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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
五章 夏祭り、後の祭り
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百九話「終業式」

(何でなんだろうか?)

 高野彰は答えのでない疑問に直面していた。

 それは学校生活を経験した者が誰しも悩むが、ついには答えのでないその問い。


 なぜ、校長先生の話というのはこれほどに長いのか?


 うだる夏の暑さに集まった生徒たちの熱気が加わって体育館の気温は三十度を越えていた。



 期末試験を無事に終え、今日は一学期の終業式だった。

 朝から体育館に集められ、校長先生のありがたくも長ったらしい話を耐え、生徒指導担当の教員から夏休みでの注意事項が話される。

 彰もさすがに暑さからいつもの真面目さを出すのが面倒になり、他の多くの生徒同様に全てを聞き流した結果、式を終えたとき話の内容の十パーセントも頭に残っていなかった。


 とはいえ、夏休みを始めるための儀式はこれだけでは終わらない。次は教室に戻ってホームルームの時間だ。

 しかし、これはそれほどの苦行ではなかった。

 彰のクラスの担任、畑谷が生徒を見回す。

「えー、ここで俺が長々と話をしても目の前の夏休みにそわそわしているおまえたちはほとんど聞き流すんだろう。

 というか大体、夏休みの注意事項ぐらい何回も言われなくても分かっているよな? だから俺が言うことは一つだけだ」

 少しタメを作ってから言った。

「よく学び、よく遊べ! 以上! 委員長号令!」

 クラスメイトが担任の発した簡潔な言葉に「おおーっ」と歓声が上がる中、委員長の彰は立ち上がり、

「起立! 気を付け! 礼!」

「「「ありがとうございました!!」」」


 そして夏休みが幕を開けた。




 ホームルームの終わった後、教室内の生徒たちの行動は主に二つに分かれていた。

 一つは午後からの部活に備えて飯を食ったり、食堂に向かう者たち。

 もう一つは始まった夏休みを満喫するために、遊びの計画を話し合ったり、早速今日の午後からカラオケに行こうと画策していたりする者たち。


 そんな中、彰はというと珍しい第三の行動を取る者だった。

 すなわち一人で家に帰ること。

「………………」

(友達がいないわけじゃないんだからな!!)

 教室を出る前に中をもう一度見た彰は、誰にも聞かれていないと言うのに心の中で叫んだ。

 しかし叫んだことで余計にむなしくなった彰は、とぼとぼと教室を出ようとして、


「……彰くんはもしかして友達いないんですか?」


 勘にさわる発言を背中越しにされた。

「ケンカ売ってるのか?」

「いえいえ。私はただ思ったことを言っただけですよ」

 振り返るとそこにいたのは反リア充筆頭の一人、メガネをかけた斉藤だった。いつも一緒にいる熱血の戸田山と眠そうな平井の姿はない。


「しかし、ケンカを売っているのだと解釈されたのは図星だったからじゃないですか?」

 反リア充という生産性のない馬鹿な行為をしているというのに、こいつは無駄に頭がいい。的確な指摘にさらに機嫌が悪くなった彰だった。

「で、用件は何なんだ? ただ俺の機嫌を悪くするためだけに話に来たのか?」

「……偉そうなことを言っておいて今日は珍しく僕も一人ですからね、帰る方向も同じですし一緒に帰りませんか」

「初めてのことだな」

「珍しい事にいつも一緒に帰るメンバーがカラオケに行くだとかで誰もいないので」

「……まあ、一人で帰るのも退屈だと思っていたところだしいいぞ」

 口を開けば言い争うような仲だが、それでもお互いを嫌い合っているというわけではない。なので、彰はその誘いを許諾した。



「それでいつも一緒の四人はどうしたのですか?」 

「恵梨以外は部活で、恵梨は友達と一緒にカラオケに行くんだとさ」

 学校の外に出た。歩きながら二人は話し始める。

「戸田山と平井の二人も部活です。……しかし、運動神経の良さそうな高野くんが帰宅部なのは前々から疑問に思っていたのですが」

「体を動かすのは得意で好きだが、部活には興味が無いってだけだ。それに今の俺は勉強しておきたいしな」

「高校一年生なのに受験生のようなことを言いますね……。まあ、そんなですからこの前の試験も一位を取れるんでしょうね」

「おまえだってなかなかの順位だったじゃないか。男子だけで見れば二位だろ」

「一位の人に言われても嫌みにしか聞こえませんよ」


 勉強会まで行った期末試験の結果は、会話にも出たとおり彰は二位と大差をつけての一位。

 美佳はこの前よりも順位が上がったおかげでおこづかいが上がったそうだ。

 恵梨は初めての試験だったのだが、彰の見立て通り中の上ほどの位置。由菜は努力があまり反映されなかったのか前回と同じような全体平均と似たような成績。

 その中でも一番成績が上がったのは仁志だったが、それでも赤点が三つ合ったそうだ。



「そういえば」

 斉藤が取り留めのない話の何度か目の話の転換を切り出した。

「聞きましたよ。夏休みにいつものメンバーで海に行くそうですね……つまりは女の子と一緒に」

 斉藤のメガネの奥の瞳に暗い感情が浮かんだ。

「誰に聞いたんだよ。……ってどうせ美佳か。ちょっと人に誘われてな。友達も一緒に、っていうから誘ったんだ」

 しかしそれに気づかない彰。

「ふーん、それで海に一緒に行くことになったと」

「ああ」

「女の子と一緒に」

「さっきも言っただろ」

「水着の女子サイコーと」

「…………」

 あ、こいつ反リア充だった、と遅ればせながら気づく彰。

「どうせ彰くんのことですから海辺でキャッキャッウフフな展開をした後は止まった旅館でまたイベントが発生して、それでその夜には一夏の思い出として」

「飛躍しすぎだ!!」

 一気に語られる展開に彰はストップをかける。


「大体そんなことが起こるのは物語の中だけだ! そんなに期待しても、現実は対して何事もなく終了するのが世の常なんだよ!」

 彰の熱弁にも、斉藤は冷ややかに対応する。

「けれど高野くんにそういうことが起こる可能性は0パーセントではないですよね?」

「……確かに0ではないだろうが」

「女の子と海行く予定すらない僕は0パーセントですよ」

「………………」

 重い。

 その一言に込められた恨みの感情が重すぎる。そこまでリア充が憎いのか。


「それは……」

「いいですよ、リア充からもらう慰めの言葉なんていりませんから」

 ドンマイと言おうとした矢先に否定された。

「………………」

 どうすりゃいいんだよ、と言葉のない彰。


「やっぱりリア中は憎むべき敵ですね。爆発してほしいです。……こんなことなら一人で帰るべきでした」

「そんな言われてもどうしようもねえよ。……つうかいつも思うんだが、爆発しろって言うけど何がどのように爆発してほしいのか?」

「肉体を物理的にですね」

「肉片が飛び散るぞ!? 絶対グロいだろ!」

「じゃあ一歩譲って顔面だけ爆発するとか?」

「それもそれでひどいからな! 譲歩になってないぞ!?」

「しょうがないですね。……じゃあ社会的なつながりが爆発するということで」

「つまり俺にぼっちで生きろって言っているのか!? 生殺しってある意味もっともひどいからな!」



「……ここまでレスポンスが早くて、的確なツッコミは久しぶりに見ました」

 うん、うんとうなずく斉藤。自分のボケをうまく拾ってもらえて満足そうだ。

「それはなによりだ……」

 彰はげんなりしていた。


 そう歩いている内に、二人は別れる地点までやってきていた。


「それでは僕はこちらなので」

「ああ、じゃあな」

「…………」

 そのまま歩いて去ればいいはずなのだが、斉藤は少し考えてから言った。

「さっき一緒に帰るんじゃなかったって言いましたけど、彰くんとの会話おもしろかったですよ」

「なんだ改まって……気持ち悪い」

 ぶっきらぼうに彰も返す。

「いえいえ、本当ですよ。ツッコミもうまいですし、皮肉にはちゃんと皮肉で返してくれますし、頭のいい人同士の会話ってやっぱりいいですよね」

 それは自分から頭がいいと言っている調子に乗ったものだったが、お互いに自分は頭がいいと自負していたので特に気にしなかった。

「それに彰くんの隠された一面も分かりましたし」

「……隠された一面?」

 何かあっただろうか? 首をかしげる彰にあっさりと斉藤は言った。


「高野君、あなたはムッツリですね」


「……俺がムッツリだと?」

 ムッツリ。意味、異性に興味がないフリをしていて実は興味津々の人のこと。またはその性格を指す。

 すぐにそう頭に浮かんだが、……それが俺に当てはまるのだと?

「自分自身のことにも気づいてなかったのですね」

 斉藤はやれやれといった顔で説明した。 

「あなたはムッツリである第一条件、女に興味なさそうというのに当てはまる……それは理解してますね?」

「まあそうだな」

「そして第二条件、実は女に興味がある、ということですが、これはさっき海に行く話をしていたときの『期待していても現実は違うんだよ!』という発言から、実は期待していたということが見て取れます」

「……それは曲解じゃないか?」

 彰としてはそういう意図で言ったつもりではない…………はずだ。たぶん。


 しかし、斉藤は彰の反論など聞いてもいなかった。

「リア充のくせしてガツガツしていないと思えば、ムッツリだったんですね。……言われてみれば真面目系キャラで通している高野君からすれば、そういうのを表に出すわけにも行きませんしムッツリになることは自然でしょう」

「そう言われても実感がないんだが。……だって、ムッツリっていつもコソコソしているイメージだし、俺とは会わないと思うが」

「いえ、コソコソするだけがムッツリじゃありませんよ。時には堂々としているムッツリもいます。

 ……それに今思い出しましたけど、高野君制服が冬服から夏服に替わったときテンションが上がってましたし」


 夏服への移行か……。確かにクラスの男子たちは「露出が増えた!」「ブラ透け最高!」だとか騒いでいたが、

「俺はテンション上がった覚えないぞ」

「いえ、微妙に上がっていて、ノリが良かったりしました」

「……そんなことないと思うんだけどなあ」

 しかし斉藤の自信たっぷりの断言を聞くと、そうだったのかもしれないとも思えてくる。


 斉藤は頭を振った。

「やれやれここまで証拠を並べても認めないとは。……もしかして本当に自覚がないのですか?」

「自覚も何も俺はムッツリじゃないぞ。……たぶん」

 自分でも今まで全く考えたことのないことなので断言できなかった。


「そうですか。……つまり高野君は隠れムッツリということですね」

 斉藤の中で何かの決着が付いたのか、結論が述べられた。

「隠れムッツリ?」

「ええ。普通のムッツリが他人に対して自分の興味を知られまいとするのと違って、隠れムッツリとは他人だけでなく自分の意識からも気づいかれていないムッツリということです」

「……そんな言葉あったのか」

「今僕が作りました」

「おまえが作ったのかよ!」

 ずっこける彰。


 斉藤は時計をちらりと見た。

「そろそろ時間ですか。……ということで隠れムッツリの高野君、これでお別れです。また会うのは二学期でしょうね。……それまで充実した夏休みを送るのでしょうが、僕が贈る言葉は一つです。爆発してください」

「言いたい放題だなおまえ!」

「では」

 斉藤はすっきりとした顔で去っていった。言いたいことを言い切って満足なのだろう。

 対する彰は、

「隠れムッツリ……」

 その言葉がやけに耳に残っていた。




 その日の夜。彰家での事。

 いつものように由菜がやってきて三人で夕食を取り、その由菜も家にすでに帰ったほどにもう夜は遅い。

 夏休みだからといってだらける事の無い彰が、自室で勉強に一区切りをつけるとキッチンで水分補給でもしようとしてリビングを通りかかった。


「………………」

 そこで見た光景は水が宙を浮いている、という常識外れのものだった。


 ぷかぷかと球状になった水がまるでここが宇宙空間であるかのように球状になって浮いている。それだけでなくフワフワと動いている。

 しかしそれは世間の常識から外れていても、彰の常識からは外れていなかった。

「おい、恵梨。行儀が悪いぞ」

 だから彰はソファに寝転がってテレビを見ている恵梨に注意をした。

「えー、いいじゃないですか」

 譲歩を求める恵梨の口元に浮いていた水は到着して、

「あむ」

 そのまま恵梨はかぶりつくようにその水を飲んだ。 


 一連の現象は恵梨の能力、水の錬金術によるものである。

 水を金属化(メタライズ)して戦うその能力の副次的なものとして、水を自由に操れるというものがあった。

 それを使って恵梨はテーブルにおいてあったコップの中の水を操作してソファに寝たまま水を飲んだのである。


「最近能力者である事を知った彰さんには分からないと思いますけど、私はこの能力ともう十年は付き合ってきたんですよ。いわば第三の手と言えるまでに使い慣れていたら、つい使っちゃうのが人間です」

「確かに俺には無い感覚だけど……けど今は俺が能力の存在を知っているからそれでいいけど、もしおまえが将来結婚して旦那さんと一緒に暮らすようになったときに能力をつい使ってしまうようだったら面倒な事になるぞ」

「なら私は能力を知っている人と結婚しますよ」

「そんなの誰がいるんだ?」

「それは……えーと」

 つい言ってしまったが、恵梨も能力を知っている人なんて考えてなかった。

 能力を知っていると言う事は……能力者であればいいんですから。えーと……。


 うん、彰さんと結婚すればいいですね。


「………………」

 …………………………。

 って、何考えているの私!?

 そんな彰さんと結婚って第一結婚っていうのは好き合っているもの同士がするものであってつまり彰さんからの感情は分からないけど私は結婚を許していたからつまりそういう気持ちが

「いえいえ、そんなのあるわけないです!!!」

「…………えーと、どうした恵梨?」

「……っ!」

 勢いで否定が口から出てしまったところ、彰にかわいそうな子を見る目つきをされた。

「えーと……この時間には病院は開いてないから、明日にでも」

「すいませんでした忘れてください!」

 ニュアンスで彰が言っているのは冗談だというのは分かったが、いたたまれなくてまたも恵梨は全力で叫んだ。


「まあよく分からないけど、とりあえず行儀には気を付けろよ」

「はい…………」

 すっかりしょぼんとなった恵梨が力なく言った。




 その後、彰は本来の目的である水分補給を果たし、またリビングに戻ると、

「そういえば彰さん、ケータイ置きっぱなしですよ」

 時間が経って自爆からのダメージから回復した恵梨が、リビングのテーブルの方を指した。

「あれ、そうだったか」

 ケータイを純粋な連絡手段のための道具と割り切っている彰。基本的にメールも自分から送らず来たのを返信するだけというスタンスなので、特にいつも手元にケータイが無くても気にならない。そのためリビングに置き忘れていたのに気づかなかったようだ。

「ランプも光ってますしメールが来てると思いますよ」

「……誰からだ?」


 ケータイを開いてメールを読み出した彰は、

「……。…………。………………!?」

 最後の数行を読んで、そこに書かれていたことに目を見開くことになる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 今日もかわらず忙しいので、仕事の合間にこのメールを打たせてもらう。少々簡潔過ぎるかもしれないが気にしないでくれるとありがたい。


 さて、今日は二つの報告がある。


 一つは君の友達……仁志君、美佳さんに由菜さんだったか、その三人の分もきちんと旅館に手配しておいた。ゆっくり楽しんでくれと君の方から言っておいてほしい。


 二つ目は約束通りの情報を手に入れたということだ。能力者会談で言っていただろう。「君たちを襲った組織についての情報を調べてみよう」と。

 それについての情報を少しだが手に入れたから、この旅行中に直接話したいと思う。


 以上だ。また会える日を楽しみにしてるよ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「科学技術研究会の情報……?」

 恵梨を襲った得体の知れない組織である。能力者の研究をしているということぐらいしか彰は知らない。

 その情報を手に入れただと? 特に手がかりもない中、そういう調査をするなんてかなり面倒くさくて難しいことだろうに。しかもまだGWから二ヶ月半ぐらいしか経ってないんだぞ。無茶にも程がある。


「けどその無茶を通したのか。……大企業の社長という役職は伊達じゃないてことか」

 風野藤一郎の手腕に彰は舌を巻いた。

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