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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
六章 体育祭、自覚する気持ち
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百四十話「畑谷先生の呼び出し」

 彩香が教室で女子生徒に囲まれている頃。

 彰は担任、畑谷先生に呼び出され職員室を訪れていた。

 学級委員長という立場から職員室を訪れることは多いが、呼び出しを食らったのは高校に入ってから初めてだ。


 一体先生は何の用事で呼び出したんだろうか……?

 昔、中学の不良時代は職員室に呼ばれること=怒られることだったが、現在の彰は品行方正の学生を心がけている。

 特に悪い事をした覚えはないが……。


「というか先生遅いな……」

 彰が立っている位置は畑谷の机の前だ。隣の先生から聞いたところ、用事で少し席を離れているとのこと。呼び出しておいてこれとは、もうバックレて帰っていいんじゃないか……?

 職員室は先生の領域だ。生徒がただ立っているだけで、注目を受ける。その居心地の悪さに離脱を考え始めた彰は、そのとき小走りで寄ってくる足音を耳に捉えた。


「ああ、すまん! 待たせたな、高野」

 呼び出した本人、畑谷であった。




「それで話って何ですか?」

 畑谷が落ち着くのを待ってから彰は質問した。

「今度体育祭があるだろ。それで競技毎のクラスからの参加者を決めないといけないから、委員長として話し合いでもしてまとめてくれ」

 そう言いながら競技一覧が載った紙を渡す畑谷。

「いきなりですね。……まあ体育祭は九月の第四日曜日ですから、時間がないのも分かりますけど」

「LHRの時間も全体練習だとかで潰れるから、放課後とか昼休みにでも決めておいて欲しい」

「分かりました。……早速明日の昼休みにでも話し合いたいと思います」

 受け取った紙を持参してたファイルに入れる彰。


「そういえば転校生がクラスに二人も来ましたけど、どうして二人とも二組に来たんですか? 二組には四月に恵梨が転校してきてますし、一学年に三クラスあるんですから分散するのが普通だと思いましたけど?」

「ああ、それはほら。一年の他の担任は年配だろ。うちは私立だから本来転校生は受け入れてなくてな。今回特別に二人も転校生がやってきて、受け入れる方はいろいろと手続きが面倒なんだよ。だから力関係で一番下の自分に全部回って来たってことだ」


 確かにこの近くには他に公立高校がある。なので引っ越してきた高校生は本来そっちに行くべきなのだ。

 しかし、一年二組にやってきた三人の転校生はみんな普通でなかった。。

 恵梨はラティスの『記憶メモリー』を使って、彩香と火野は……聞いてないが、たぶん風野藤一郎が無理を通したのだろう。だから面倒なことになった、と。


「ご愁傷様です」

「その程度どうって事なかったけどな。それに聞いたところ、二人は高野たちと知り合いなんだろう? 知り合いがクラスにいた方が早く学校に馴染めるだろうし、結果オーライだ」

 ひらひら手を降る畑谷。生徒のことを考えているその姿は、やっぱり先生なんだなと再認識する。



「それじゃあ雑談はここまでにして、そろそろ本題に入りましょうか」

 職員室に長居する趣味のない彰はさっさと核心に迫る。

「え?」

「体育祭の競技決めの事だけなら、明日の朝にでも渡せば良いはずです。それなのに俺を呼びだしたって事は、何か違う話があるんでしょう?」

「……鋭いな、高野は」

「これくらい普通ですよ」

 ぽりぽりと頭をかいてから、畑谷は口を開いた。


「話っていうのは、ほら、高野は課題試験に続き期末試験も群を抜いて一位だっただろ。何のために勉強をしているのか気になってな」


「……勉強は学生の本分ですよ?」

 そういうことを言いたいのではない、と彰は分かっていたがつい話題を逸らすように口をついて出た。

「いや、それは分かってるんだが……。ええと、何て言ったらいいのか。……将来何かの職業に就きたいとかそういうのがあるのか? 医者とか、弁護士とか」

「将来についてはあまり考えてませんね。……まあ、大学ぐらいには行くつもりですが」

「だったら何故そこまで勉強を? ……いや、悪いって言うつもりはないんだがな。夏休みの宿題も素晴らしい出来だって、各教科担当が褒めてたし」

「……何か思うところがあるんですか? わざわざ呼び出して話すくらいですから」

 どうにも話が見えてこないので、彰は自ら切り込む。


「何の理由・目標もない熱意っていうのは時に暴走してしまう。……そういう人物を見たことがあってな。高野がただがむしゃらに勉強してるだけなら、考え直して欲しいと思ったんだ」

「そういうことですか」

 その人物はどんな人だったんですか、と聞きたくなったが野暮な質問だと思ってやめた。


「それでどうなんだ?」

「……なら大丈夫ですよ。自分が勉強しているのはきちんと理由がありますので」

「理由聞いてもいいか?」

 その問いに彰は考える。

 この理由はどちらかというとあまり話したくない物だ。だから適当に誤魔化したい……ところだが、先生は真摯に心配している。そんな人に嘘をつくのもはばかられるところだ。

 ……ならしょうがない。少しぼかして話す。これでいくか。


「先生は俺の中学時代のことを知ってますか?」


「…………不良だったって事か? 表面ぐらいしか知らないがな。何回も補導食らった生徒が入試トップの成績で入ってきたらいろいろと話題にはなるさ」

 やっぱり先生は知っていたか。……それでもいつもは普通に接してくれてたとはありがたい。


「それなんです。『不良だった』……そう言われるために俺は勉強しているんです」

「……何かいろいろ事情がありそうだな」

「それで俺が被害に遭うならまだ我慢できるのですが、周りに被害が及んだので。……これくらいでいいですか?」

「ああ、すまん。理由があるならいいんだ。……この話は終わりにしよう」

 畑谷が話を打ち切る。……これ以上続けようなら、どう言っていいのか分からなかったのでちょうど良かった。




「それでは今日はもう帰ってもいいですか」

「あ、ちょっと待ってくれ。……えっと、高野に用意したプリントは……これか」

 ごちゃごちゃ散らかっている机上から、畑谷は一枚のプリントを発掘する。

「……何ですかこれは?」

「高野のために用意したハイレベル問題だ」

「いや、ハイレベルなのは見れば分かりますけど、何故それを俺に?」

「学校の勉強じゃ物足りないだろうと思ってな。いやあ、久々に先生も学習意欲の高い生徒を見つけたんだ。もっと伸ばしたいと思うのが先生という職の性だろ」

「いつも先生らしからぬ言動の目立つ畑谷先生にもそんな性があったんですね」

「当ったりまえよ」

 つい突っかかるような言葉が出たが、別に彰も文句があるわけではない。むしろ、個人指導してくれるなら願ったり叶ったりだ。


「そういえば先生の専門は物理なのに、これ数学の問題ですよね?」

「高校の数学くらい先生だって教えられるさ」

「………………にしてもこれ二学期の後半でやるところじゃないのか。まあ解こうと思えば解けると思うけど…………」

 プリントに目を落とし考え込む彰。


「これくらいできなければ生き残れないからな。頑張れよ」

 生き残れない? いや、まあ昨今の受験戦争が厳しいのは分かっているけど先生もおおげさだな。


「分かりました。……それでいつまでにやってくればいいですか?」

「そうだな……来週の明けに指導を行うからそれまでに。ただ、金曜日は遠足で山登りだから、土日は疲れで勉強やる気がおきないだろう。だから遠足までに終わらせておけよ」

「まあ、そうですね。今日からやり始めますよ」

 ちなみに今日、九月一日は火曜日だ。


「じゃあそれくらいだ。体育祭の競技決めも頼むな」

「頼まれました。……それでは失礼します」

 彰は一礼して回れ右。職員室を出ていった。



『異能力者がいる世界』二周年記念、連日更新一日目!

作者の力が及ぶ限り毎日更新します。というわけで、明日も更新します。

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