百五十六話「激闘 能力VS科学3」
更新遅くなってすいません。スランプでした。
腕を空中に縫い付けられた畑谷に、彰の剣が迫る。
「そうか……これはよく考えたな」
困ったように、だが差し迫ったものは感じない畑谷の口調。
「余裕そうに言えるのも今の内だ……!」
今度こそは先生の読みの上を行った。彰は畑谷との距離を詰めようとして……。
その間畑谷は妙な動きを取っていた。恵梨の水流捕縛によって行動不能にさせられた腕を動かしていたのだ。
恵梨の青色金属に取り込まれているのは腕の中心、ちょうど肘の当り。つまり肘より先はがんばれば何とか動かせる。
だから畑谷は手首を返して手を上に向かせようとして、それを成功させていた。
そんなことをして何の意味があるのか?
それはすぐに分かった。
バシュッ!
手の甲からワイヤーの射出。
パワードスーツの標準装備であるそれは、関節のモーターを動かすための電力の一部を使って高速で発射される。
先端に付けられた鉤爪がちょうど真上にあった木の枝にかかったことを確認して巻取りを開始。
人間一人+パワードスーツの重さに耐えられる特製の鋼線。
高出力のモーター。
これらによって、普段なら畑谷の体は持ち上がっただろう。迫る彰の剣から逃げられただろう。
だが、先ほども言った通り畑谷は恵梨によって水流捕縛された状態。
体は動かない。
「はっ、無駄なあがきをして……!」
彰は畑谷の行動を鼻で笑い飛ばす。
恵梨の水流捕縛はただの磔ではない。
普通の磔ならその位置に固定している部分を破壊すればその拘束は抜けられる。
だが能力を使って作られたそれは、固定しているのは魔力によってだ。つまり能力者が解除しなければ、絶対に抜け出せない。
あと一つ、拘束自体を破壊するという方法は確かにあるが、不自由な腕でそれは不可能。
つまり先生はこの位置から動くことはできない……!
だが、畑谷はあがき続ける。
ワイヤーに繋がるモーターを回し続ける。
「うっ……!」
そして彰の剣があと少しで届くという段階で。
畑谷の体は持ち上がった。
ガキンッ!
畑谷の動きについて行けなかった彰の剣は、上昇する畑谷の胸の辺りを突く。しかしそこはもっとも装甲が厚く、全く刃が通らない。
何が起きて……!? というか、恵梨の水流捕縛はどうしたんだ!?
「恵梨っ!?」
「……すいません、彰さん! 魔力の出力が追いつかなくて」
見ると水流捕縛をしていた金属が全てお茶に戻っている。
魔力の出力が追いつかない……?
能力者として若輩者の彰には聞いたことのない現象だ。
「鹿野田先輩からの受け売りだがな……能力という常識外の力にだって燃料は必要だ。その燃料を魔力という」
説明が頭上、木の枝に難なく立った畑谷の方から聞こえてくる。
「能力者、無能力者問わず全ての人間が持っているとされる魔力。それを使って様々な現象を引き起こすのだが、火を大きくするのに薪がたくさん必要なように、現象が常識外であればある程魔力が必要になる。
つまり私が普通に腕を動かすのを止めるレベルの力は発揮できたが、ワイヤーを使っての高速移動を止めるレベルまでは魔力を出せなったということだな。理解したか?」
このような敵と敵という関係になっても、教師というスタンスを変えない畑谷。それは先生が非常になりきれないとも思えたし、逆に先生のままでもこちらを殺しに来る狂気性も感じる。
何にしても一世一代のチャンスを逃したのはマズイな……。
今後先生がおとなしく恵梨の水流捕縛にかかってくれるとは到底思えない。となると先生に近づくためにはあの何でも斬れる剣をかいくぐらないといけなくなる。……かいくぐりながら、全力の攻撃を繰り出す。今の俺にそれが出来るか……?
「呑気だな。これだけの距離が開いて大丈夫だとでも思ったのか?」
出来の悪い生徒にあきれる声。
「さっきから剣ばっかり振り回しているから勘違いしているかもしれないが……兵器派の本領はこっちだぞ」
そして背中からロケットランチャー――その見覚えがある形はRPGである――を取り出す畑谷。
「……っ!?」
背中から……!?
スーツケースから取り出してばかりだったので、このタイミングでの武装チェンジは予想外だった彰。
そういえばさっき作戦を考えていた時、先生はスーツケースをいじっていた。そのときに背中にくくりつけていたのか……?
「まずい…………!!」
頭上の畑谷が、標準を彰のいる下に向ける。
彰はあわてて風の錬金術で盾を作る。恵梨もそれに続く。
……けど、足りない! さっきは四人でガードして何とか耐えれたが、彩香と火野が散開しているため今回は恵梨と俺の二人分だ。これじゃ防げるとは思えない!
しかし、考える余裕を与えないとばかりに。
バシュッ!!!!!!! ズドンッッッッッ!!!!!!!
RPGは発射されて、すぐに爆発した。
(…………ん? 今、発射されたから爆発するまでの感覚短くなかったか?)
彰は自分の耳を疑う。……疑ってから、そうできること――つまり自分が生きている事――がおかしいと気づく。
(今度は防げないと思ったのに……防げた? というか盾に当たった感触も無かったような…………)
「おお、彩香。やったやないか」
「上手くいったわね……。彰、恵梨、もう防御は解いていいわ」
「…………?」
俺たちが生き残っているのは二人が何かしたからなのか?
遊撃に回していた彩香と火野が近づいてくる。彰は言葉に従って盾を解除した。
「ところで今何が起きたんだ? 盾のせいで先生の方は見えなかったから、よく状況が分からないんだが?」
「それが彩香のやつ凄いんやで。狙い済ましたようにこう……バーッと」
「ああ、おまえには説明求めていない」
「何やてっ!?」
火野が憤慨するが、それで理解できると思ったのか?
「それで、彩香」
「……先生がRPGを打つ直前に、それをナイフで狙ったのよ。それで弾頭は飛ぶことなく、暴発を起こしたってわけ」
「よく当たりましたね……」
「後ろに回りこんでた私の方からは、背中に担いでいるのが見えていたから。それでずっと狙っていたってわけ」
発射と爆発音の感覚が短かったのはそれでなのか。
「先生はどうなった?」
「爆発が凄かったからよくは見えなかったけど、爆風で結構飛ばされたと思うわ」
「……至近距離での爆発に、あの高さからの落下。……パワードスーツがどれくらい頑丈かは分からないが、死んではいないだろう。……たぶん」
敵になったとはいえ、殺したとなっては寝覚めが悪い。
それに……こう手酷く裏切られたのに、それでも先生は悪い人ではないと思ってしまう自分もいたので、パワードスーツの防御力を信じる事にした。
「ということは……終わったんですね」
「そうだな」
先生以外にもこの場には兵藤を含め科学技術研究会兵器派の人間が三人、パワードスーツがもう一台ある。けど、ここまで戦闘に参加せずに先生に全て任せていたってことは非戦闘員なんだろう。
それでもあのパワードスーツのアシストを受ければそこそこには戦えるだろうが、先生がやられたっていうのに誰も近づく気配が無い。……おそらく先生がやられたことが予想外で慌てているんだろう。あの兵藤ってやつの鼻っ柱をへし折ったと思うと、本当にいい気味だ。
それでももう一回周囲を警戒して、そこでふと思い出して彰は口を開いた。
「……ああそう、さっきは助かった。ありがとな、彩香」
「ふえっ!? ……そ、その……どういたしまして」
彰に頭を下げられて、顔を真っ赤にする彩香。
「それだけじゃない。今回の戦闘はみんなのおかげで生き残ることができた。礼を言う」
火野と恵梨にも頭を下げる彰。
素直な彰という珍しい光景に目を丸くする三人。
それもこれも彰は自分自身が不甲斐ないと思ったからだった。
火野は炎に囲まれた時に道を開いたし、恵梨は水流捕縛でチャンスを作ってくれた。
それだというのに俺は何だ。偉そうに指示をしておきながら、散々先生に読みの上を行かれた。俺一人だったら当の昔に先生にやられていただろう。
「彰さんのおかげですよ」
「え……?」
「また自分を責めているんでしょうけど、彰さんがいたから私たちは生き残れたんです。冷静に指示を出してくれた彰さんがいなければ、パニックになってどうしようもなかったでしょう」
全て見透かしているような恵梨の発言。その顔には母性を感じさせる笑みが浮かんでいる。
「遠足中、そして先生も裏切るなんて展開やったからな。それでも落ち着けたのは彰のおかげやと思うで」
「そうよ。……大体あっちは準備万端、こっちはいきなりなんだから、読みで上を行かれるのは当然よ」
火野、彩香もそれに続く。
「みんな…………」
そうか、こんな俺でも役に立てていたんだな。
夏祭りの時といい、最近自らの力不足を痛感している彰は、その言葉に少し気が晴れる。
「……まあ、つうことは今回生き残れたのも俺のおかげだってことだな」
「はいはい」
「そういうことにしとくわ」
「本当に素直じゃないんだから」
彰の調子乗った言葉も、強がりだと分かる三人は軽く流す。
「じゃあ帰ろうぜ。今から頂上目指すのも無理だし、バスのところに行くしかないだろ。……えっと方角的にはどっちだ?」
背中のリュックサックの位置を調整しながら聞く彰。戦いながら移動したからここがどこなのかはっきり分からない。
他の三人も同じなので彰の問いに答えられなくて。
「バスがある麓はこっちの方だな」
現在位置を知っている者――――――パワードスーツのスクリーンに地図を映し出している、畑谷が背中の方を指しながら答えた。
「「「「…………っ!?」」」」
「先生を見てそんなに驚くなよ。傷付くじゃないか」
四人のリアクションに心外そうな反応を見せる畑谷。
身に纏うパワードスーツは、至近距離の爆発に巻き込まれたはずなのに無傷だ。
「どうして先生が……!?」
「そうやであんな凄いのに巻き込まれたのに……!?」
「要領を得ない質問だな、水谷、火野。質問する時は5W1Hを意識するといいぞ。……まあ、想像は付く。どうして、先生は、さっき、地上から六メートルという高さで、爆発に巻き込まれて落下したのに、生きているのか?って聞きたいんだよな?
それは簡単な話だ。このパワードスーツの防御性能がそれだけ優れているってことだ」
「で、でもさすがにそこまでは……」
「それでは風野はこうして俺が生きている理由が他にあるとでも言うのか?」
畑谷が死んだのではないか、と考えた時パワードスーツのおかげで何とか一命は取り留めているだろう、とは想像が付いていた。つまり先生が生きているのは想定内…………だが、ここまでピンピンしているのは想定外だ。
そうして畑谷は、一人何も聞いてこない生徒に目を向ける。
「………………」
「どうした高野? 考え事か?」
「………………」
「無視か」
「………………」
畑谷の呼びかけにも彰は俯いたまま。
それは先生が傷一つなく現れた事に驚いたからでは無い。
そんな戦場で命取りになる感情は一瞬で捨てた。
彰が黙っているのは、この場から生きて帰る方法を全力で模索しているから。
考えろ! 考えろ!!!
みんなは先生が再び立ちはだかったのに驚いて浮き足だっている。だったらせめて俺だけは落ち着いて指示を出さないといけない。……それが俺に出来る最善策だっていうのは、さっき皆も言ってくれた。
冷静になれ。どうやったら先生を突破できる?
「………………」
最初に彰は先生の撃破という選択肢を諦めた。
あのパワードスーツは現状における最高の火力、先生のRPGを至近距離で直撃させたが、それでも倒せなかったのだ。今さら剣だ、ナイフだで傷つける事の出来る代物では無いだろう。……おそらく水流捕縛から頭部部分を狙ったあの攻撃が直撃しても無駄に終わっていたはずだ。
そして一度は諦めた逃走という選択肢について改めて考える。
そもそも遠距離火力の強い先生から距離を取るっていうのがナンセンスだし、パワードスーツのワイヤーを使ったあの機動力を前に普通の逃げ方ではどうやっても追いつかれる。
だから普通以外の逃げ方…………例えば、相手を拘束してから逃げるとか…………。
いや、駄目だ。拘束といっても、その方法は恵梨の水流捕縛ぐらいしかない。それは一度見せている技だから畑谷にも警戒されているだろう。仮にかかったとして、そしてワイヤー射出からの強引な離脱を防いだとしても、恵梨の水流捕縛にはある欠点がある。
それは拘束した者から離れることができない、という点だ。錬金術で作った金属を操作できるのは、約二メートルの領域内だけ。拘束した者をその場に留めるためには、領域に補足し続けないといけない。
つまり恵梨を置いていけば、他の三人は逃げられるってことだが……そんな選択肢糞食らえだ。
俺が望む結果はこの四人で生きて帰ること。誰かを犠牲になんてあり得ない。
なら、先生を撒くか……?
どんなに俺らより機動力があっても、俺たちの場所が分からないなら追いかけてくる事はできない。
良い選択肢に見えた……が。
彰はちらりと頭上、木の枝を見る。そこにはカメラを持ってこっちを撮影しているパワードスーツの男がいる。
火炎放射器のとき、一旦は撒いた先生に位置情報を教えたのもあいつの仕業に違いない。あんなところから俯観しているやつから姿をくらますことができるか……?
それでも現状考え得る限り、一番の選択だ。あとはその方法を考えるだけ……だが。
「……………………」
何も思いつかない。
撮影役のパワードスーツの男を撒くだけの方法なら何個かは思いつく。……だが、それを先生も同時に撒くとなるとかなり難しい。
地上と高所。二人ともを同時に撒くなんて、そんな方法……。
「生き残るためには考えろ」
畑谷があの何でも断ち切る剣を取り出しながら言う。
……ちっ! うるせえな! 考えている! それでも思いつかないんだよ!!
光明の見えない思索にいらつきが溜まっていた彰は、胸の内でそう吐き捨てて。
「……あれ?」
あることに気づいた。
顔を上げて畑谷の方を見る。パワードスーツに隠されて顔は見えないが、それでも注視する。
「…………」
何も言ってこないが、先生と目があったと感じた。
そして畑谷が大きくうなずいて見せる。
「火野! 一人で三分稼いでくれ!」
「……了解や!!」
突然の彰の指示に驚いたのは一瞬。火野は理由も聞かず炎の錬金術で作った剣を引っ提げて、畑谷に特攻する。
(他ならぬ彰の指示や! どうせ俺なんかじゃ及ばない考えがあるんやろ!)
火野は自分がそこまでバカだと自覚していない。だが、彰の方が頭が良いということは理解している。
夏祭りの戦い、そして今回の戦闘と一緒に戦って、彰の指示に従っておけば大抵は状況が良くなると分かっていた。
「い、いきなりどうしたんですか!?」
「そうよ。せめて私ぐらいはバックアップに回った方が……!」
「いや、二人はここで待っててくれ! 何が必要になるか分からない!」
仲間一人に過度の負担を強いる彰に反発する二人だが、彰の声の真剣さに押される。
そして彰は天啓とも呼べるその気づきに大して、思考を掘り下げていった。
『生き残るためには考えろ』
先生はこの戦いが始まってから、事あるごとにそう言っていた。
上から目線で皮肉っているんだと、特に考えていなかったが。
「そうだ。こっちを煽る言葉なんて、何でも良いはず。毎回変えたって問題もない。それなのにずっと同じ文句だったのは……」
それに何か意味があるから。
『生き残るためには考えろ』
これに何か隠された意味が…………いや、違うな。隠されているんじゃない。そのままで受け取ればいいんだ。
つまり……考えれば生き残れると。
「……!!」
彰の全身が震える。理屈抜きに今の考えが正しいと直感する。
敵であるはずの先生が何故そう言っているのか……その背景は分からない。
けど、考えれば生き残れると言うのなら……この状況で正解を見つけ出せていない俺はまだ考えが足りないんだ。
何が足りない……!? 見落としていることはあるか!? 考えを掘り下げていないことはあるか!? ……先生が言っているってことは、先生が関わったことに何かヒントがあるはずだ……!? それは………………。
「そうか。先生の狙いは…………」
そして彰は見つける。この戦いが始まってから……いや、二学期が始まってから見過ごしてきた大量の違和感を。
「一つ作戦を思いついた。二人とも協力を頼めるか?」
彰はそう口にする。
「今から言うことは普通に考えれば常識を疑うようなものだ。一歩間違ってたら命はないが……それでも、俺の考えはそれが正しいと告げている。それは……」
「前置きはいいですから、早く言ってください!」
「……へ? でも、理由ぐらいは言わないと納得できないだろ?」
「彰が正しいって言うなら、正しいのよ。それより理由を説明する時間の方が無駄だわ!」
恵梨と彩香。彰に全幅の信頼を寄せているのは火野だけではない。
本当、どうしてここまで人を信じることができるのか。
そんなことされたら…………全力で応えるしかないだろ!!
「よし、じゃあ今から説明した通りに動いてくれ!」
そして彰は背中のリュックサックを下ろして、その無謀とも思える作戦を話し始めた。




