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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
六章 体育祭、自覚する気持ち
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百六十二話「死闘 能力VS能力2」

「彰!!」

「高野!!」

「大丈夫、彰!? しっかりして!!」

「意識がないようだな。……あんまり揺らさない方がいい、風野」

「先生……ですけど……!!」

「それとそのナイフも抜かない方がいい。刺さったままの方が止血の代わりにもなるし……って、ナイフが消えた!?」

「錬金術で作られたナイフだから、魔力のつながりを切ると……!」

「くっ、このままじゃ血が流れすぎる! 何か止血できるものを!!」



「ぐはっ……!!」

「火野!?」

「高野がいないから一人で戦闘人形ドールを受け持って……」

「そんなの無茶よ!! ……恵梨! 火野の援護を……って、恵梨! 聞いているの!?」

「放心しているみたいだ。……風野、火野の援護に行ってくれ!」

「ですけど、先生が無防備に」

「ここまでサーシャは結局何もしてこなかったんだ。これからも干渉するとは思えない。……それより今は、高野に続いて火野もやられる方が心配だ」

「…………」

「高野のことが心配なんだろう。……けど、このまま戦闘人形ドールをのさばらされては全滅だ。戦闘人形ドールを押さえなければ、君も高野も死ぬんだ」

「……分かり、ました。彰のことお願いします!!」

「任された」

「………………恵梨、あなたも早く復帰してね」



「くくく、まずは一人。上出来だ、戦闘人形ドール。その調子で残りもやれ」

「………………」

「やらせないで!!」

「くっ、こんな数の剣を彰は裁いていたのね…………!」

「押さえたはいいが、血の流出が完全には止まらない……! このままでは……!!」





「………………………………………………………………………………」

 せわしなく動く味方を、敵を。

 恵梨はボーッと眺めていた。


 その瞳は虚ろ。徒然と思考が流れていく。




 彰さん、いつまで倒れているんでしょうか……?

 これもさっき先生に撃たれたフリと同じでナイフが刺さったフリなんでしょう。

 ……あれ? 私いつの間に血糊を用意したんでしたっけ。

 ……まあ、いいですか。そんな些末なこと。彰さんなら私なんかじゃ思いつかない方法でどうにかしたんでしょうから。



 ああ、火野くんと彩香が戦闘人形ドールに苦戦していますね。

 けど大丈夫ですよ。すぐに彰さんがそんな敵倒してくれますから。彰さんならそこまでの計画が見えているに決まっています。

 それまで待っていてくださいね。



 それにしても先生どうして彰さんの前で慌てているんでしょうか……?

 あ、そういうことですか。サーシャを騙すための演技なんですね。彰さんが本当は無事だけど、それを悟られてはいけないから先生がさも重傷人のような扱いをすることで信じさせる。

 うふふ、そういえば私たちを裏切ったときも直前までそれを気づかせませんでしたからね。先生、結構演技上手なんでしょう。



 サーシャと戦闘人形ドール

 憎き敵の二人ですが……滑稽ですね。

 自分たちが勝つことは揺るぎない事実だと思っているでしょうけど、これから彰さんに無様に負けるのだと思うと本当に道化にしか見えない。





 ……う~~ん。そろそろ彰さん起きないんですかね。

 さすがに火野くんと彩香も危なくなってきましたし。……まあ、彰さんのことですからギリギリまで粘って私たちを驚かすつもりなんでしょう。

 もう本当に子供っぽくイタズラ好きなんですから、彰さんは。



(…………………………う……………)



 遅いなあ、彰さん。



(……………………がう………………………………………………)



 早くしないと。



(…………………………………違う………………………)



 私を助けて傷つくなんて。



(違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う)



 彰さんの計画らしくな――――



「違う!!!!!!!!」



 そうじゃないでしょう!!


「認めるんだ」


 でないと先に進めない。


 彰さんは私を庇ってやられたのだと。




 恵梨はのろのろと首を動かして、彰に視線のフォーカスを合わせる。


 あれが本当の血……なんですね。

 彰は奇しくも血糊を使った場所と同じところを負傷している。絵の具で汚れていた服をさらに汚している。

 しかし血糊と本当の血の違いは一目瞭然だった。何というか生々しさが全く違う。


 あれが彰さんの体を動かしていた物。

 それがたくさん外に出て……………もしかして。



 彰さんが、死ぬ?



「そんなことあるはずがない……」

 あの彰さんが簡単に死ぬわけがない。

 頭の中ではそう思っても、一度浮かんでしまったその想像は振り払い難い。


「……どうして…………。どうして、あなたたちは私の家族を奪うの……?」

 お父さんもお母さんも研究会に殺された。

 もう十分じゃないか。

 何故新しくできた家族、彰さんまで私から奪うのか。




「っ、火野!? 大丈夫なの!?」

「……大、丈夫や。『念動力サイコキネシス』を自分の体にかけて吹っ飛ばしたから致命傷は受けてへん。……けど、魔力が……」

「よそ見をしている暇があるのか、小娘?」

「……え? きゃぁぁぁぁっっ!!?」

「火野! 風野! …………くっ、こうなったら俺が囮になる! その間に水谷だけでも逃げろ!」



 どうやら火野くんに彩香もやられたようだ。

 先生が何か私に声を…………え、逃げろって……。



「また……こうなるの……?」

 フラッシュバックする両親の最期の記憶。

 あのときもお父さんとお母さんは私に逃げるように言った。


 私は……半年前と変わらないっていうのか?

 みんなを犠牲にして生き永らえるのか?



「そんなの……嫌だ……」

 また我が身を失ったのかと錯覚するほどの喪失感が襲うのだと考えると耐えられない。


 私はこれからもみんなと一緒に過ごしたい。

 そんなささやかな願いが今にも踏みにじられようとしている。


 だったらどうすればいい?


「抗うしかない……」


 四月の時は一人じゃ全く敵わなかった。

 そのときからさらに強くなって、今は四対一を物ともとせず一蹴した。


 目の前に立つ敵、戦闘人形ドールはそんな強大な力を持つ。


 それを相手に一人で勝てるのか?


「けど、やるしかないんだ」


 もう何も失いたくないのなら。

 ここで戦闘人形ドールを退ける以外に選択肢はない。



 腰のホルダーに付けた水筒が震える。


 そうだ、ちょうどいい。

 彰さんと対等な立場に立つためにも、恩は返しておかないと思っていたところだ。

 四月に戦闘人形ドールから守ってくれたそのお返しに。

 今さっき私を庇ってくれたお返しに。




「今度は私が守ります」




 パキンッ!!

 水筒が割れた音がした。

 内部の水を金属化させ、内側から破ったのだ。



「水谷……?」

「先生は下がっていてください」

 腰に付けた水筒は二つあった。一つは剣に変えそのまま構え、もう一つは水に戻して状況に備える。



「くくくっ、どうやらやる気のようだな、水谷。お友達三人がやられても、なお諦めないその闘志には感心」

「黙れ」

 ごちゃごちゃうるさいサーシャに一喝。


 あっちは無視していい。

 問題なのはこっち。



戦闘人形ドール……」


 こちらを警戒している戦闘人形ドール



 彰さんが倒れた。

 火野くんが倒れた。

 彩香が倒れた。


 全部、あの戦闘人形ドールが行ったこと。


 だけど、その原因の何割かには私も含まれているのだろう。

 四月の対峙の最終盤。私は戦闘人形ドールを殺せたのに、殺さなかったのだから。



「………………………………………………………」


 これは、けじめだ。



「…………………………す……………………」



 あのときの過ちを、今、正す。



「………………………………………………ろす……………………」



 そのためには理性なんて物は邪魔でしかない。


 今必要なのはブレーキじゃなくてアクセルだ。



「………………………………殺す…………………………………」



 だから恵梨は彰が暗黒面ダークサイド、美佳が裏恵梨と呼ぶ、感情の暴走を意図的に起こした。



「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す………戦闘人形ドールッッッッ!!!!!!!!!!!!」






「くくっ、あまり吠えるな。底が知れるぞ」

 サーシャは余裕たっぷりに嘲る。

 今さら自分が何もする必要はない。すでに戦闘人形ドールには命令を出している、全員殺せと。




 互いの命を狙う恵梨と戦闘人形ドール


「うあああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!!!!!!」


「…………………………………………!」


 恵梨は叫びながら戦闘人形ドールに向かって一直線に駆けた。

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