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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
六章 体育祭、自覚する気持ち

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百四十九話「倉津静利2」

「どうして私の名前を知って…………はっ、もしかしてストーカー?」

 わざとらしい演技付きで彰を見てくる静理。

「んなことするか。というか、そっちこそストーカーだろう」

「どうして私がそんなことを? ……もしかして自分くらいの男ならストーカーくらいされても当然だと? もしそう考えているのなら一回鏡を見てみては? 面白いものがご覧になれますよ」

「……千鶴センセー。静理さんがあんなことを言ってますよー」


「私は先生ではない……が、どうした静理。今日はやけに口が悪くないか?」

 怒られても悪口を止めようとしない静理に、疑問を持つ毬谷。

「別に『今日は』というわけはありません。それが生理的に受け付けられないからです」

 物扱いされた彰だが、怒らず皮肉で返す。

「やけに嫌われてるな……。まあ、二番さんなら一番さんに嫉妬してもしょうがないけど」


「……知ってたんですか?」

 彰の言葉に敵意むき出しで聞き返す静理。

「やっぱり予想通りか」

 その反応に彰は満足する。



「……どういうこと?」

 事態についていけない花の質問に彰が答えた。

「先輩は俺が一年のテストの順位で一位をとり続けているって知ってますか?」

「へ? そうなの? ……まあ、頭がいいんじゃないかとは思ってたけど」

「それを前提に話を聞いてください。まず、先輩も参加した文化祭準備会議。あれには確か生徒会の人は全員出席してました。……それなのに、俺が倉津を見た覚えがないということは、あの会議の後に生徒会に入ってきたということです」

「……私の名前を覚えてなかった彰くんが、生徒会の人たちの顔を覚えてたの?」


「……………それでそのとき俺は生徒会に入らないかと誘われました」

「スルーしないでよ」

「その理由は俺が課題試験で成績一位だったからだそうです」

「むぅ~~。……って、だけど彰くん生徒会の役員じゃないよね?」

「はい、断りましたから」

「断った!? ……けど、よく考えれば彰くん生徒会に向いているようで向いていないね」

 矛盾してる花の言葉だが、的を得ているなと彰は思う。


「となれば、次に生徒会に勧誘するのは誰だと思いますか?」

「それは学年一位に断られたんなら、次は二位にって考えるよね。……そっか、それで」

「はい。というわけで、俺はこの顔の知らない女を学年二位だと断定。……斉明高校では試験の順位は公表されませんが、一位とか二位とかビリだとか突き抜けた順位は噂になりますからね。それで名前を特定したというわけです」

「ほえ~~。すごい推理だね」

 花が感心する。




「それで彰くんが言った二位だから一位に嫉妬している、ってのは正しいのか、倉津?」

 毬谷が確認する。

「……合ってますよ」

 肯定してぽつりぽつりと語り出す。


「親が教育熱心なのもあって、私は小学校、中学校とずっと成績一位であり続けてきたんです。半ば義務のように。

 でしたから特に思うことなく、それを高校でも続けようと思っていました。

 だというのに、入学すぐの課題試験で二位。……これだけならまだ、私は上には上がいる。私ももっと頑張ろうとだけ思ったでしょう。

 ですが、一位を取ったのはいつもふざけているどこにでもいるような男子で。……こんなやつに負けたのかと思うと腹がたってきて……」


「そんな前置きいらん。……ようするに俺が一位なのが認められないんだろ」


 静理の話を一言で切り捨てる彰。

「俺に口悪く突っかかってくるのは八つ当たりなんだろ? ……俺が一位なのが認められないなら、俺に当たってないで自分の成績を上げることを頑張れよ。……いや、そうしたのかな? 中間、期末試験で俺を見返そうとして、それでも敵わなかったから、さらに俺にイライラを」




「うるっさいわね!!!!」




 バンッ!!!!

 机を強く叩くと同時に立ち上がる静理。


「そんなの私にも分かってるわよ!! これが八つ当たりだってことくらい!! ………………けど、分かっててもどうしようもないことだってあるのよ!!」


「おい倉津、どこに行くんだ?」

 そのまま部屋を出ていこうとする倉津に声をかける毬谷。

「…………実行委員会に集まった分のリスト表を届けてきます」

 それだけ言い残して静理は出ていった。




 生徒会室に残された四人。

「…………」

「…………」

「…………」

「………………えっと、皆さんそんなにらみつけて怖いですよ?」

 花、古月、毬谷の視線が彰に集中する。


「女の子相手にあの言い方は無いよ」

「……鬼畜」

「まあ、倉津も強い子だからな。泣いてはいないだろうけど、その寸前って感じだったぞ?」

「へえへえ俺が悪うござんした。……って謝っても許してくれなさそうですし、さっさと退散しますよ。用事は済みましたし」

 そそくさと逃げるように生徒会室から退散する彰。










 また一人減って三人となった生徒会室。

「何か彰くんらしくなかったですねえ……」

「……確かに」

「結構ひどいことも言ったりするけど、本当に相手が傷つくようなことは言わない人だと思ってた」

「……同意」

 花と古月が先ほどの彰の対応に今さら疑問を思う。



 確かにさっきのは彰くんらしくないな。

 毬谷は考える。

 屁理屈とはいえ自分を言い任した相手。……倉津の毒舌にいらついてたという可能性もあるが、それでもあんな何も考えてないような言動をするだろうか?

 考えて考えて口を開いた。


「推論でしかないが……たぶん、彰くんは倉津を守ろうとしたんじゃないか?」

「守る……って?」

「……どういうこと?」



 千鶴が自分の意見を話す。

「あのまま彰くんが何も言わなかったら、私たちが『それは八つ当たりだ』って倉津に言ってただろう。……こっちは三人いるからな。エスカレートして倉津を詰るような言動をしたかもしれない」

「……否定はできない」

「だから、先に自分が指摘して、しかも神経を逆撫でするような言葉で倉津を怒らせた。……それによって自分を悪者に仕立てあげ、倉津を被害者にさせたってわけだ」

「……そこまで考えてたの?」

「それは本人にしか分からない。今のはあくまで一つの可能性だ。単純に倉津の毒舌にムカついていたという可能性も否定しきれないからな」



「けど、たぶん千鶴の言うとおりだよ。文化祭の会議の時に私を救ってくれた彰さんだもん。きっとさっきのも倉津さんを守るためだったんだよ」

 自分の意見に賛同してくれる花。だが、

「ずいぶんと彰くん寄りの発言だな」

「……惚れたの?」

「ええっ!? 何でそんな話になるんですか!?」

 感情がかなりこもっていた花の発言に、邪推する二人。


「そうか花が彰くんをか。……けど、敵は手強いぞ。幼なじみに、同居している女の子に、と」

「……二学期になって転校してきた子も、彰君のことを思っているって噂」

「私千鶴の話に賛成しただけだよね!? その論理だと千鶴だって惚れたってことになるじゃない!」


「そうか。じゃあ、花は彰くんのことが嫌いなのだな」

 いじるときのコツは相手の言動に取り合わないことだ。

「……後で伝えておく」

「えっ!? そんなこと言って無いじゃない!」

「じゃあ好きなのか?」

「……イエスorノー」

「そ、それは……その…………。彰さんには助けられたし、感謝してるし……だから……その………………」

 顔を真っ赤にしてごにょごにょ言っている花。



 これくらいにしておくか。

 花をいじるのは反応がよくて楽しいが、やりすぎるてしまうことだけが欠点だ。

 花の機嫌を取る言葉を探しながら、毬谷は思う。


 倉津だって、本当は彰くんのことを悪く言いたくはないはずだ。けどそうなってしまうのは彰くんが学年一位の成績を取るくせに不甲斐無く見えるからだ。

 普段の彰くんはふざけていることが多いと聞く。……まあ、男子高校生なんてそんなもんだ。

 だが、それも彰くんの一面ではあるが、彰くんの本質は文化祭準備会議のときに見せたあの困っている人を放っとけない精神だろう。あんなこと簡単にできる人間などそうはいない。


 それを倉津は知らないだけで……もし知ったら一位を取るにふさわしい人間だと思ってくれるだろうか。

 なんて……私も随分と彰くん寄りだな。












「俺の本心に気づかれてないよな……」

 生徒会室から教室に向かう途中の彰。

「わざと怒らせることが助けることになるなんて、気づかれるはずがない…………そのはずだ」

 毒舌吐かれた相手を助けたなんて思われたら、おまえどんだけMなんだよって屈辱的な烙印を押される。それにまた君は人を助けて、みたいなところから誉めごろしが始まっていただろう。……どうか気づかれませんように。


 まあ彰の願い届かず、毬谷によってばっちり気づかれているのだが。……Mの烙印を押されていないのだけが幸いか。




「それにしても……」

 なんであんなやつを助けたのか。

 倉津を怒らせる言葉はとっさに出たものだ。深く考えての行動ではない。

 あいつを助けた理由は………………。そうだな、同病相哀れむってことか。


 倉津が俺に八つ当たりをするほどまでに一位を求める理由の一つに、今まで一位を取ってきたからというものがあるだろう。

 言い換えると、一位という過去に自分を縛られている。


「俺も不良だったって過去に縛られているからな……。まあ一つ違うところと言えば、俺は望んで縛られているところか」

 倉津の一位だったという過去を、俺は忘れるべきだと思う。ずっと一位であり続けることなど普通の人間には無理だから。……事実俺に抜かれたし。

 一位で無い自分など、自分じゃないという自己否定はして欲しくないものだ。


 けど、俺の不良だったという過去は忘れるべきでない。……こっちは人に迷惑をかけた過去だから。忘れずに生きて、償っていかないといけないから。



「まあ、でも俺の勝手かそれは」

 倉津に一位になることを諦めろ、と言えるわけがない。向上心を持っていることはいいことだし。

 しかし、それでまた一位になったら倉津は一位病を再発させるだろう。

 だから俺は倉津のために今後も一位をとり続ける。




 ……いや、一位とれなくて悔しがる倉津が面白いからじゃないからね。うん。






「……あ、倉津」

 噂すれば影がさすなのか、そのときちょうど廊下の向こうから歩いてきた倉津と出会った。リストを届け終わってその帰りか。

 見た感じさっきの出来事を忘れたかのように毅然とした様子の倉津。立ち直りが早いな。

 つまり。


「あら、婦女子に暴言を浴びせかけるのが大好きな犯罪者さん。何か用でもあるなら警察に行ったらどうでしょうか。きっちり逮捕してくれると思いますよ」


 毒舌も復活していて。


「……俺なんでこんなやつ助けたんだろうな?」

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