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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
七章 ハロウィン、明かされる秘密
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百八十二話「ハロウィン変事5 パーティー本番1」

 彰による被害者が三人出たせいで、ぐだぐだなまま始まったハロウィンパーティー。


「で、結局ハロウィンパーティーって何するんや?」

 優菜が作ったサンドイッチを両手に掴み食べる火野。

 彼の仮装はフランケンシュタインのようだ。頭にネジをつけ、継ぎはぎのペイント、ボロボロの白衣を着ている。

「知らねえ。食べてればいいんじゃねえか」

 同じく仁志。

 仮装はオオカミ男。オオカミの面を被っていたのだが、サンドイッチを食べるために外している。そのためオオカミの生首が置いてあるようになっていて、中々に恐怖だ。


「ハロウィンって言えば、トリック・オア・トリート言ってお菓子をもらって回るところだけど……実際日本じゃあまり浸透してないし、難しいよね」

 近所の家を訪問しても、ポカンとした顔で対応されるだろう。

「お菓子をくれなきゃいたずらをするぞ……か。……由菜にだったら、いたずらされてもいいかな」

「な、何を言ってるのよ彰!!」

「本当どんなところからでもそういう話に繋げるのね……」

 美佳が彰の節操無さに呆れる。


「それにしても彩香の仮装も決まっていますね」

「あら、ありがと」

 彩香の仮装は姫さま衣装。レースのたっぷりついたふんわりとしたスカートに、頭の上にはティアラを載せている。剣道少女で鍛えている彩香だけに、こういう女の子らしい衣装は新鮮だ。



「さて、料理の追加を持って来たわよ。じゃんじゃん食べてちょうだい」

 優菜が両手に皿を持ってリビングに現れる。

「おっ!? マジか、こんなに食べていいのか!?」

「今日は食べるでーー!!!」

 仁志と火野が歓喜の声を持って迎える。

「優菜さんの料理は本当においしいから手が止まらないね」

「あらあら、お世辞でも嬉しいわよ」

 優菜にまでそんな言葉をかける始末の彰。そう言っている割には、いつもと違って一つ一つを丁寧に食べている。




「………………」

 ハロウィンパーティー無事に開けて良かったですね。

 恵梨はそんな光景を見ながら感傷に浸る。

 ただ仮装して飲み食いしているだけ。何が面白いのかと言われても具体的には言葉にできないが、みんなで集まって騒ぐっていうのはそんなものだろう。とにかく楽しいのだ。


 ここ最近は彰さんの入院や、中間試験で集まる時間も無かったからこういうイベントは久しぶり。

 企画してくれた由菜さんには感謝しないとですね。


 ……惜しむらくは、彰さんがおかしくなっていることですが……しばらく時間を置けば能力も解いてもらえるとのことですし、この状態でも楽しむことにはそこまで支障が無いですし良しとしましょう。

 それにしてもこんな能力もあるんですね。私の錬金術のような戦闘系、ハミルさんの『探知サーチ』のような補助系以外の、ステータス異常を起こす能力。結構レアな気がしますね。

 ………………って、あれ?

「能力?」

 ……おかしいですね。こんな人前で能力が使われていたら、異能力者隠蔽機関がやってきてもおかしくないはずなのですが……?

 それに彰さんが異能力者隠蔽機関の情報で能力者ギルドの迎撃に向かったとしたら、隠蔽機関は彰の戦闘の顛末を知っているはずなのだ。こんな結果になったのなら、私たちに一言くらい状況を説明してくれてもいいではないか。もし仮に本来の業務に忙しくてもハミルさんの『念話テレパシー』で伝えてくれればいいのに。

 それなのに一向に私たちの前に現れないのは……。

「何か事情があるから……?」

 ……分からない。

 それにしても雷沢さんの話を聞き終えたときに感じた違和感はこれなのでしょうか……?


「……いえ、違いますね」

 胸のモヤモヤは晴れない。まだ何か気づいていないことが……。


「どう? 恵梨ちゃん、楽しんでいる?」

「あ、優菜さん」

 キッチンから出てきた優菜が恵梨に声をかける。追加の料理も出てきたし、ここらでいったん休憩でもするのだろう。

 そういえば優菜さん……出迎えたときからエプロン姿で、仮装はしてないみたいですね。

「さすがに私が仮装しても浮くと思ってね」

「優菜さんなら似合うと思うんですけど」

「……手強いわね、恵梨ちゃん。少しくらい驚いてもいいのに」

「そんなやわな少女じゃないですよ、私は」

 心を読んだというのに、何のアクションも無く返した恵梨に、優菜は面白くない顔をする。


「……まあいいわね。それで話は戻すけれども、楽しんでいる?」

「はい。それはもちろん。……こうやってみんなで集まる機会が最近無かったですから良かったです」

 嘘を付く場面でもない。当然のように本心を話す恵梨。

 しかし、それに優菜はあっけにとられた顔をした。

「えっと……それは本当に言っているの?」

「? はい、そうですけど……」

「………………」

 考え込む優菜。


 どうしたんでしょうか……?

 そんな反応を返されると思っていなかった恵梨は戸惑う。

「その、優菜さん? 何が気になっているんですか? 私は本当に楽しいって思って……」

「いいえ、気になっているのはそこじゃないのよ」

「そこじゃない、って……?」

「楽しいっていうのは私じゃなくたって分かるわ。……問題なのはその前。『みんな』って部分よ」

 優菜はパーティーの一角、彰のいる方向を指さす。


「あんな状態なのに……みんなって言うの?」


「………………」

 そういうことですか。

 優菜さんも彰さんがおかしいことに気付いている。それなのにみんな揃っていると言っていいのか、と。

「確かに彰さんはちょっとおかしくなってますけど、それでも彰さんは彰さんに違いないですし」

 これで優菜さんが頷いてこの話は終わり。

 そう思っていたのに、優菜はますます顔を厳しくする。

「……そういうことね。気づいていないからさっきみたいな言葉が出てきた、と」

「気づいていない……って、何にですか?」

「彰君の本当の状態によ。知ってて黙っているのかと思ったら、ただ知らないだけだったのね」

「………………」

「そうよね、知っていたら今の彰君をおかしいなんて表現しないもの」

 優菜は合点の行ったように首を振る。


 さっきから優菜さんは何を言いたいのでしょうか……?

 私を知らないと言うには、優菜さんは知っているということだろう。

 けど、そんなはずありません。

 能力も何も知らない優菜さんが今の状態を正確に把握できているわけが無い。


「科学技術研究会」

「…………え?」

 聞こえてきたその単語に、一瞬自分でつぶやいたのかと錯覚する。

 しかし、違う。確かに目の前にいる優菜の口から発せられた言葉だ。

「日本の国家直属の一般からは隠された組織。その中でも能力者研究部門では、超常の能力という題材を取り扱っている」

「どうしてそれを……?」

「私は美佐子ちゃんとも長い付き合いがあるのよ。彼女が隣に引っ越してくる前までどんな仕事をしていたかくらいは聞いているわ」 美佐子……そういえば、彰さんの母親でしたか。

 科学技術研究会の創設メンバーにその名前が記されていたことを思い出す恵梨。

「恵梨ちゃんが抱えている事情も何となく分かるわ。もちろん能力のこともね」


「………………」

 まさかここまでとは……。

 聡明な人だとは思っていた。しかし、それでも一般人の範疇は超えていないと思っていた。

 しかし、実際は能力のことも知っていて、今の彰さんの状態にも何か気づいている。

 ……敵いそうにありませんね。

 恵梨が優菜の圧倒的強者感に打ちひしがれている間も、優菜の話は続いていた。



「だから今の彰君が……おかしくなったんじゃなくて、全くの別人だっていう私自身の推測を笑うことができないのよ」



「別人……っ!?」

「そう。だから今の彰君を含めてみんなって表現するのはおかしいと思ったのよ」

 そんな……だってあれは姿、形、声、どれを取っても彰さんにしか見えない――

「そういうのを偽装する能力があってもおかしくないわよね?」

「それは……」

「私だってあり得ないとは思うわよ。……でも、言動はともかく細かな癖まで全く違う、となると姿、形、声だけが同じの別人だって疑いたくなるのよ」

「………………」

 そんな可能性が……あるのだろうか? 

 けど、そもそも私だってあれが彰さんなのかと何回も疑問に思ったではないか。加えて彰さんと長い付き合いである優菜さんが言うのだから、あながち間違いでも……。


「まあいいわ……それなら確かめてみましょう」

「どうやってですか」

 確かめるって……まさか能力を解除させるとかでもするのだろうか。……優菜さんも何か能力を……?

「そんなもの無いわ。……でも本人かどうかを確かめるなんて簡単でしょう?」

 意味ありげな言葉を残して、彰の方に近づいていく優菜。


「ちょっといいかしら、彰君」

「どうしましたか、優菜さん?」

 ……あんな自然に対応する彰さんが別人だなんてそんなはずが無い。だけど……もしかして……?



「こんなこといきなり聞いておかしいとは思うでしょうけど……由菜と昔した約束について覚えているかしら?」



「や、約束……ですか?」

 この状態になってから始めて困惑する様子を見せる彰だった。

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