百二十三話「旅行二日目 夏祭り騒動2 再会の三人組」
トイレから帰る道中、雷沢は嫌な予感を覚えていた。
『電気』の能力を持つ雷沢はこの世界が彰を主人公とした異能力バトルの世界だという妄想を行っている。
自分ではなく彰が主人公なのは、厄介な過去を引きずっていたり、存在が確認されていなかった能力者であったり、事件に巻き込まれる率が高かったり、高校生なのに親が家にいないことだったり、鈍感、同級生との同居、自分のことを好いている幼なじみなどなど主人公としての要素が完璧に揃っているからだった。
だから雷沢は彰が日常を改めて大事だと思ったと聞いて、フラグが立ったとしか思えなかった。
日常が脅かされるというフラグを。
「……まあ、そんなことあるわけないか。物語じゃあるまいし、現実は心配するだけ無駄だな」
自覚しているタイプの厨二病である雷沢は、妄想ばっかりしている自分を反省して、
「キャーーーー! 誰か助けてくだサイ!!!!」
ちょうどそのとき女性の叫び声を聞いた。
「! 今の声何や!?」
「たぶんあっちの方だ! 行くぞ!」
微塵の躊躇もせずに彰は声のあがった方向に駆け出す。
「おい、待てや!」
釣られて火野もその背中を追いかける。
「…………何なんだ、これは」
しかし突然の事態に雷沢は呆然としていた。
女性の叫び声。そんなものが日常に存在するはずがない。つまり何かの事件が起きたということだ。
そして彰と火野もそれに絡みに行っている。……いや、人を助けるという行動はいいことなのだ。
だがタイミングが出来すぎではないか? 女性が叫び声を上げるのがあと一分でも早くても、遅くても自分たちは気づかず通り過ぎていただろう。
「これがフラグの力ってことか……?」
運命のようなものを感じた雷沢は自分の妄想を思い出す。
物語の時は考えてもみなかったが、現実に起きたとなると、彰くんが日常を思っただけで事件が起きるとはすごいことだな。この場合はさすが彰くんとでも言うべきなのだろうか?
「……そう考えると僕もフラグを立てていたのか」
雷沢のさっきの言動。
『……まあ、そんなことあるわけないか』
これはつまり、そんなことがあるフラグだ。
「フラグの力は絶対ってことか」
雷沢は彰と火野の後を追いかけ始めた。
「くそっ、確かこっちの方だよな」
悲鳴を聞いて真っ先に飛び出した彰は周囲の状況を窺いながら走る。
ちょうどこの辺りは神社の敷地の端で、祭りに関する催しも無いので、それこそ彰達のようにトイレに行く途中の人ぐらいしか通ってない。
神社の裏手は林になっているらしく、どうやら悲鳴はそちらの方角から聞こえた。
「見つけた……」
彰が出たのは小さな広場のような場所。小さな地蔵が三つあるがそれのための広場だろうか?
とにかく、そこには四つの人影があった。
「誰か、誰か助けてくだサイ!!」
「ははっ、こんなところに誰か来るわけ無いだろ!」
「そうだぞ。後もうちょっと逃げられれば人のいるところにたどり着いたかもしれないがな!」
「おとなしく諦めるんだな。…………ん? 今何か音がしたか?」
悲鳴を上げたと思われる女性と、それを取り囲む三人の男性だった。その内の一人が彰がたてた音に気づいたらしく振り向く。
「……あれ?」
全身黒づくめの格好の男性三人。そんな知り合い彰にはいない。いないはずだが、
「こいつらどこかで見たことがあるような……」
「写真の時じゃ気づかなかったが、おまえどこかで見たことがあるような……」
振り向いた男性の声を聞いて、彰は思い出す。
「あっ――――!? おまえら恵梨を追っていた科学技術研究会の三人組だな!!」
「そう言うおまえはあのときの嬢ちゃんを守ったクソガキか!!」
同時にお互いを指さして叫んだ。
そう、その三人組は恵梨と初めて会ったときに彰が輪ゴムとボタンを使って撃退した科学技術研究会の追っ手だった。
「兄貴、どうしたんですか? ……っておまえは!?」
「ん? ……あっ!? おれの鳩尾を強烈なやつをいれたガキか!!」
残りの脳筋の二人も振り返る。
「ふう、やっと追いついたで。……で、何なんや? この状況?」
火野もようやく追いついたようだった。
「何で科学技術研究会のおまえらがこんなところにいるんだ!!」
「それはこっちのセリフ――じゃないな。そういえば姐さんがこの少年が関わってくるって言ってたか」
その男性、三人組のまとめ役は威勢良く返そうとするのをやめ、ぶつぶつとつぶやく。
代わりに脳筋二人が吠えた。
「言っとくけど俺たちは科学技術研究会じゃないぞ!」
「そうだ、そうだ! あのときは協力していただけなんだからな」
「……? よく分からんけど、じゃあ何で協力していたんや?」
状況を把握していない火野が質問する。
「それはあの仕事が金になったからだ!」
「金稼ぎこそが我らの組織の唯一にして絶対の目的!」
「……金稼ぎが目的の組織? そういえば彰が何か言ってたような……」
「ふはははは! 我ら組織の名前がこんなガキにまで知れ渡っているとはな!」
「黄龍も有名になってきたってことだな!」
「黄龍? ……あっ! それってこの近くで何か取引を行おうとしている悪の組織だな!」
「悪の組織……。何ともかっこよい表現だな、少年よ! ……だがしかし、どうして科学技術研究会との取引のことまで知っているんだ?」
「兵器派の奴らと近々大きな取引をするってことは部外秘だったはずだぞ」
大事な情報を垂れ流しにして、こいつらバカだな。
そのやりとりを横で聞いていた彰は火野が質問してくれた分、情報の整理に集中することが出来た。
まずこいつら三人の所属は黄龍。
そして異能力者隠蔽機関が調べていた取引とは科学技術研究会の兵器部門との取引ってことか。
恵梨を追うのに協力していたってことは、研究会の能力研究部門の方とも繋がりがあるってことだな。……そう考えると黄龍と科学技術研究会は結構協力関係にあるのかもしれない。
「おまえたちそろそろ黙れ! どうして敵に大事な情報をべらべらと話しているんだ!」
「「すいません、兄貴」」
まとめ役が脳筋二人を一喝する。……確かこの男、恵梨をはめる作戦のとき挑発して、失敗したとみるやいなや逃走を敢行したやつか。この三人組のブレインってとこだな。
「何故おまえがここにいるのかは分からないがちょうどいい。あのときはおまえのせいで作戦が失敗したからな。……いつかきっちりと落とし前をつけてもらいたいと思っていたところだ」
普通の高校生なら縮みあがるような迫力の脅し文句だが、不良だった彰はこの程度慣れっこであったし、それに格下相手にビビってあげる気もなかった。
「この前と違って恵梨がいない今なら勝てるとでも思っているのか?」
彰は風の錬金術を発動。風を収束させて金属化。右手に剣を握った状態となる。
「残念ながら俺はこのとおり能力者だ」
「なっ!? 組長と同じで能力者だと!!」
恵梨を助けたときはまだ自分の能力に気づいていなかったため彰は能力を使っていない。そのためまとめ役が驚いたの無理ないことだった。
「そして俺も能力者や」
火野も炎の錬金術を発動させ右手に剣を顕現させる。
「こっちのガキもだと!? ……クソッ! おまえら本気出してかかるぞ!!」
「「………………」」
「どうしたおまえら! 返事を――」
「おまえらとはこの気絶している二人のことか?」
ドサドサッ!
脳筋の二人が地に倒れる。
「何だと!?」
「彰くんたちばかりに集中していて周囲の警戒を怠ったな。簡単に近づけたぞ」
「雷沢さん、ナイスタイミングです」
脳筋二人がさっきまで立っていた場所にいたのは雷沢だった。彰たちが会話している間に回り込んで後ろから近づいたのだ。
「この二人が大声でしゃべってたおかげで大体の状況は把握できている。能力を知っている者なら能力を使っても大丈夫だろう」
指先に電気が走ってバチバチと鳴っている雷沢。能力『電気』をスタンガンのように使って二人を気絶させていた。
「さて、まだやるつもりか?」
「俺は大歓迎やで」
「まだ僕も暴れ足りないからな。相手になってやるぞ」
三対二の状況があっという間に一対三に変わり劣勢になったまとめ役。
「……くそっ、覚えてろよ!」
「ああ覚えとくさ。がんばって逃げろよ」
彰の舐めきられたセリフを背に受けながら林の方に向かって逃走した。
「追いかけないのか?」
戦いが始まる前に終わったことに拍子抜けした火野。
「必要ないだろう。大体俺たちがここにきた理由を忘れてないか?」
「理由?」
「女性の悲鳴を聞いてここまで来たんじゃねえか。……あの三人もこの女性に襲い掛かってたはずなのに、最後には忘れていた感じだったな」
呆れながら彰が言う間に、腰が抜けて地面に座り込んでいた女性に雷沢が手を貸していた。
「すいまセン。ありがとうございマス」
微妙にイントネーションが違う日本語。聞けば百人が百人、彼女の母国語が日本語でないことが分かるに違いない。
そしてそれは容姿見ても容易に分かるだろう。金髪にメリハリのついたボディや陽気な雰囲気を見れば、誰だって東洋人だとは思わないだろう。
「すいませんがあの三人に追われていた理由を教えてもらえませんか?」
当面の危機は去ったのだからここでお別れしてもいいはず。とはいえ何故追われていたのかも気になるところだ。なので代表して雷沢が訊ねていた。
「その前に自己紹介をしてもいいですカ?」
「お願いします」
雷沢がうなずいたのを見て、たわわな胸に手を置いて女性は名乗った。
「私の名前はサーシャといいマス。能力者ギルドに所属していマス。……この日本に来た目的は黄龍と科学技術研究会の取引を止めるためデス」
サーシャは自己紹介と共に、一波乱ありそうな目的も語った。
コードネーム『ささやき女』は某所で彰たちを見ながら思う。
予定通り襲撃は防がれた、と。




