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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
六章 体育祭、自覚する気持ち
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百三十九話「彩香の受難」

祝連載二周年!!

 転校生紹介の後、始業式を経てからLHRをさらっとやって放課後を迎えた。


 といってもすぐに帰った人間は、用事があるなど極僅かだった。一年二組のほとんどが今日やってきた二人の転校生のところに押し寄せ質問責めをしている。(先生に呼ばれ職員室に行っている彰は除く)

 始業式があった関係上、朝のうちに質問する時間をそこまで取れなかったのだ。

 男子は火野に、女子は彩香のところに集まっていた。



「ところで火野君。……君は彼女がいるのかね」

「彼女? そんなのいないで」

「それなら我がRBIに入る資格はあるが……」

 RBI会長、秀才の斉藤に熱血の戸田山が進言する。

「会長。もう少し普段の生活の様子を見てからの方がよろしいのではないですか? 無自覚リア充の可能性もありますし」

 そこに憎めないバカこと仁志が言葉を挟んだ。

「いや、火野に限ってそんなことはないぞ。だって俺のダチだからな」

「何と、仁志がダチと認める存在か……」

「それなら認めるしかあるまいな。……それでは火野のRBI所属に賛成の方は拍手で迎えよ」

 すぐに大きな拍手の音が教室に響いた。

「賛成多数か。……ではよろしく頼むぞ。同士、火野よ」

「? ああ、よろしく頼むわ」

 訳の分からないまま差し出された手を握る火野。


「ところでRBIって何なんや?」

「リア充撲滅委員会(RBI)だ」

 何だそれ? と火野は思った。






「ねえねえ、風野さんってどこから来たの?」

「美佳とはどういう知り合いなの?」

「姿勢がすっごくきれいだけど、何かやってるの?」

「どうしてこの学校に来たの?」

「そんな一遍に聞かれても困るのだけど……」

「ほらほら、みんなちょっと落ち着きなさい。質問は一人一人順番に」

 美佳が間に割って入る。こうして女子ばかりが集まったときは美佳がまとめ役を務めることが多い。


「じゃあまず、どこから来たの?」

「純章学園よ」

「……え? それって、あのお嬢様学校だよね? 女子だけしか入れないんだっけ?」

「偏差値も結構高かったはずよね」

「風野さんってお嬢様なの?」

 一つの答えに三つも質問が返ってきた。

 美佳さんがまとめてくれているけど、この多数に質問される状況は変わらないわね。


「そうね、周りはお嬢様ばかりだったわ。私は小学校と中学校は普通の学校に行ってたけど、ほとんどの人が小学校、中学校とエスカレーター式で上がってきてたわね。男に全く免疫が無い純粋培養で、派閥だとか権力闘争みたいなのがあって、いろいろと面倒だったわ」

「へえ。じゃあ風野さんの感覚はどちらかというと一般人寄りなんだね」

「え、けどあの学校に入ってたくらい何だからやっぱりお嬢様なんじゃないの? 入学金とか法外に高いって聞いたことあるし」

「……後からバレるのも嫌だから先に言うけど、私の父親はアクイナスの社長よ」

 彩香の暴露に対する反応は十人十色だった。


「アクイナスって何だっけ?」

「何でそんなことも知らないのよ! 最近急成長した総合企業よ!」

「いろいろとCMしてるよね」

「一代でここまで会社を大きくした風野社長の手腕は神懸かりだって言いますよね」

「風野藤一郎社長……風野彩香……そういうことだったの」

「大企業の社長の令嬢なんて初めて会ったなあ」


「………………」

 こんな反応をする人たちもいるのね。

 今まで父親の職業を告げた瞬間、かしこまられたり妬んでくることの多かった彩香。単純に興味を持ったその反応は珍しい光景だった。

「だから私はみんなからすればお嬢様なのかもしれないけど、普通に対応してくれることを望むわ」


「へえ、珍しいお願いだね。……まあ良いけど」

「かしこまった態度で接しなさい、って言われるかと思ったけど、逆なのね」

「言い方悪いけど、風野さん普通の女の子みたいだからありがたいね。もし金髪縦ロールな髪型だったら、そう言われてもかしこまったかもしれないけど」

 返ってきた答えはバラバラだが、全部YESだと思って構わないだろう。

 自分の提案が受け入れられたことに彩香はホッとした。


 のが、いけなかったのか。

「この学校に来たのは何でですか!」

「あ、ちょっと次は私の質問の番でしょ!」

「早いもの勝ちよ!」

 不意に出された質問に、彩香は素で答えてしまった。


「え、そのっ、彰を」


(しまった……!)

 とまで言って、彩香は自分がミスったことに気づく。


「……あ、キラ?」

「いや、どう考えても今言ったのは『アキラ』でしょ」

「アキラ……ってもしかして高野彰のこと?」

「え、風野さん美佳とだけじゃなくて、委員長とも知り合いなの?」

 アキラというワードに反応して各々に憶測を広げる一年二組女子たち。


(まずい……どうすれば……)

 彩香が焦るが、この学校に転校してきたのは前の学校の環境が合わなかったというのもあるが、はっきり言ってこの学校に彰がいるからだった。

 そんな理由で転校していいのか、と思われるだろうがこの転校は父親、風野藤一郎の提案である。娘と彰の結婚を望んでいる藤一郎としては同じ学校にいた方が仲が進展するだろうと見越してだった。

 本来止めるべき立場である親が、推奨する始末なのでこの転校が成ったのである。


「ていうかこの学校に来た理由なのに、高野彰の名前が出るって……つまりそういうこと?」

「そういうこと、ってどういうこと?」

「いや、その高野彰にホの字なんじゃないかって」


「ば、バカ言うんじゃありません! 私が高野彰のことを好きなんじゃないかって、そんなことあり得ません! あんなぶっきらぼうで、ガサツで、鈍感で、子供っぽくて、女の子のことを考えてないようで考えていて、いざとなったときは頼れて、私をトラウマから救ってくれたあんな素敵な男のことを好きになるなんてあり得ません!!」



「そ、そうよね。疑ってごめんね」

「……って、なんで言葉の勢いに騙されてんのよ。最後の方、どう聞いたって委員長のこと褒めてたじゃないの」

「怪しい……」

「怪しい……」

「怪しい……」

 獲物を見つけた肉食獣のように目をギラリと光らせる女子たち。


 彩香は逃げの一手を打つしかなかった。

「そ、それよりもさっき誰かが私の姿勢がきれいだって言ってたわよね! それは私が」

「今はそれより委員長の話を」

「剣・道をやっていたからで!!!! それのおかげなのよ!」

 話を遮ったのを、さらに大声を出すことで遮断する。


「中学ではその全国大会に行ったくらいの実力で、本当は純章学園に行ったのも剣道が強いっていう理由からで! けど、剣道部は強かったけど学校には合わなかったから」

「彩香さん彰のこと好きだから、この学校まで追いかけてきたんだよね」

「この転校はちょうど良かったって美佳さん何言ってるんですか、それは本当のことですけど皆の前で言う必要はないじゃないですか!!」


「「「本当のこと?」」」

「……はっ!?」

 墓穴を掘ったとすぐに気づいた。


 すぐにわき起こる質問の氾濫。

「ねえねえ、何で委員長のこと好きになったの!!」

「馴れ初め聞かせてよ!」

「そういえばトラウマから救ってくれたってどういうこと!」

「何か二人のエピソード無いの!?」

「二人の関係はどこまで進んでるの!?」


「その……それは……」

 もみくちゃにされる彩香に救いの主が現れた。

「ちょっとみんな待ちなさいって! さっきも言ったけどそんな一斉に聞かれたって彩香さん答えられないでしょ! それにそんなプライベートなことを彩香さんが話せるわけが無いでしょ!」

「美佳さん………………」

 一瞬みんなを諫めてくれたことに感謝するが、そもそもの発端は美佳であったことに気づく。

 まあ、それでも止めてくれたから礼を言うべきでしょうか、と彩香は思ったが、美佳の言葉には続きがあった。



「だから私が教えてあげるわ。……彩香さんと彰が初めて会ったのはGWのことだったわ」



「って、ちょっと待ってください!? 何故、美佳さんが話し始めてるんですか!?」

「え、だって彩香さん自分で話すの恥ずかしいでしょ? 藤一郎さんから聞いてだいたい知ってるから、私が代わりに話すわよ」

「それは恥ずかしいですけど、美佳さんが言ったら同じことじゃないですか!?」

「けど、教えるまでこの人たち返してくれそうにないよ?」


 美佳と彩香を囲んでいる女子生徒たちがうなずく。


「幸い、今日は半日で学校が終わったから時間もあるし、海でのことまで話せそうね」

「幸いじゃないわ……不幸よ」

 そして美佳と彰の馴れ初め話は一年二組女子に共有された。


 冒頭にも書いたとおり『異能力者がいる世界』が連載二周年となりました!

 ここまで続ける事ができたのも、読者のおかげです。……いや、本当にそうなんです。読んでくれる人がいなければモチベーションを保てず絶対に途中で断念していたに違いありません。

 『異能力者がいる世界』も現在六章。まだまだ先は長いですが、これからも読んでいただけたら幸いです。三年目もよろしくお願いします。


 連載二周年ということでちょっとしたことをやりたいと思います。……本当にちょっとしたことなので、あまり期待をせずに待っていてください。

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