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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
六章 体育祭、自覚する気持ち

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百六十一話「死闘 能力VS能力1」

「これは……っ!!」

 殺意を込めて迫る尋常ではないナイフの数に押され、反射的に逃げ出そうとする恵梨。だが、彰に腕を掴まれて止められる。


「俺に任せて離れるな!」


 そして一本のナイフを投ばす。……膨大な数のナイフ相手に、彰は一本しか使わない。



「え……!?」

 恵梨はその行動が無駄だと思った。

 ナイフの質量も数も違いすぎる。子供と老人の経験の差ほど圧倒的な開きがある。


 これなら私も援護した方が……というより彰さんも一本だけじゃなくてもっと投げたら……。

 あわてだす恵梨をよそに彰のナイフは飲み込まれる。


 そして。


「解除!」


 壁が吹き飛んだ。

 何が…………いや、そういえばこんな光景を一度見た覚えがある。


「えっと……圧縮金属化、ですか?」

「まあ、そういうことだ」

 必要以上の物質を使って金属化することによって、解除したときにそれをまき散らす。それが錬金術の技の一つ、圧縮金属化。

 彩香との試合の最後に一回使ったのは見ましたが……そのときより威力が上がっている気がしますね。

 それだけ彰も能力の使い方が分かってきて、魔力の運用効率も上がってきたということなのだろう。



 ナイフの壁が左右に割れていく。さすがに壁自体を押し返すまではいかなかったようだ。ちょうど自分たちがいる場所を避けて行くような格好。

 離れるな、って言ったのはこれが予想できていたからなんですね。下手に動き回ったら当たってしまうということで。


 そして完全にナイフの壁が左右に分かれて。


「………………」


 その空いた道を戦闘人形(ドール)が剣を手に持ち突っ込んできた。


「……っ!?」

 いつの間にこんなに接近を……!?


「あいつナイフの壁を目隠し(ブラインド)に突っ込んで来やがったな……!」

 彰はすぐに事態を把握。

「火野と俺が応戦する。恵梨は援護。彩香は先生を守ってくれ!」

「OKや!」

 返事するや否や飛び出す火野。


「……そうね。サーシャがこのまま座して見守るとも決まっていないし、先生に護衛は必要よね」

 彰の危惧は戦闘人形(ドール)を囮に能力者を引き出して、サーシャが『交換(リプレイス)』で畑谷を攻撃すること。つまりサーシャが戦闘人形(ドール)一人に任せると嘘をついた可能性だ。

 それが伝わった彩香は畑谷の守りを引き受ける。


「分かりました!」

 一人に三人でかかっても攻める場所が無くなるだけ、ってことですね。

 指示の意図を理解した恵梨も了解する。


「よし。……じゃあ行くか!!」

 彰も火野に続いて戦闘人形(ドール)に特攻する。



 戦闘人形(ドール)はというと、火野と彰の接近を関知して迎撃体勢に移る。

「………………」

 具体的には空中に八本の剣を錬金術で作り出した。

「…………!」

 そして突っ込んでくる火野と彰に四本ずつ繰り出す。



「この数を操りきるんか……!?」

「これじゃあ本体にたどり着くのも大変そうだな……」

 それならこれで、と彰は空中に二本の剣を作り出して対応する。




 さすがにさっきの数は操りきれないようですね……。

 先ほどは百本を下らない数のナイフを作り出し飛ばした戦闘人形(ドール)だが、それを制御できたのは単純に真っ直ぐ飛ばすという操作だったから。

 人に向かって斬りかかるだとかそういう複雑な操作になると、八本が限度だということだろう。


「まあ、それでも十分にすごいですが」

 自分なら体を動かしながら操作するのは二本で限界だ。彰さんや火野くんも同じようだ。




「そうだ、恵梨。援護に行く前にこれを持っていって」

 結局サーシャは動いていないので、現在手持ちぶさたとなった彩香が自分の水筒をこっちに投げる。

「ありがと、彩香」

 恵梨の能力、水の錬金術は文字通り水を使う能力だ。畑谷戦で自分の水筒の水をかなり使ったので、どこかで補給しないといけないとは思っていた。


「それとこれと、これも」

 さらに二つの水筒を投げる。

「これは……?」

「彰と火野の水筒よ。さっきサーシャと話している間に荷物から抜いておいたわ」

「勝手にですか?」

「緊急事態よ。しょうがないわ」

 悪びれもせずに言う彩香。


「……そうですね」

 自分の水の錬金術は他の錬金術のように、自らの魔力を使って材料を錬成できない。その分変換スピードなどの利点はあるのだが、やっぱり水がつきたら無防備になるというのは大きな弱点だ。

 そう考えると、水はどれだけあっても困らない。


「そうだ、先生のも使ってくれ」

 畑谷も自分が持ってきたスポーツドリンクのペットボトルを取り出して渡す。

「ありがとうございます…………けど」

 さすがに現在でも三つの水筒をもらっているのに、これでは荷物が重くなりすぎだ。


「まあ、こうしましょうか」

「……ん、何をしているの、恵梨?」

 背中を向けて作業をしだした恵梨が気になり、声をかける彩香。


「すいません、これは返します」

 そして彩香の分と火野の分の水筒二つとペットボトルを返す恵梨。

「えっと……あ、もう空なのね」

「はい」

「中身を移し変えたの?」

「……さあ、どうでしょう?」

 恵梨は曖昧に微笑んで、腰のホルダーに自分の水筒と彰の水筒をくくり付ける。


「それでは援護に行ってきます」

 駆けだした恵梨の右手首には青いブレスレットが付けられていた。






 たどり着いた前線では戦いが熾烈を極めていた。


「さっきから全く近づけてないで! どうするんや彰!」

「今はとにかく耐えろ!」


 戦闘人形(ドール)は彰、火野と二対一でも互角に……いや圧倒していた。

 空中で動く剣はまるでそれ自体に思考機能が備わっているように高度な連携を見せて彰と火野を攻撃する。それに加えて戦闘人形(ドール)も自在に動くので、九人を同時に相手しているような物だった。

 彰と火野も空中に剣を作りだし操作はしているが、二人とも二本が限度。操作する本人も合わせて、合計六人分。

 そう考えると、単純に1.5倍の戦力差があった。


「うわっ…………」

 想像以上の苦戦に顔を暗くする恵梨。

 四月の時とは完全に別人ですね……。

 こっちもあのときよりかは成長しているとはいえ、戦闘人形(ドール)の変化は劇的だ。


 1.5倍の差を埋めるために、やっぱり自分も攻めるべきかと考えたが、今でさえ剣が入り乱れて混沌とした戦場に自分も加わってはさらに同士討ちの可能性が高まる。自分以外全て敵である戦闘人形(ドール)に利する行為だ。


 ここは遠くからの援護をしつつ気を窺う……この方針で行きましょうか。


 恵梨が方針を決めたところで、戦況の変化はすぐに起きた。


「ぐっ……!」

 戦闘人形(ドール)本体とつばぜり合いをしていた火野が押し飛ばされる。

 体勢を崩しながら後退する火野。それに対して戦闘人形(ドール)は追撃を剣を一本飛ばすに留めて。


「…………!」

 残り七本の剣と自分自身全てを使って、彰に攻め込んだ。


 火野くんがすぐには復帰できないことを見越して、背中を心配しなくてよくなったから彰さんへの全力攻撃(フルアタック)。体勢を崩した火野くんとどちらを攻撃するかは判断が分かれるところですが、戦闘人形(ドール)はそっちを選択したということですか……。


 四本の剣でも互角だった彰だ。七本プラス戦闘人形(ドール)に攻められてはたまらないだろう。



「はっ……!!」

 だから彰を少しでも助けるために恵梨は一息に三本のナイフを錬金術で加速させて放つ。

 少しでもこちらの防御に意識を削がれれば、何本かの剣を防御に回させれば……そう思っての攻撃は。


「………………」

 戦闘人形(ドール)にも空中の剣にも触れられず逸らされた。


「えっ……!?」

 今のは……風?

「……もしかして、金属化する前の風だけで防がれたのですか?」

 風の錬金術の能力発動プロセスは、一に魔力で風を生み出し、二でその風を金属化させる。

 恵梨のナイフはそのプロセス一。生み出した風によって軌道を逸らされたのだろう。


 ですが、そこまでの強い風を生み出すことが可能なんて……。

 錬金術で生み出す風は金属化を前提に作られるから、そのままだと安定しない。それを強引に使えるレベルにしたのは、戦闘人形(ドール)の強化された力と技術によるものだろう。



 何にしろ恵梨の攻撃を意に介さず防いだということは、それだけ戦闘人形(ドール)は攻撃に集中できるということ。

「彰さん……っ!!」

 七本の剣と戦闘人形(ドール)が一斉に彰に迫るのを見て、恵梨の叫びはほとんど悲鳴だ。



「………………!」

 頭から足まで狙われていない部位は無いレベルで繰り出される戦闘人形(ドール)の攻撃には一切の躊躇がない。彰を本気で殺しにきている。

 防ぎきるにはどう考えても手元の剣と空中の二本の剣では足りない。


 だが、彰はこの状況で不敵にも笑ってみせた。



「このときを待っていた!!」



 そして手に持っていた剣をポイッと手放す。



「…………っ!?」

 彰さん何をして……!?

 三本でも足りるわけないのに、手に持っていた剣を捨てたらさらに防げなくなる。 




 もちろんそんなこと彰も当然分かっている。

 だから仕込んでいた策を発動させた。


「解除!」


「…………!?」

 突如巻き起こる暴風が戦闘人形(ドール)とその操る剣を吹き飛ばす。

 その発生源は今しがた彰が手放した剣があった空間から。




「最初から圧縮金属化で作った剣で戦っていたということですか……!?」

 つまるところそういうことのようだ。




 至近距離で風を受けたのは戦闘人形(ドール)も彰も同じ。

 しかし彰は自分で起こしたのだから当然だが、暴風が起こることが分かっていた。つまり対処をすることができたということ。

 空中の剣の位置を固定して、それを掴み彰は吹き飛ばされることを拒否。

「行くぞ!!」

 それによって、体勢を崩した戦闘人形(ドール)より早く動き出した。


「………………!」

 戦闘人形(ドール)が体勢を立て直した時点で、彰は後一歩で剣の間合いに入るというところまで詰めている。

 戦闘人形(ドール)の武装は手に持った剣一つ。空中の剣は吹き飛ばされて領域(エリア)外に飛んだため操作することはできない。このタイミングで錬金術で新しく剣を作っても彰の攻撃までには間に合わない。


 対する彰の武装はさっきまで空中にあった二本の剣のうち一本は手に持ったというもの。二体一なら戦闘人形(ドール)は致命傷は防げてもすべての攻撃を裁くのは無理だろう。


 しかしそれだけで十分だった。

 そのまま二対一の戦闘が続くならいつか戦闘人形(ドール)を捉えられるだろうが、戦闘人形(ドール)は初撃を防ぎさえすれば次の剣を作るのが間に合う。そこからまた九本の剣を展開し直せば、彰に勝ち目がないことは明らかだ。



 だから、彰が勝つためにはこの初撃を決めなければならない。


 ――いや、彰『たち』と言うべきだろうか。




「ここです!!」

 彰が距離を詰め出すのと同時に恵梨も駆けだしていた。

 私が参戦するなら彰さんと戦闘人形(ドール)が一対一をで戦っているこのタイミングがベスト!!


 ずっと気を窺っていた恵梨はスタートも早く、ちょうど彰と同時に戦闘人形(ドール)の元にたどり着いた。


「はっ!!」

「やぁっ!!!!」

 シンクロして繰り出される彰と恵梨の攻撃。


 さすがに戦闘人形(ドール)も二人の攻撃を手に持った一本の剣で防ぐことは無理だ。


 これで終わりです……!!

 恵梨も内心で気の早い喝采を上げる。









 だが、それは普通の常識として考えた場合のこと。



 彰と恵梨の目論見はこの戦場では命取りだった。

 今起きているのは、常識を越えた能力を扱う者同士の戦いであるのだから。

 考慮するべきだった。気づくべきだった。

 そもそも常識通りに進むのであれば、彰はさっきの一斉攻撃をされたところ死んでいたのだから。



 彰と恵梨の攻撃が戦闘人形(ドール)に届くその前。

「………………」

 戦闘人形(ドール)はその場にしゃがんでいた。

 回避行動にしては早すぎるタイミング。体勢を低くしたくらいで彰と恵梨の攻撃が空を切るわけがない。



 だから目的は別。地面にあった木の根っこを掴むことであった。


「………………!」



 そして戦闘人形(ドール)はその手に持っていた剣をポイッと手放した。



「まさか……っ!?」

 見覚えのあるその動作。

 次に何が起きるか予想できた恵梨だが、前進の勢いは止まらない。


 そのまま突っ込んで。


 巻き起こった暴風に吹き飛ばされる。



「くっ……!!」

「きゃっ…………!!」

 彰と恵梨が風に押され後退する。戦闘人形(ドール)はというと、木の根っこを掴んでいたため影響はない。最初からこのつもりだったようだ。


「戦闘人形(ドール)が圧縮金属化を使うだと!!?」

「……何を驚いている、高野。戦闘人形(ドール)に入力(インプット)したデータには貴様の戦闘も含まれている。なら、当然のことであろう?」

 驚く彰にサーシャが口を挟む。


 彰は戦闘人形(ドール)が剣を手放した瞬間に次を予想して、踏ん張ったから体勢を立て直すのも早かった。

「あいたた……」

 しかし、恵梨はその動作が間に合わずようやく前を向く。



「………………!」

 そこを狙って戦闘人形(ドール)はナイフを投擲した。



 不意打ちとなった一撃。

「ですが……!」

 さっきの暴風で手に持っていた剣も空中の剣も飛ばされた。錬金術で新しく作っていては間に合わない。

 だが、何とか体は動く。足下を狙ったそのナイフを恵梨は飛んでかわして。



「迂闊に避けるな!!」

「え?」


 彰の忠告は時すでに遅く。


「…………!」



 恵梨の体はまたも暴風にさらされる。



「きゃっ……!!」

 空中にいたのでは踏ん張るもくそもない。

 今度こそまともに飛ばされて、地面に落ちる恵梨。


 また圧縮金属化を使ったなんて……。

 混乱冷めぬまま、立ち上がろうと顔を上げたところで。



 こちらに飛んでくるナイフが目に入った。



「あ」

 無理だ。

 錬金術は間に合わない。回避も間に合わない。

 これは絶対に当たる。見た瞬間それが分かってしまった。


 現在地面に座ったような格好をしている恵梨の心臓を正確に捉えて迫るナイフ。

 少しくらい手元が狂ったりも……してないみたいですね。


 戦闘人形(ドール)に手加減だとか倫理だとかいう物は存在しない。

 あるのは命令を守る、ただそれだけ。

 五人を殺せ、というサーシャの命令を忠実に実行しているというわけだ。



 諦めるしかないみたいですね……。

 抵抗するタイミングはもう過ぎている以上、恵梨にできることは何もなかった。


 ああ……もっと生きたかったな。

 死を実感すると様々な想いが沸き上がってきた。走馬燈というやつだろうか。

 由菜さんとまた買い物に行きたかったし、彩香とはようやくできた初恋の彰さんのことでいじりたかったし、美佳さんと他愛の無い話で盛り上がったり、火野くんや仁志さんのバカ騒ぎも何だかんだで見ていて楽しかったし。

 そして彰さん。……こんな終わり方をするんだったら、もっと素直になって……。



「………………」

 迫るナイフを直視できなくて、ギュッと目を閉じる恵梨。



 ドスッ!!



 その耳にナイフが人体に突き刺さる音が聞こえてきた。



 ……………。






 ………………………………………………………。












 …………………………………………………………………………………………あ、れ?



「痛く、ない?」

 痛覚が何も訴えないことに疑問を思う恵梨。

 ナイフがささって全く痛くないって……まさかもう死んでしまったとか……?


 おそるおそる目を開く恵梨。


 視界に飛び込んできたのはさっきまでと変わらぬ森の中の風景。

 どうやら現実みたいですが……?

 そして視線を胸元に落とす。


「ナイフが……無い?」


 刺さっているべきはずのナイフが存在しなかった。

 どうして? あのナイフは私の心臓めがけて一直線に進んでいたはずなのに。

 その原因を探して顔を上げたところで、すぐに見つかった。


「……!」

 そう、恵梨の目の前に彰が立っていたのだ。

 彰さんが防いでくれたんですね……!!

 私が危ないと思い、間に入って助けてくれたのだろう。彰さん、体勢立て直したのも早かったですし。


「彰さん、ありがとうございます!!」

 四月のときに続いて、彰に命を助けてもらえたのは二回目。

 恵梨の心からの礼に対して彰は。













 ドサッ!!!


 崩れ落ちた。






「……え?」




 恵梨に対する攻撃は彰にとっても不意打ちだった。

 飛んでさけた恵梨が暴風にさらされたところで、次の攻撃は避けられないだろうと無我夢中で恵梨の元に駆け寄った彰。


 問題はその装備だった。

 戦闘人形(ドール)の暴風のせいで彰は剣を全部吹き飛ばされていた。丸腰だったのだ。


 新しい剣を作る時間はあった。


 が、戦闘人形(ドール)が圧縮金属化を使ったことに驚いたり、恵梨が狙われたということで思考がまとまらなかったということもあり。


 新しい剣を作る余裕はなかった。



 恵梨に迫るナイフに対しても、たった半年しか使ってきていない能力より、十数年来の付き合いになる自分の体が先に反応した。



 つまり、恵梨が聞いたナイフの刺さった音は……。





「どうして…………」

 崩れる彰の胸元を見た恵梨はうわごとのようにつぶやく。




「どうして彰さんは、胸元からナイフを生やしているんでしょうか……?」

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