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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
六章 体育祭、自覚する気持ち
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百四十六話「体育祭競技決め ジャンケン勝負4」

昨日はすいません、後半の描写に手間取っていました。

 ジャンケン勝負三回戦の作戦会議時間。

 仁志、美佳、斉藤の三人組は独断でチョキを出す宣言をした斉藤の真意を問いていた。


「チョキを出すってばらしてどうするんだよ? 彰にグーを出されたら負けるじゃねえか」

「あんたは一生黙ってなさい」

 相変わらず駆け引きという物を理解しない仁志に、美佳が冷たく言い放つ。

「それよりあんな宣言して何か勝算でもあるの?」

「はい。……さっきは彰くんに完璧に読まれましたからね。今度はこっちが読み切ってやります」


 元々斉藤は、仁志が勝って騎馬戦の騎手になろうが、負けて騎馬役になろうがどうでもいいと思っている。斉藤の目的は彰を打ち負かして悔しがらせることだ。それをされ返されては黙ったままじゃいられない。


「そうね、じゃあ建設的な議論でもしましょうか」

 その思いをくみ取ったかは分からないが、とにかく今は三分しかない作戦会議時間だ。美佳は話を進める。


「今の彰くんの精神状態からすれば、まず………………」

「こういうデータもあるから………………」

「ですけど………………」

「そうね確かに…………………」

「…………俺は何をすればいいんだ?」

 二回戦同様、話から置かれた仁志はボケーっと立っていた。






「さて、まずは一勝だな」

 二回戦、鮮やかな読みで一勝を確保した彰は落ち着いていた。

 カッコつけて解説したけど、絶対に正しいって読みでも無かったからな……。上手く行ってよかったぜ。

 斉藤に解説して見せた内容は後付けではなく最初から考えていたものだが、そもそも勝負はジャンケンだ。気まぐれで出す手を変える事など普通にあり得ることだ。そういう意味では、見た目ほど余裕のあった勝負ではなかった。


「しかし、さっき蒔いておいた種はちゃんと機能しているようだな……」

 熱心に議論している美佳と斉藤を見て彰は微笑を浮かべる。

 俺に勝とうとするその熱意は認める。事実、一回戦目は不意をつかれたとはいえ完敗だった。……だが、正面からぶつかって勝てるとは思い上がりすぎだったな。俺が本気を出した以上、これからおまえらに勝ちは無い。

「フハハハハハハ!!!! あがいてみせろ虫けらどもよ!! まあ、無駄だとは思うがな!!!」

 興が乗った彰が高らかに笑う。





「魔王彰ね……」

「魔王彰さんですね……」

「ラスボス感たっぷりだわ……」

 恵梨、由菜、彩香は呆れていた。





「作戦会議時間を終了します!! 両者ともに位置に着いてください」

 そして三分が経過し、三回戦が始まる。


「……おまえもうちょっと議論に参加してやれよ」

「俺が参加して役に立つとでも?」

「だから威張るな……。あれだ、枯れ木も山の賑わいって言うだろ」

「俺が枯れ木ほどにしか役に立たないだと!!」

「……ああいや、すまん」

「そうだよな、俺が植物と同等なんて」

「枯れ木の方が役に立つな。何か燃やすときとかに使えるし。けど、おまえの使用価値はゼロだろ」

「枯れ木以下だと!?」


「両者静粛に。……会場のみなさんも静かにしてください」

 レフェリーが彰と仁志の言い争いを止めさせてから勝負の始まりを告げる。

「それではこれよりジャンケン勝負三回戦を始めます。……両者こぶしを前に出して」


 そして始まる三回戦。


「最初はグー」



 二回戦の意趣返しとなる斉藤のチョキ宣言。彰がまたも出す手を読み切るか、それとも今回は斉藤たちの読みが上回るのか――。






 誰もがそんな展開になると誤解していた。






「俺はグーを出す」

 彰以外は。




「!?」

 勝負間際になっての宣言に明らかに仁志が動揺する。

「しまった……!?」

 その後方、斉藤も痛恨のミスに気づく。



「ジャンケン」



「絶対だ」

 だめ押しの一言。



「ポン!!」



 そして彰の出した手は宣言通り……なわけがなくチョキ。



 仁志の出した手はパーだった。




「俺の勝ちだな……(ニヤリ)」

「…………」

 彰の発言に乗せられた仁志。いいようにやられて声も出ない。




「うっわー、えげつねえ」

「けど、勝負の直前にあんなこと言うなんてありなのか?」

「いや、あの絶妙なタイミングで揺さぶった彰を誉めるべきだろ」

 彰のグレーゾーンの行いに、観客も支持と反対で二分される。


 そんな観客に向かって彰は言った。

「おいおい。勝負の直前に口を開いてはいけない……なんてルール、誰も決めてなんていないだろ?」


「「「………………」」」

 ああ、うん。確かに言ってないけど。……それって結構屁理屈だよね。

 観客の中には彰のことを、大人げないだとか、そこまでしてでも勝ちたいのかとか、ここまでひどい暴論は初めて見たとか、視線にそれを込めて詰るがどこ吹く風で彰は受け流す。


「だったら、斉藤。今の俺の行為、反則か? それで今の勝負無効にでもするか?」

 観客に言っても意味ないな、と彰は思い直して対戦相手である斉藤に問いかける。

「……確かに彰くんの行為はグレーゾーン上です。レフェリーが開始前に『静粛に』と言っているんですからね」

 やれやれといった感じで斉藤は答える。

「ですが、それを破ったからといって反則だとは誰も言ってませんからね。認めましょう、彰くんの勝利を。……もっとも、次からは禁止です」



 しぶしぶ認める斉藤。これは彰の予想通りだった。

「これからは気をつけまーす」

 斉藤は勝負に勝ちたいんじゃない。俺を悔しがらせたいんだ。……だから、勝負の後で『いや、本当は勝ってたし。だけどあの勝負が無効になったから』というような言い訳の余地が残ることをしない。だから嫌々だろうと、認めると思っていた。




「それにしてもあのタイミングで揺さぶりとはやってくれましたね……」

 斉藤の恨み節。

「いや、おまえもやったことだろ。ただ少しタイミングが違ったってだけで」

「……今思えば、さっきの『このジャンケン勝負、大事なのはどこまで裏を読むかじゃない。……相手の力量を把握して、どれだけ裏を読むかを見切ることだ』って発言。

 ……あれって、このジャンケンが読み勝負だと印象づけるために言ったんですね」

「気づくのが遅いが、まあ気づいただけでもすごいか。……その通り、この勝負は相手のことをどれだけ読むかという側面もあるが、本質的には俺と仁志のジャンケンだ。……おまえだったらさっきの揺さぶりにも動じなかっただろうが、手を出すのが仁志である以上そこを突かれると考えるべきだったな」

「本当はグーを出すようにと指示してたんですが…………何があっても絶対にグーを出すように言っておくべきでしたね」

「まあ、そういうことだな」



「それではジャンケン勝負四回戦開始の前に作戦会議時間を取ります。……時間は今から三分」

 レフェリーの宣言。

「おっと、もう時間か。……直前に言うのは駄目らしいから、先に行っておく。

 俺は次、パーを出す」

 勝ち越した彰だが、攻め手を緩めるつもりはないようだ。

「……そうですか。分かりました」

 そして二人は離れて、四回戦の作戦会議時間が始まった。








「次の勝負、彰くんはパーを出す……ですか」

「今度はどう来ると思う?」

 早速彰の発言の裏を取ろうと躍起になる斉藤と美佳。

「そうですね……」

「あっ、その前に一つだけ良いか?」

「チョキを出せば勝てる、って言わなかっただけ偉いわ。だからあなたは黙ってなさい」

 割り込んできた仁志を封殺しようとする美佳だったが、

「俺だって無い頭を振り絞って考えたんだから少しぐらい意見してもいいだろ!!」

 珍しく仁志は引かなかった。


「……何ですか、手短に」

 その意志の強さに免じて、話くらいは聞いてやるかという気分になった斉藤。

「彰の手を予想できないけど、彰のこういうときの考えは何となく分かる。……何せ俺は彰に負け続けてきたからな」

「自虐はいいからさっさと」

 美佳の急かしに仁志は自分の考えを語った。



「彰はたぶん――」











 現在の勝敗は二勝一敗。……結局負けたのは、最初の不意打ちだけで、本気を出した後は負け無しだな。

「あと一勝で俺は騎手になれる」

 そのためにも油断してはいけない。

 二回戦は鼻をかく癖で誘導できたし、三回戦は仁志を狙って楽に勝てた。

 しかし、この四回戦。こちらの手札はもう無い。……いや、正確には一枚残っているけど……大博打だし。

「だから、ここは純粋に読み勝つ!!」

 彰は意気込み新たに、頭をフル回転させ始めた。







「作戦会議時間を終了します!! 両者ともに位置についてください」

 そしてあっという間に三分が経過する。


「これで勝負が終わりだと思うと悲しいな……」

「どの口がほざいてやがる。俺たちが勝って、最終戦にまでもつれ込むっての」

「おいおい、おまえは忘れたのかよ? 今までそんな威勢の良いこと言って、結局二連敗した事実を?」

「彰こそ、一回目はあっけなく負けた癖に」

「…………(ガシッ)」

「………………(ガシッ)」

「はいはい、相手に掴みかからないで。両者静粛にお願いします」

 とうとうやりとりが言葉で飽きたらず、物理にまで発展したのでレフェリーが仲裁に入る。




「彰が二勝一敗でリードだな」

「このまま三連勝するんじゃないか?」

「けど、斉藤や西条がこのまま終わるってのも考えにくいしなー」

「つってもここまで二連敗だぜ?」

「観客の皆さんもご静かにお願いします」

 観客の総意はどちらが勝ってもおかしくない、というものだ。



「それではこれよりジャンケン勝負四回戦を始めます。……両者こぶしを前に出して」


 そして始まる四回戦。


「最初はグー」

 彰がパーを出すと宣言したこの勝負。しかし、二回戦、三回戦と違ってそれ以外には何もしていない。

 ある意味、今までで一番純粋なジャンケン。

 それを制するのはどちらなのか……!



「ジャンケン、ポン!!」




 彰の出した手は……裏をかいてか、宣言通りのパー。




 しかし、仁志の出した手はチョキだった。




「…………えっ?」

「シャァッ!!! 俺の勝ちだ!!」

 思いっきりガッツポーズを決める仁志。


「マジか、仁志の勝ちか……!?」

「つうことは勝負は最終戦に……!?」

「斉藤と西条がやりやがった!!」

 観客も勝負は最終戦に持ち越しという盛り上がる展開にテンションが上がる。



「というわけで僕たちの勝ちですよ、彰くん」

「残念だったわね~」

 斉藤と美佳もようやくの勝利に調子良く彰に声をかける。

「どうして……だ。おまえらならグーを出す……それが俺の結論だったのに」

 納得のいかない彰が問い返す。


「ああ、それならですね………………今回僕たちは彰くんが出す手を読んでいませんから」

「…………はあ? どういう」

「仁志が言ったのよ。……彰は俺が一番悔しがる勝ち方を狙ってくるだろうって」

「……一番悔しがる勝ち方ってどういうことだよ?」

「簡単な話じゃないですか。パーを出すって言われた相手に、パーを出されて負ける。……それが一番悔しいに決まっているじゃないですか」



「………………」

「その表情って事は、彰くん自身も意図しないでやっていたようですね」

「意図してないのにパーを出すって逆にすごいと思うけど……」

「俺はそんなつもりは全く……純粋に読んだ結果で」

「……おやおや、この様子を見る限り仁志くんの論理は全くの的外れだったみたいですね」

「まあいいじゃない。結果として勝ったんだから」




「それではジャンケン勝負最終戦開始の前に作戦会議時間を取ります。……時間は今から三分」



「そうですね勝ちは勝ちです。……というわけで、最終戦で雌雄を決しましょう」

「ほら、彰もいつまでも引きずっていないで。そんな彰に勝っても面白くないわよ」

「…………敵の心配をするとはよっぽど余裕だな?」

「ええ、だって流れはこっちに来てるからね」

「いいだろう、最終戦は絶対勝ってやるからな」

 調子を取り戻した彰が力強く言う。



 そうして運命を決める最終戦、その作戦会議時間が始まった。

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