百四十五話「体育祭競技決め ジャンケン勝負3」
更新遅くなってすいません。
仁志が勝ったと思われたジャンケン勝負は、彰の屁理屈により五回勝負に変更となった。新たな展開にどうせいつもと同じだろと飽き飽きしていた人たちも注目し始めた。
「それではジャンケン勝負二回戦開始の前に作戦会議時間を取ります。……時間は今から三分」
レフェリーとなっている生徒もノリに乗って言い回しが本格的だ。
「ああ、その前に一つ言いたいことがある」
それに割って入ったのは彰だった。
「どうしましたか?」
斉藤の聞き返しに彰は宣言する。
「次の勝負、俺はチョキを出す」
「マジか。高野の方から仕掛けたぞ」
「挑戦的だな……」
「あれ? 今の彰さん……」
彰の宣言にざわつく会場。
「……本当ですか?」
「さあな、おまえらで考えろ」
そのまま振り返って遠ざかる彰。作戦会議が聞こえないように離れたのだろう。細かいところで律儀であった。
そして始まる仁志、美佳、斉藤の作戦会議。
「彰もああ言っているし、グーを出して勝ちだな」
「アホね」
「アホですね」
開始早々、駆け引きというものを全く分かっていない仁志の発言。
「時間も三分しかありませんし、仁志君は無視して進めましょう。……美佳さんはどう思いますか?」
「何で俺を無視するんだよ。俺はこの勝負の」
「そうね……本来なら彰の発言どうだって考えられるんだけど……」
「おい、無視するなよ」
裏をかいているのか、裏の裏をかいているのか、あえて裏をかいていないのか、と考え始めればキリがない。
「けど?」
「はっきり言って、この勝負私たちの勝ちよ」
「! ……そこまで言い切るとはかなりの自信ですね」
「……もういい。出す手が決まったら教えてくれ」
仁志が凹むが、構わず二人は進める。
「どうして何ですか?」
「彰には癖があるのよ。……嘘をつくときに鼻の頭をかいてしまうという癖がね」
「……ほう? それは初耳ですね」
「まあ、知っている人もほとんどいない癖だからね。……そしてさっきの宣言の時、彰は鼻の頭をかいていた」
普通の人なら何気ない仕草だと思って気にも留めなかっただろうが、彰の癖を知っていた美佳はちゃんと見ていた。
「つまり、チョキを出す発言は嘘だと」
「裏を返すと、グーかパーを出すってわけだから、こっちはパーを出せば負けないわ。……というわけで仁志。次の勝負はパーを出しなさい」
「分かっ」
「…………ちょっと待ってください。気になることがあります」
楽勝ムードを戒めるように斉藤が懸念を示す。
「さっき彰くんの癖について、ほとんど知っている人がいないって言いましたよね?」
「そうね……もともとは由菜が発見した癖だし、他に知ってそうなのは……恵梨と彩香さんくらいかな」
「ということは誰かがその癖があるって彰くんに教えた可能性はありますよね?」
「…………そこまでは知らないけど」
美佳は知らなかったが、確かに恵梨によって彰は自分がこの癖を持っていることを指摘されている。
「つまり、斉藤くんが言いたいことは彰が罠を張ったんじゃないかってこと?」
「美佳さんが自分の癖を見抜いていることを見越して鼻の頭をかいた。……彰くんなら、それくらいやってもおかしくはないと思います」
「考えすぎだと思うけど…………考えられない可能性でもないわね。恵梨と由菜に聞いて確定させたいけど、時間も無いし……」
「僕たちが裏を読んでパーを出すと考えているはずですから、彰くんはチョキを出すはずです。だから僕たちは裏の裏を読んでグーを出すべきかと」
「…………なあ、よく分からんけど、彰が裏の裏の裏を読んでいる可能性は無いのか?」
議論から外されて手持ちぶさただった仁志の発言。
「そんなこと考え始めたら、キリがありません」
「三すくみの関係であるジャンケンだから、裏の読みすぎは墓穴を掘るからね」
「……んー、そうか。じゃあ俺はグーを出せばいいんだな」
仁志が納得したところで。
「作戦会議時間を終了します!! 両者ともに位置に着いてください」
レフェリーが作戦時間終了を告げた。
「せいぜい無い頭を振り絞って考えたか?」
「そっちこそ負ける用意はしてきたんだろうな?」
位置に着くと同時に始める丁丁発止なやりとり。
「あっ、そういえばおまえは考える必要はないんだったな。後ろの二人が考えてくれるんだから。……良かったな、おまえの仕事はただ指示に従って手を出すだけだ。バカでもできる仕事だな」
「……確かにな!!」
「いや、何故そこで威張る?」
彰が思わず仁志の心配をする。
「両者静粛に。……会場の皆さんも静かにしてください」
レフェリーが二人を落ち着かせる。
「それではこれよりジャンケン勝負二回戦を始めます。……両者こぶしを前に出して」
そして始まる二回戦。
「最初はグー」
彰のチョキを出す宣言から、彰の思考を読み切ろうとした三人の挑戦は上手く行ったのか……!
「ジャンケン」
その結果が今ここに現れる……!!
「ポン!!」
仁志の出した手は打ち合わせ通りグー。
対して、彰の出した手は……パーだった。
「……へっ、俺の勝ちだな」
「くそっ!!」
彰の不適な笑みに、悔しがる仁志。
「そんな……!! 彰の思惑は読み切ったはずなのに!!」
「……全部手のひらの上だったってことですか」
美佳と斉藤も絶対に勝てると思っていただけに落胆の幅は大きい。
「チョキを出すって言われたからって、安直にグーを出しても勝てるわけ無いだろ」
「仁志だけだったらそうかもしれないけど、あの二人がいる以上何か考えがあったんじゃないの」
「それでも負けてるんだけどな」
会場では今の勝負の結果について各々が憶測を出し合う。
「良い線行ってたぞ。……やっぱり俺が嘘をつくときに鼻の頭をかくことを知ってたんだな」
勝利した彰が上から目線で労ってくる。
「っ……! やっぱり、彰自分の癖を知っていて……!」
「……けど、おかしいですね? それだけならチョキを出すはずですが」
「そんな考えだから足下をすくわれるんだ、斉藤。このジャンケン勝負、大事なのはどこまで裏を読むかじゃない。……相手の力量を把握して、どれだけ裏を読むかを見切ることだ」
「………………」
「俺はわざと鼻の頭をかいて見せた。そうすれば美佳が自信満々に俺の出す手を予測する。しかし、不確定な情報があるその考えに斉藤が異議を唱える。それに美佳が同調する。……そこで考えを止めるだろうと予測できていた」
「何故ですか?」
「一つは単純に三分という作戦会議じゃそこまでしか考えられないだろうという読み。そしてもう一つはおまえらが三人だってことだ」
「……?」
「三人で考えるというのは、単純に三倍の量を考えられる利点がある一方、三人ともが納得した結論を出さないといけない。
俺の裏を読む。これは美佳の情報があるから納得できるだろう。
俺の裏の裏まで読む。これも斉藤の疑念があり得そうだと納得できる。
だが、俺の裏の裏の裏まで読むとなると、誰かがこう言うんだ。『それは深読みしすぎじゃないのか』ってな。
そこで遠慮深い日本人の特性、意見のすりあわせが発動する。……経験あるだろ? A、B二択の問題があったとする。自分はBが正解だと思ったが、他の大多数がAに手を挙げたからあわてて自分もAに手を挙げた……みたいなことがな。
そういうわけで俺の裏の裏の裏を読んだ発言は引っ込められて、最終的な結論がグーになることは予測できたってわけだ」
「確かに仁志くんがそんなことを言いましたが……もっと真剣に考えるべきでしたかね」
斉藤が悔やんだところで。
「それではジャンケン勝負三回戦開始の前に作戦会議時間を取ります。……時間は今から三分」
「ああ、その前に一つ言いたいことがあります」
それに割って入ったのは斉藤だった。
「何かデジャヴだな……。どうしたんだ?」
彰の聞き返しに斉藤は宣言する。
「次の勝負、僕たちはチョキを出します」
「……おいおい、出す手くらい変えろよ」
彰は自分と全く同じ宣言に苦笑しながら答えた。
「今度は斉藤たちから仕掛けたぞ!?」
「これで勝敗は互角だがどうなるのか……!」
「(鼻の頭をかく……彰さんが嘘をついているときの癖ですけど……。……そういえば最近あの癖を見たことがあるような……?)」
観客も熱い展開に沸いていた。
明日も更新でき…………たらいいなあ。




