか……」
結婚じゃないとしたら、どんな約束なのでしょうか……?
って、そうじゃない。そっちも気になるけど……結婚と言ったのは誤魔化しで、その約束を答えられなかったということは。
――あれは彰さんじゃない可能性が高い。
だとしたら……どういう事態になっているんでしょうか、今?
おそらく能力者ギルドが絡んでいることは間違いないはずなのだ。
だとしたら……ギルドの人が彰さんに化けているのだろうか?
しかし、何のために? これも科学技術研究会が言う調査なのだろうか……?
それに……未だに胸のモヤモヤは晴れない。
彰さんが偽物だったと聞いて、幾分かは晴れたがそれでも残っている。
雷沢さん、優菜さんといろいろ助言をもらったのに、それなのに未だこの事態の全容が把握できない。……もし彰さんだったら、既に思いついて的確な動きを実行しているだろう。
彰さんに対等と見てもらいたいなら……これくらいはできなきゃいけないのに。
「テベス・ノカタ・ラキア・ダクサノ……」
「ん、何か言った?」
悩みすぎて思わず口をついて出た、雷沢から教えてもらった呪文。美佳に聞かれる。
「あ、これは教えてもらった呪文で……えっと『魔法探偵ミライ』でしたっけ、その作品で出ている謎解き魔法の一つらしくて」
「……変ね」
「まあおかしいですよね。こんな呪文の効力を信じているなんて」
「いや、そうじゃなくて」
笑い話に持って行こうとしたら、美佳にシリアスで返される。
「私、その作品を読んだことがあるのよ。……けど、そんな呪文聞いたことも無いわ」
「え? ……その、夏に海に一緒に行った雷沢さんって人に教えてもらったんですが」
「ああ、あの人に」
「あんまり嘘を付くタイプの人では無いはずですが……」
だとしたら雷沢さんの記憶間違いなのだろうか? けど、あの人がこういうことを間違えて覚えるとかあまり考えられないですし……。
「ちょっともう一回聞かせてもらえる?」
「いいですよ。テベス・ノカタ・ラキア・ダクサノ……です」
「……えっと、どういうことなのこれ?」
「分からないですか?」
やっぱり意味のない呪文だったのだろうか?
「いや……分かったからこそ聞いているのよ」
「分かったって……?」
「簡単な暗号よ。逆さ言葉。……区切りごとに逆さに読んでいくとこんな文章が出てくるのよ」
美佳は丁寧に説明して、そして結論を言った。
「『スベテ・タカノ・アキラ・ノサクダ』……『全て高野彰の策だ』これってどういうことなの?」
数分後。
「彩香、火野君……そして彰さん。ちょっと来てもらえますか?」
「いいけど……」
「ちょうど勝負も一段落付いたしいいで」
「こと他ならぬ恵梨の頼みとあれば、聞かないわけが無いな」
「…………ではあちらに」
彰の歯の浮くような言葉にも、恵梨は表情を変えない。
そしてパーティー会場であるリビングを出て、そのまま由菜の家の外まで来る。
「どうしてこんなところに……」
「すいません、他の人に聞かれるわけにはいかないので」
十月となると夕方でも少し肌寒い。仮装のまま出てきたので、あまり防寒性は良くない。
早めに話を終わらせましょうか。
この寒さもですが、私の考えが合っているなら時間をかけている場合ではない。
「今進行中の事態に関して全て分かったんです」
「全てって……」
「どういうことや?」
「………………」
彰さん……いや、彰さんの皮を被った偽物は何も言わない。
まあいいです。……では始めましょうか。
最初の言葉は……そうですね。雰囲気を出すためにも探偵の真似事でもしてみましょうか。
「さて――――」




