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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
六章 体育祭、自覚する気持ち
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百五十九話「決着2」

「駄目だ。連絡が付かねえなぁ……。あっちをまとめているはずの部長も出ないし……」

 兵藤が連絡機を片手にぼやく。


「やっぱりですか」

 自分と同じ結果に終わったか。……動画を上げたか確認もしたかったが、それとは別に映像の解析もしてもらおうと思ったのにな。


 連絡が付かない事も不可解だが、撮影役だった男は他にも違和感を持っていた。

「…………それはともかく」

「いや、置いといていい問題じゃないっしょ」

 若い研究員が茶々を入れてくるが気にせず兵藤は聞いた。

「何だぁ? 何か気になるのかぁ?」


「……あの能力者四人って本当に死んだんですかね?」


「……おいおい。まさかあれだけの血を流して生きていられると思っているのかよ!」

「余計な口を挟むな。何か気にかかってるんだなぁ?」

「……自分でも説明はできないんですが」

「え、マジなの? ……マジなの?」

「それなら死体を確かめに行ってこい。幸いと言っていいのか分からないが、本部とも連絡が付かないし時間はある」

 兵藤が脇に置いたパワードスーツ二台を指差す。



 能力者たちの死体はそのまま放置してある。異能力者隠蔽機関に記憶を消させるから後処理をする必要が無いからだ。

(思えば違和感を感じた時点で、あの死体を調べておくべきだったんだ)


 けど、どうしてそれをしなかったのか……。


(畑谷があまりにもあっさりと引き返したからだな……)


 直前に迫真の裏切ったフリをされただけあって、あの状況に思考がついていけてなかった。だから去っていく畑谷にろくに考えもせずに付いていってしまった。

(そういえば畑谷のやつ死んだのかの確認もしてなかったような……)

 まあ、あれだけの血が出てれば死んだと思うだろう。死亡確認を省いたってしょうがない。


 けど、それだけなのか?


「……お言葉に甘えて、確認に行ってきます」

 疑いだすとキリが無い。 

 自分の目で確かめた方が確実だと思って。





「……え?」

 次の瞬間、撮影役の研究員の視界は暗転した。
















「ほら、これが血糊の正体だ」

 彰は降ろしたリュックサックからあるものを取り出す。


「……絵の具セット?」

「ああ。これの赤色と緑色をいい感じに水筒の水で混ぜただけだ。研究会のやつらだって近くで、肉眼で見れば偽物だって分かったかもしれないけど、あんな木の上からの映像じゃそう簡単にばれない」

「なるほどやな~。……って緑色?」

「赤色に深みを出すためにな」

「そうか」

 火野が絵の具セットを手にとって見る。ほとんど新品同然の物みたいだが、赤色と緑色のチューブだけ残りがほとんどない。四人分の血糊を作るのに使い切ってしまったのだ。


「それにしても彰さん、よく絵の具セットなんて持ってきてましたね」

「いや自分で用意したにはタイミングが良すぎるわ。……どうせ先生が絡んでるんじゃないの?」

「その通りだ。これは山登り前の点呼のときに先生が押し付けられたものだ」

 一組の連中が落としたらしくて、と言われながら手渡されたのを思い出す彰。

 ……山を登って絵まで描く余裕のあるやつがうちの学校にいるわけ無いと思っていたが、やっぱりいなかったんだな。


「これで血糊の用意は完了。……残る問題は銃声と同時に血糊を流す事が出来るかという点だったが、そこは簡単だ」

「私の能力『水の錬金術』ですね。血糊を金属化して、それを服の下で胸の辺りに置いておけば準備は完了。あとは銃声が鳴ったタイミングで解除するだけです。……タイミングがシビアでしたけど、何とか出来ました」

 ホッとしたように言う恵梨。


「けど、もし先生と考えがずれて、頭の辺りを撃たれてたらどうしたんや?」

「……そうね。先生から一方的に伝えられて、即興での芝居だからそういう細かい意思疎通はできてないわよね。これって結構博打だったんじゃないの?」

「一応『ほらほら、この胸目がけて撃ってみろよ?』って挑発に見せかけて、先生には胸を撃つようには伝えてたけどな。

 ……まあそれでも、命をかけた作戦を博打でするわけにもいかない。だから先生と細かな打ち合わせをするために、あんな長ったらしい推理を披露したんだよ」

「「「……??」」」

 首をかしげる三人。


「いや、今までの話をまとめると結局撃たれたフリをすればいいだけだから、先生は俺たちを殺す気が無くてうんたら、味方にして研究会を潰すうんたら言って先生を説得する必要なかっただろ? あんなことしなくたって、ただ撃たれれば良かった」

「そうやな」

「だったら何であんなことしたの?」

「最後に先生がこっちに協力することになって、俺と先生が感極まって抱き合っただろ? あれのためだよ。あのときに小声で意志伝達をしたんだ。

 具体的には、本当に殺したフリをするのであっているのか、どこを撃ってもらえばいいか、撃った後どれだけの間死んだフリをすればいいのか……とか色々確認したんだ。で、それが終わった後に撃たれたフリをした」

「ということは、先生に自然に近づくためだけにあんなことをしたって訳ですか」

「小声なのはカメラに音声を拾われちゃまずいから、ってことね」 



「高野が自分の考えを語りだしたときは焦ったぞ。殺したフリをするつもりならわざわざカメラの前で言う必要は無いし、気づいていないのかとヒヤヒヤしながら必死に言葉を考えてたな」

 畑谷が思い出した様に語る。

「最初撃ってみろよ、って挑発したときによく撃ちませんでしたね」

「あれ、後三秒遅かったら撃ってただろうな。こっちの意図に気づいていると思って」

「話の流れ上ああいう切り出しになったんですが、まずいなとは思ってました」

「『これくらいできなければ生き残れないからな』って、宿題を渡した時と同じあのセリフを聞いて、気付いていると確信したわけだが」

「そんな裏事情があったんですね」

 あの時はいつ銃声が鳴るかと神経を張り詰めて待っていた恵梨だが、彰と畑谷も色々大変だったようだ。



「んー、まあ何となく分かったけど…………それって殺したフリをする必要なかったんやないか? 彰が言ってた考え……その、異能力者隠蔽機関のラティスが『記憶メモリー』を使って研究会の人たちの記憶を操るか、それとも研究会を潰すかで俺たちの安全は確保されたんや無いか?」

「ああ、おまえにしてはよく覚えてたな。偉いぞ、火野」

 割と本気で言っている彰。

「……なんや、彰が褒めるなんて珍しいな」

 本気で喜んでる火野。


「…………それはともかく、あの論理は恰好を付けるために言っただけであって実際は穴だらけだ。第一に、あれから攻めたところで研究会を潰せたとは思えない。兵藤に会う前、休憩しながら研究会を攻めようとかみんなで話したけど、あれは奇襲が前提だ。

 あの映像は研究会の本部にも流れてるんだ。つまりこっちが攻めようとしていることがバレてるわけで、研究会と正面から戦えば、たかが能力者四人とその先生なんて簡単に撃退されるだろう」

「仮にも国家機関な訳ですしね」

「そしてもう一つの方法。科学技術研究会兵器派に『記憶メモリー』をかけるって案だが……これも駄目だ。あっちには『記憶メモリー』のことを知っている能力研究派の鹿野田とサーシャがいる。『記憶メモリー』の解除方法は、思い出せなくなった記憶に関する事を他の方法で知ること。つまり兵器派にかけても、能力研究派がその異変に気づいて話をすれば全て思い出す。だから駄目なんだ」

「普段は兵器派と能力研究派の仲は悪いけど、君たちの情報を提供したり能力研究派もこの作戦の事は気にかけてたから気づかれる可能性は高いな」

 畑谷が研究会の内部事情を話す。

「だから撃たれたフリをするしか無かったって訳だ。分かったか」

「OKや」



「もうこれで大体説明終わったよな」

「そうですかね。……それにしても彰さん、あんなに演技上手だったんですね。撃たれた後胸を抑えてあんな苦痛の表情を浮かべて……自分で血糊を流しておいて、本当に撃たれたんじゃないかって心配したんですよ」

「あの時は必死だったからなあ。もう一回やれって言われても、絶対できねえな」

「あっ、そういえば先生がこの場を離れようとしたときに足を掴んだのって、あれもリアリティを上げるため?」

「まあそうだな。手ひどく裏切られた方が、兵藤たちも騙されてくれるんじゃないかっていう計算もあったんだが」

「全くアドリブで付き合わされたこっちの身にもなって欲しいものだ」

 その少し前、抱き合った時の打ち合わせではそんなことする予定はなかっただろ、と畑谷は不満を言う。

「すいません、先生が通信機で兵藤たちと話している間に思い浮かんだことので」

「それにしても先生のあのときの言葉って本心からなんか?」


 火野の疑問に一拍置いてから畑谷は言った。




「……確かに俺たち先生にとって、おまえたち生徒は大勢の内の一人だ。個別に情なんて持ってたらパンクしてしまう。……だけどな、それをするのが、それをしないといけないのが先生って職業なんだ。一人一人の生徒に情を持って接するのが教師なんだ」


「「「「………………」」」」


「大人は感情じゃなくて、損得で動く。社会的立場ってものがあるからな、感情だけで動いていては立ち行かない。……けど。それでも。絶対に譲れない一線ってのはあるはずだ。……少なくとも俺は教師という立場にいる者として、生徒に手をかけたら終わりだと思った」


「「「「先生……」」」」

 普段の態度からは思いもよらなかった畑谷の先生という職に対する熱い思い。


 ……けど、そうだよな。

 意外に思うところもあったが納得するところもある彰。

 だって先生が本当に俺たちのことをどうでもいいなんて思ってたなら、こんなバレるリスクを冒して俺たちを助けるなんてことはしない。異能力者隠蔽機関に記憶を消させることで罪にも問われることもないのだから、俺たちを殺したって構わなかったはずだ。



「柄にもないことを語ってしまったな。……さて、じゃあこれからの話をしようか」

 強引な話の切り替えを断行する畑谷。

「研究会からすれば現在おまえたちは死んだ人間だ。やつらに生きて動いている姿を見られただけでアウト。だから人目に付かないよう家にこもってほしい。……だが、まあそんな長い期間じゃない。おまえたちを殺すという目的を達成した以上、この町から研究会の息がかかった人間が出て行くのもそう遠くないだろう」

「それまでの辛抱ってことですか」

「ああ。……といっても、それじゃあ学校に行けないしどうしようか悩んでいたが、高野が言ってた異能力者隠蔽機関のラティスさんに協力を伺おう。研究会には無理でも、学校になら『記憶メモリー』をかけられるからな」

「それがいいですね」


 話がこれからのことに移りだして彰はハッキリ感じていた。

 ハッピーエンドだな、と。


 楽しい遠足のはずが研究会の突然の襲撃。頼れる先生の本当の姿は敵。激しい戦いの末、何とか逃げることに成功。裏切ったと思った先生は味方だった。


 裏切り、戦いの末の和解。

 こうやって明るく未来のことを考えられるなんて、さっきまでの辛い状況からすれば思いもよらなかった。


 ……まあ、依然として研究会の脅威は残ってたりと全部が全部上手くいっているわけでもないけど、物語じゃなくて現実なんだしそんなものだろう。


 いやあ、ハッピーエンド万歳。















「……? どういうことだ? まさか生きているとはな」














「……っ!?」

 頭の芯に冷や水をぶっかけられたような気がした。

 呆けていた彰の頭が、聞き覚えのある声に一気に回転を始める。


 まさかこの声は……!? けど、どうしてこの場所に……!?


 さっきまで周囲に全く人の気配は無かったはずだが、やつが持っている能力にそんな常識は通用しない。

 声のした方を振り向いて予想通りの人物の姿を見つける。




「……サーシャ!! どうしておまえがここにいる!?」




 目につく鮮やかな金髪。メリハリの効いたボディ。

 そこに立っていたのは客観的に見て美人な部類に入るだろう女性。……まあ、出来れば一生会いたくなかったが。



「それは私のセリフだ。……全く、最後の一人を追ってきた場所でまさかこんな出会いがあるとはな」



 科学技術研究会、能力研究派所属のサーシャ。『交換リプレイス』の能力の持ち主。


 夏祭りのときに騙され、己の未熟さを味あわされた存在。




 そしてその隣にいるのも、また彰と因縁を持つ者だった。




「………………」


 黒のライダースーツに黒のフルフェイスメット。

 黙ったまま立っているその姿はまるで生気を感じられない。


 俺の考えが当たっていれば、恵梨の両親を殺し、それにより恵梨が逃亡して俺の家に居候することになり……つまり、俺が能力者の世界に入った原因とも言える存在。

 思えば能力者としての自分を自覚してから初めて戦ったのもこいつだ。



 戦闘人形ドール。俺と同じ、風の錬金術者アルケミスト



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