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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
五章 夏祭り、後の祭り
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百十六話「旅行一日目 科学技術研究会とは」

 彰たちは夕方、くたくたになるまで海で遊んだ。そうして旅館に帰ってきた後は全員で絶品の夕食に舌鼓を打った。


 そして現在。彰たちは温泉に入っている最中であった。能力者会談の時と違って一般客もいる中、男湯の一角には彰と火野と雷沢と風野藤一郎の四人が揃っていた。

 男の中で唯一、無能力者である仁志はちょうど美佳との温泉卓球で白熱していたのでこの場にはいない。


 そこで彰は六月の文化祭の裏であった連続殺人事件――異能力者隠蔽機関に頼まれ、能力者ギルドの執行官であるルークと共に殺人犯モーリスを捕まえた事件――の顛末について他の三人に話していた。




「……彰君がそんな刺激的な体験を送っていたとはな。まあ異能力モノの主人公が文化祭を無事に送ることなんて不可能だから当然といえば当然か」

 能力者も絡んでいたその事件の話を聞いた雷沢は、彰にはよく分からない理屈で納得していた。



 ちなみに能力者関連の話を一般人もいる温泉の中でするのは最初は抵抗があったのだが、

「どうせ周りの人間はゲームかマンガかの話だと思って気にもしないだろう。人はそこまで他人のことを気にすることが出来るように作られてないからな」

 という風野藤一郎の意見に、それもそうかと納得している。



(相変わらずこの普通そうな大学生が中二病だというのには慣れないな)

 彰の奇異な生き物を見る視線をものともとせず、雷沢は「文化祭を無事に過ごすことができる主人公などラブコメだけだ」やら、「しょせん文化祭など敵襲来までのコメディパートでしかない」などと講釈を垂れていた。


 その語りが一向に止まる気配が無かったので、彰は雷沢を無視することにした。

「それにしてもあの連続殺人事件にそんな裏が合ったとはな」

 大企業の社長という、情報の重要さを分かっている風野藤一郎はやはり一ヶ月以上前の事件のことをすぐに思い出していた。

「……あんま新聞とか読まないからなー」

 火野は高校生らしくその事件を知りすらしてなかった。


「それで一つ気になるのだが、能力者ギルドとはどんな組織なのかね」

 いつも落ち着いている雰囲気の風野藤一郎が、珍しく早口でそう聞いてきた。何か能力者ギルドに対して興味があるのだろうか?


 疑問に思いながらも彰は返答した。

「はい。能力者ギルド、アメリカを統治している能力者の組織です」

「規模はどのくらいだ?」

「アメリカ全土の能力者の統治していると言ってました」

「具体的な仕事は?」

「一つは能力の適正に合った仕事の斡旋。もう一つに能力者が治安を乱したときに、それを粛正することだったはずです」

「……ギルドはアメリカ政府と繋がっているんじゃないか?」

「…………具体的な話は聞いてませんけど、公的な組織って言ってましたしそうかもしれません。……異能力者隠蔽機関が裏社会や政府の高い位置に属する者の中には、能力の存在を広めるつもりが無いから、無能力者でも能力の存在を知っている人間がいるって言ってましたし」

「やはり…………」


 矢継ぎ早に繰り出される質問に答えていくと風野藤一郎はいきなり黙り始めた。

(何か思うところでもあるんだろうか?)

 彰には分からない。

「ありがとう、君の話は参考になった」

 と思ってたら礼を言われた。

「どういたしまして……って言うべきなのか?」

「ああ。分からなかったことに対して、一つ仮説を思いついた」

 仮説? 何についてだろうか?


 風野藤一郎は聞いても教えてくれなさそうな雰囲気だったので、代わりにさっき思い出した言い忘れていたことを彰は言うことにした。

「そういえば風野さんも雷沢さんも火野も、この話、文化祭の裏でモーリスと戦っていたってことは女性陣には言わないでくれ」

「何でだい?」

「いや、女性陣に話すと恵梨まで話が流れるかもしれないだろ。文化祭の時は恵梨に内緒で事件解決に励んでたから……もし、恵梨に自分の知らないところで苦労していたんだとバレると…………どうなるか分からないから」

 文化祭の時は恵梨に何の心配もさせずに楽しんで欲しかったから、恵梨に話さずに彰は一人で事件解決を目指した。

 しかし、自分の知らないところで苦労されることが、遠慮心の塊である恵梨は嫌いだ。そんなことなら自分に相談してくれれば良かったのに、という考えの持ち主である。

 そしてこれが一番大事なことで、恵梨にバレたとき、話してくれなかったことに対する反応が泣き出したりとか彰を問いつめたりではなく、たぶん問答無用で黒恵梨になっての攻撃なのだ。いつもは大人しい恵梨だが、それだけに黒恵梨になったときの破壊力は半端ない。


 そんな彰の気苦労を察知したのか、

「君も大変だな……」

「ヒロインで苦しむのも主人公の役目だ」

「俺も妹で苦労してくれるから分かるで……」

 生暖かい目で気遣われたのだった。






 そうして温泉から上がった後、男が寝ることになっている方の部屋に女性陣も含めた能力者全員が……

「あれ? 光崎さんはどうしたんだ?」

「純には仁志君、美佳君、由菜君がこの部屋に近寄らないように引きつける役目を受けてもらった。さっき見たときは四人で卓球して盛り上がっていたところだったな」

「……まあ能力者じゃないやつに聞かせるわけにはいかないし、その役回りは必要か」

 というわけで、光崎を除く能力者全員がその部屋に集まっていた。


「みんな集まったようだな」

 上座に座っている風野藤一郎が、机を囲んでいる彰たちを見渡してから、

「それではこれから私が科学技術研究会を調べたことについて説明する」

 宣言したのだった。



 科学技術研究会。

 恵梨の両親を殺した組織で、能力者を研究しているということ以外はあまりよく分かっていない組織である。

 それを風野藤一郎が自らが社長を務める『アクイナス』の情報調査能力を使って調べたことについて今日発表するという事であった。



「それで結局何が分かったんだ? 本拠地とかが分かったなら殴り込むことも考えてるぞ」

 さっそく物騒なことを言ったのは彰だ。黄龍ファンロンの話を聞いた時といい、血の気が多すぎである。

「それが分かれば一番簡単だったんだがな。……分かったのは科学技術研究会がどういう組織なのか、ということぐらいだ」

「それでも大進歩ですよ。私たちはあの組織が能力者について研究している、ってことしか知りませんでしたから」

「その成果が戦闘人形ドールとかいう風の能力者だったわね。……私たちの血筋でない者に、何で風の錬金術者がいるのかしらね?」

「それを言ったら彰君も同じなんだがな」

「……………………ん、そうやな。その通りや」

「おまえ話の内容分かってたのか?」

 取って付けたような同意をする火野にツッコむ彰。

「まあ、俺が分からなくてもみんなが分かっていれば大丈夫やろ」

「それならこの場にいる意味がないよな。……光崎さんと役割交代したほうが良かったんじゃないか?」

 思った以上の火野のポンコツぶりに呆れる彰。


 コホン、風野藤一郎が咳払いをした。

「……話が逸れているぞ。……さて、科学技術研究会について調べて分かったこと。

 それは奴らの主な目的が能力者を研究することではないってことだ」


「え……?」

「能力者を研究することが目的じゃない…………?」

 聞き間違いだと思った恵梨が復唱する。

「……いや、そんなことないだろ。能力者を研究するために、あの鹿野田とかいう狂った科学者は俺たちを襲ってきたんだぞ」

「主な目的と言っただろ。主な、だ。……その鹿野田という科学者が水谷さんに名乗っただろう。『能力研究部門』の室長だと」

「…………あっ!」

 そうか。よく考えれば分かることだった。

 科学技術研究会の能力研究部門。……そんな言い方をするのはつまり、研究会には他の部門が存在するからではないのか?


「そう、科学技術研究会において能力研究部門はあくまで分室であるらしい」


「やっぱり……」

 彰の推測を裏付けるような言葉が風野藤一郎から発せられた。




「分室ってどういうことや?」

「その組織の中において、立場が低い部署っていうことでしょう。……それくらいニュアンスで分かってください」

 彩香はジト目で火野を見る。

「それで能力研究部門が分室ということは、メインは何の部門となるのですか」

「あっ、そういえば能力研究部門が分室ということは……逆にメインは普通に科学技術を研究する善良な部門だったりするのか?」

「……そうだったら良かったのだがな」

 雷沢の指摘に続いて出された彰の意見に対して、風野藤一郎は残念そうに否定した。


「科学技術研究会のメインは通称『兵器部門』というらしい。人を殺すような兵器の研究、具体的に言えば銃、戦車、手榴弾、機関銃……何でもアリだ」


「兵器の研究って……そんなのがこの平和主義の日本で行われているっていうのか?」

 能力者の研究をしている組織が兵器の研究もしている……いや、分室らしいからどちらかというと兵器の研究をしている組織が能力者の研究もしているという方が正しいのか。

(なんだか……突拍子もない話だな)

 頭の中で整理してもどこか話が飛んでいるような気がしてならない。今まで能力者の研究だけを行う小さな組織だと思っていた科学技術研究会が兵器の研究も行う巨大な組織だと分かったからだろうか?



「どう考えてもいろんな方面から叩かれそうな話ですが。……それは本当なのですか?」

「そうよ、日本の警察だって優秀だわ。そんな兵器を研究するなんて非合法な組織の活動が、この日本で秘密裏に行われているなんてやっぱり信じられないけど」

 雷沢や彩香も信じられないのか風野藤一郎に反論していく。


「どうやら私の話が信じられないようだが……逆に私は科学技術研究会は兵器の開発ぐらいして当然だと思っている」

 風野藤一郎の断固とした口調。

「……そこまで言うなら、そう思うだけの理由があるんだな?」

 その言い方から、まだ自分たちに話されていない情報があると踏んだ彰。


「ああそうだ。そしてそれは科学技術研究会の名前にある」


名前? と、彰は首をひねる。

「それって科学技術研究会って名前に何か隠された意味があるっていうことなのか?」

「そんなものはない。……私が言っているのは名前を付けた意図についてだ」


 そう言って、風野藤一郎は解説を始めた。


「簡単な話だ。例えば、君たちは『お菓子作り』って名前の製菓会社を見たことがあるかね?」

「いや、ないですけど……?」

 唐突な例え話についていけず疑問符を浮かべる彰たち。

「では『アイスクリーム屋』って名前のアイスクリームの店をを見たことがあるかね?」

「同じく無いですね」

「その通りだ。私の会社だって様々な事業を手がけているからって、『総合会社』なんて名前ではなく『アクイナス』という名前をつけている。……もしそんな平凡な名前をつけるような会社があったとしても絶対に成功するとは思えない」

「………………?」

 今いち何の話なのか掴めない彰たち。

 しかし、次の風野藤一郎の言葉で何を言いたいのかが分かった。


「では本題だ。科学技術を研究する組織あったとしよう。だからといって、もし君たちならその組織に『科学技術研究会』という名前を付けるだろうか?」


「……あっ!?」

「そういうことか!」

「ん? 科学技術研究会が研究しているのは兵器と能力者やろ?」

「ある意味兵器も科学技術の固まりですし、能力者の研究も科学技術を使ってってことだと思いますし、というかそういうことを言いたいんじゃないと思いますから黙っといてください」

 いちいち話の腰を折る火野に注意する彩香。

「科学技術を研究するから科学技術研究会。……シンプルなネーミングで気に入っていたが、そう言われると違和感しかないな」

 雷沢もうなずいている。


「けど……あれ? 現実には科学技術研究会っていう名前だろ? 今の話だと、目的と組織名が同じ組織は存在しないってことだったよな? ということは……どういうことなんだ?」

 さっきは納得した彰だったが、冷静に考えてみると結局何を言いたいのか分からない彰。

 今の話が科学技術研究会が兵器の研究までしていたことを確信する理由にはならないと思うんだが。



 もちろんそんなことは承知済みの風野藤一郎が話を続ける。

「科学技術を研究するから科学技術研究会。……確かに私はさっきそんな単調な名前の組織が存在しないと言った。

 ……だが物事には何事にも例外というものが存在する。液体より固体の方が密度が大きいのに氷は水に浮くように」


 そしてまた例え話を始めた。

「今度も簡単な話だ。君たちは市の役所に『市役所』以外の名前がついているのを見たことがあるか?

 消防士が詰めている建物に『消防署』以外の名前が付いているのを見たことがあるか?

 水道を管理する仕事を行う場所に『水道局』以外の名前がついているのを見たことがあるか?」


「そんなの見たことないよな、彰。……って彰、どうしたんや?」

 相づちを打つ火野。それと同様に彰も相づちを……打てなかった。


 打つ余裕が無かった。


「……い、いや。そんなことがあるはずがないだろ。……あって……たまるものか」

 その例え話が導く結論にいち早くたどり着いた彰が無意識にうめきを漏らした。

 だって科学技術研究会は恵梨の両親を殺したような残虐な組織なんだぞ。

 だというのに……そんな馬鹿げたことが……。



 彰に追い打ちをかけるように風野藤一郎は結論を述べ始める。


「組織の目的と名前が一緒の単調な組織が存在する唯一の例外。それは分かりやすさが優先される公共機関だ。


 つまり、科学技術研究会は一般人には知られていない日本の正式な機関ということになる。


 さっき彩香の言っていた非合法な組織というのは間違いで、研究会は超法規的な組織だ」

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