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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
六章 体育祭、自覚する気持ち
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百六十話「因縁との対峙」

更新遅れてすいません。

「おー、サーシャさん。久しぶりやな」

 火野もこの場に現れた二人に気づいたようだ。

「何でそんなに暢気なのよ……。それにしてもそっちの黒ずくめは……恵梨?」

 彩香は傍らの恵梨に尋ねる。

「ええ、戦闘人形ドールです。四月、私と彰さんが二人で何とか撃退しました」

 ですが、そのときと何か雰囲気が違いますね……と、恵梨。


「分室とはいえ同じ組織に属していたのに初めましてですね。あなたほど優秀なら兵器派でもやっていけると勧誘しているのに、室長の鹿野田さんに心酔して断っているって噂ですが」

「まあ、否定はすまい。……それにしてもこいつらが生きているのに普通にしているという事は、この事態に一枚噛んでいるという認識でいいか?」

「ええ。自分がこの子たちを生き残らせるために細工をしました」

 外部研究員とはいえ科学技術研究会に所属する畑谷はサーシャの事も聞いたことがあったようだ。



 言葉が通じることで、突然の襲来に対する緊張が一瞬緩む。


 だが、彰は全く気を抜いていなかった。



「それで……先生に何の用だ?」



「彰さん……?」

 戦闘人形ドールと会った事はあるものの、サーシャとは初めて会う恵梨。

 だから恵梨は彰が戦闘人形ドールよりサーシャの方を重点的に警戒しているのを見て疑問を持つ。

 彼女がしたことは話に聞いてはいるが……そこまで警戒するほどの人だろうか、と恵梨は思う。

 こうして見るとただの綺麗な女性にしか見えませんね。彰さんの言ってたことが間違いだと思えてくるのですが……。


「って、あれ? サーシャさんって、先生に用事があるんか?」

 彰の言動にツッコむ火野。

「……さっきの反応を見ただろ? あいつは俺たちが生き残っているのに驚いているようだった。恐らく兵器派の映像を盗み見ていたんだろうが、それなら死んでいる俺たちにわざわざ会いに来るわけ無いだろう? つまり俺たち四人以外、先生に用があるってわけだ」

「なるほどやな」

「それでさっきの発言『最後の一人に会いに来た』ってどういう意味だ? 先生を指しての発言だとは思うんだが、最後の一人……って」

 彰はそこで考えが止まる。


「普通に考えて、斉明高校の教師としての先生じゃなくて、科学技術研究会兵器派の外部研究員としての先生に用があるんでしょうけど………………最後?」

 彩香も同じところで詰まったようだ。 



「大した洞察力だな」

 余裕のある様子のサーシャが、敵である彰と彩香を誉める。

「確かに私はその男、畑谷に用があってこの場所に来た。だが、一つ間違いがある」

「間違い……?」

 最後の一人の意味が分からないにしろ、ここまでの思考プロセスには自信があった彰は信じられない気持ちで聞き返す。



「ああ」

 サーシャは隠すことでもない、と答えた。



「正しくはその男、畑谷は科学技術研究会兵器派所属『だった』だ」



「……過去形、やな?」

「つまり今は科学技術研究会に所属していないということですか?」

「それがどういう意味を表すのかしら?」

「先生……?」

 四人の視線が自然と畑谷に集まる。



「何を言う。俺はれっきとした科学技術研究会兵器派の一員だぞ」

 言いがかりを付けられた畑谷がサーシャに言い返す。

「まあ、本人はそう思っているだろうがな。……しかし状況はさっき変わった」

「さっき……ってまさか!? もしかして偽装工作が……!?」

 その言葉に畑谷が自らの生徒たちを振り返る。


「偽装工作……って何や?」

「私たちの死んだフリを助けたことでしょうか」

「……!? もしかしてそれがバレて、先生が命令違反で兵器派をやめさせられたっていうこと……!?」

 となれば事は先生だけの問題ではない。死んだフリがばれたということは、自分たちの問題にもなるのだから。


 あわてだす三人。

 だが、彰は冷静に言った。

「ちょっと落ち着け。さっきサーシャは俺たちが生きていることに驚いてただろ。ということは俺たちが生きていることは、そのときまでバレていなかったってことだ。

 確かに今、サーシャにはバレたが、この短い間にやつがどこかと連絡した様子はない。つまりまだ兵器派には伝わっていないはずだ」

 理路整然とした彰の言葉にみんな落ち着く。


「そうですね」

 落ち着いたら落ち着いたで、別の疑問が首をもたげた。

「……でしたら何で先生が兵器派に所属していた、なんて過去形で言うんですか?」

戦闘人形ドールを見てみろ」

 彰が首を振って、サーシャの隣を見るようにうながす。


戦闘人形ドールをですか……?」

 能力者三人に加えて、畑谷も戦闘人形ドールに視線を向ける。


「………………?」

 戦闘人形ドールを見ましたけど……何も分からないですね。

 恵梨は彰の言葉の真意が分からなかった。

 どこもおかしい点は見あたらない。記憶にある四月の時と姿は全く変わらないように思える。


「あれ……?」


 しかし、よく見るにつれて違和感を覚えてきた。

 戦闘人形ドールの服、黒のライダースーツが汚れている……?

 ところどころシミのようなものが見える。シミ自体が黒っぽい色だったため、保護色になりよく見ないと分からなかったのだ。



「黒色のせいで鮮明には見えないけど……戦闘人形ドールは今、血塗れだ」



「血……!?」

 あのシミのように見えたものは血だったということですか……?

「ところどころ乾いていないことから、今さっき付いた物だと推測される」

「ちょっと待って、彰。話がずれていない? 今は先生が兵器派をやめさせられた理由を……」

「いや、今の話はそれとつながっているんだ」

 血塗れの戦闘人形ドールと畑谷が研究会所属していたことが過去形にされたということがリンクしていると言う彰。


 どこがどういう風につながっているんでしょうか……?

 恵梨には見当もつかないが、彰には分かっているようだ。


「俺の考えを結論から言うと……先生は科学技術研究会兵器派を辞めさせられたんじゃない」

 一定のテンションを保つように、淡々とした彰のしゃべり。

「それが分かるのはさっきも言ったとおり、血塗れの戦闘人形ドールからだ。あれだけ血塗れなのに、服に傷付いた様子が無いことから、付いているのは返り血だと予想される。

 そして次に思い出すべきは、サーシャの最後の一人という言葉。教師としての先生に用があるとは思えないから、兵器派としての先生に会いに来たんだろう。また、最後の一人ということは、逆に二人は今まで兵器派の他の人員たちに何かをしてきて仕上げに先生のところに来たということ。

 それらの情報に、おまけとして先生が兵器派『だった』という言葉を付け足して導かれる結論は」


 推理を披露していて、一番盛り上がる場面だというのに彰はそこでも平坦な声のまま続けた。



「科学技術研究会兵器派は壊滅したということだ」



「壊滅……!?」

「ああ。戦闘人形ドールの返り血は、科学技術研究会兵器派の一人一人の体に流れていたはずの物。

 最後の一人と呼ばれる先生に対する用とは、殺しに来たということ。他の兵器派の人間を全員殺してきて、最後に先生を殺しに来たってわけだ。

 そして先生が科学技術研究会兵器派所属『だった』という言葉は……科学技術研究会兵器派という組織がすでに存在しないから。

 組織とは人がいてこそ成立する。先生一人を残して全員死んだ以上、兵器派という組織は無くなったも同然。

 ――そういうことじゃないのか、サーシャ?」

 サーシャを睨み付ける彰。



 だが、身内からの反応の方が早かった。

「ちょっと待ってよ! どうしてあの二人が同僚であるはずの兵器派を壊滅に追い込んだのよ!?」

「さあ、そこまでは。先生の話じゃ兵器派と能力研究派は仲が悪かったらしいし、何か理由があれば殺すのも躊躇うような仲じゃなかったんじゃないか?」

 彩香の反論を軽く流す彰。


「そうやけど、そんな簡単に人を殺すなんて……」

「……火野。俺たちがさっきまで何をされかけてたのか忘れたのか? ……兵藤が言ってた能力者を殺すための仕組み。あれはそのまま能力者が人を殺すためにも応用できるんだ。どうせ戦闘人形ドールが兵器派を殺す様子を映像に取って、すでにネットにでも流しているだろう」

 冷めた声で論破する彰。



「………………」

 その様子を横で見ていた恵梨はというと、口を開くことなく黙っていた。

 確かに研究会兵器派が壊滅したという情報は衝撃的だった。自分たちを狙っていた組織が無くなったことは喜ぶべきなのだろうが、殺されたのだと聞くとそれは不謹慎な気もする。

 だが、現在それ以上に気になるのは彰のことだ。


 彰さん……さっきから淡々と、それこそ感情が無くなったみたいに話を進めている。どうしてなんでしょうか……?



「先輩たちが殺されている…………?」

 知り合いが殺されたと聞いて、信じられない気持ちの畑谷。

「いや、そうは言ってもな高野。兵器派の構成員は普段一カ所に固まっていないんだ。本拠地にいつもいる人もいれば、表で他の役職を持っている人はそっちに出向くし、と散らばっている人員を一人一人殺して回ったのか? さすがにそこまでの労力は……」



「『普段は』だ。今日は高野たちを殺す映像を目当てに、兵器派の構成員はおまえら実働部隊四人を除いて本拠地に全員集合していた」



 畑谷に反論したのは彰ではなく、サーシャであった。


「それにしてもさっきから聞くに耐えないな。高野の考えに反論してばっかりで。……本当、もう少し仲間の考えを信じてみたらどうなのか」

「それじゃあやっぱり……」

 サーシャの言葉に彰の顔が青ざめる。



「科学研究会兵器派の人員はそこの男一人を残し全員殺された。この戦闘人形ドールによって」



「……っ!!」

「大体、おかしいとは思わなかったのか? 今回兵器派がおまえらを殺すにいたったきっかけは、私が黄龍ファンロンとの取引を邪魔したのはおまえらだとささやいたから。

 しかしおまえらをただ殺したいだけだったら、兵器派じゃなくて戦闘人形ドールをけしかければいいだけの話。そちらの方が手間もかからなかったはず。

 それなのに面倒な手間を踏んだのは、全て兵器派の人員を一カ所に集めるため」


「そんな理由のために、さっきの襲撃は……」

 恵梨が愕然とする。

「まあ、あわよくばデータの取り終えたおまえらを消してくれるのを期待していたんだが。さすがにそこまではうまく行かなかったか」

 能力者とはいえこんな子供四人も始末できないとは役たたずめ、と吐き捨てるサーシャ。



「けど……何のために兵器派の人たちを殺したのよ?」

 これだけ大がかりなことをしたのだ。大層な理由があるのだろう、と思って聞く彩香。


「理由か。ありふれた物だがな。答えは……」



「そんなのどうだっていい」



 だが、割り込むように彰が言った。


「おまえは……モーリスの時といい、どうしてそんなに簡単に人を殺すことができるんだ?」

 さっきまでと同じ静けさを持った彰の声だが、その性質が変わっている。今の声は吹き出しそうになる物を何とか押し止めようとしている物だ。




 そういうことですか。

 恵梨は気づいた。

 ……彰さんがさっきから努めて感情を出さないようにしていたのは、気を抜いたら激情が溢れてしまいそうだったから。

 つまり、今の彰さんはこれまでに見たことがないほど怒っている。




「私にとって、この世の人間は二種類に分けることができる」

 その噴火寸前の彰に気づいているはずのサーシャだが、今までと変わらず対応……あまつさえ質問無視するという芸当さえしてみせる。

「鹿野田様に役に立つ人間と、そうでない人間だ」

 自分が心酔する能力研究部門室長の名前を出す。


「言うまでもなく、その区分で行くと兵器派は後者であった」

「……だから殺したって言うのか?」

「まあ大ざっぱに言うとそうなる。細かく言えばありふれた理由になるのだが」

「そうか……分かった。おまえとはやっぱり一生分かりあえそうにないな」

「分かってもらう必要はない。私の行為は鹿野田様にだけ理解されていれば十分なのだから」

「ほざけ」


 彰は風の錬金術を発動、剣の切っ先をサーシャに向ける。


「他の兵器派のように先生を、そしてついでに俺たちを殺すつもりなら容赦はしない。引くなら今の内だぞ」


「そうやな。……先生は俺たちを守ってくれたんや。今度は俺たちが守る番や」

「火野にしては良いことを言うじゃない。私もそれに賛成よ」

「研究会はお母さん、お父さんの仇。元より許すつもりはありません」

 彰に続いて火野、彩香、恵梨も自身の錬金術を発動させる。


「みんな……」

 パワードスーツも兵器も持っていない畑谷に戦闘力は無く、教え子たちが臨戦態勢になってもおとなしく見守ることしかできない。



 倒すべき敵はサーシャ、戦闘人形ドールの二人。……その中でも警戒しないといけないのはサーシャの方ですね。

 恵梨は何故彰がサーシャの方を重点的に警戒しているのがようやく分かった。

 その身に宿す『交換リプレイス』という能力も厄介ですけど、それは小さな理由でしかありません。

 サーシャを恐れる最も大きな理由は、理性を持っているのに人を殺すことができること。

 人としての感情がない戦闘人形ドールが人を殺すのはまだ理解できる。会話が通じない戦闘人形ドールは結局のところ人型の獣でしかないから。

 会話が通じる同じ人という種を平気で殺せるサーシャの感性はどうにも不気味に思えてたまらない。



 だからサーシャの一挙手一投足を見逃さないようにしていたのに、サーシャはというと力を抜いた自然体から動かない。

「……? 何、私に視線を向けている?」

「何って」

「兵器派をこれまで殺してきたのは全て戦闘人形ドールだ。私はただ『交換リプレイス』で運んだだけ。ここでもそのスタンスを崩すつもりはない」

「よく分からない理屈だけど……つまり、そこの戦闘人形ドール一人で私たちを相手取ろうってわけね」

「四対一って舐めすぎやないか? あいつも俺らと同じ錬金術なんやろ?」

「そうですね」

 風の錬金術と『交換リプレイス』を組み合わされた戦術こそを一番に警戒していたのに、それをしないとは。

 そもそも戦闘人形ドールは四月に彰さんと二人で撃退しているんです。あのころから私も彰さんも成長した上に、さらに二人まで付く。……負けるわけがありません。



「油断するな」

 その楽勝ムードに水を差したのは彰だった。

「六月のモールスの事件。八月の黄龍ファンロンとの衝突。二つはどちらとも戦闘人形ドールの強化の為に行われたものだ。……恐らく四月の時とは別次元の強さになっているはず。

 繰り返す。みんな油断だけはするな」

「「「………………」」」

 彰の指示に三人とも身を緊張させる。




「そうだ。すぐに決着が付いたら新生戦闘人形ドールの運用データが取れない。……全く兵藤、垣居、沢渡もパワードスーツを着ていれば少しはいい勝負なっただろうに、脱いでいたというのだから仕方がない」

 嘆くように言うサーシャ。



 ……そう言われてみれば、兵器派の人間が先生を除き全員殺されたということはあの兵藤という男も殺されたということですね。他の二人は状況から判断して撮影役と先生にパワードスーツを渡した人でしょうけど……さっきまで会っていた人間が殺されたと言われても、それが例え敵だった人間でも現実味が沸かない。



「せっかく兵器派の襲撃から生き残ったんだ。せめてあがいて、鹿野田様の研究の役に立て」

「勝手なことを……!」

 上からの発言に彰が吠える。


 サーシャはそれに取り合わず、命令を下した。


「それでは戦闘人形ドール。あの五人を――殺せ」


 返事をするだとか、うなずくだとかいう動作をすることができない戦闘人形ドール

「………………」

 だからその命令に対する反応は力の行使であった。




「えっ…………!?」


 そう、視界から戦闘人形ドールの姿が消えたのだ。


「これだけの数を……!?」


 といっても、戦闘人形ドールが『交換リプレイス』により瞬間移動したとかそんなわけではない。


「……さすがにヤバそうやな」


 答えは単純。


「ちっ、予想以上だな」


 こちらに切っ先を向けた夥しい数のナイフが一瞬で作られ、戦闘人形ドールの姿がその向こうに隠れたから。



 これは……数にして百本は下らなそうですね……。

 錬金術を使ってもう十年ほどになる恵梨だが、十分な量の水があったとしてもこの数のナイフを一瞬で作ることはできないだろう。

 戦闘人形ドールの強化……こういう意味だったんですか。



 もちろん、戦闘人形ドールもただ空中に浮かべるためにナイフを作ったわけがない。

「……来るぞ!!」

 そのまま彰たちにナイフの群れ……いや、ナイフの壁が殺到した。

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