第33話 驚愕、ショタ忍者登場!?
今までで一番可笑しなタイトルになってしまいました(笑)
と言うわけで、新キャラの忍者が登場です。
人々が寝静まる真夜中の闇……。
「はっ、はっ、はっ……」
小さな影の少年は異常な身体能力で建物の上を飛び、何かに追われながら必死に走っていた。
「くっ、しつこいでござるな……」
小さな影は高い声で思わず呟き、首を後ろに向けながら走り、自分を追いかける複数の影から逃げている。
「早く、奴らから逃げなくては……!」
前方に建物が多く点在する街が見える。
「よし、あの街に逃げ込めば――」
迷路のような街に逃げ込んで一気に追っ手から逃れようと思ったその時。
ヒュン!ヒュン!!
複数の何かが空を貫く音がする。
「はっ!?」
気が付いた時には既に遅く、空を貫くそれは小さな影の足に突き刺さる。
「しまっ――ぐぁああっ!?」
足に激痛が走り、バランスを崩した小さな影は撃墜されて地面に落ちる。
「くっ、あっ……」
足に何かが突き刺さった痛みと地面に落ちた時の痛みが小さな影に同時に襲いかかる。
すると、小さな影の周りに三つの大きな影が囲むように降りたった。
「ふっ、面倒を掛けさせよって……」
「だが、その怪我ではもう動けまい」
「観念するんだな……“刹那”!」
小さな影――刹那は必死に体を起こそうとして、三つの影を睨みつけた。
「嫌で……ござる!拙者は……まだ、自分の“主”を見つけてないでござる!」
「愚かな……里の“掟”を破ってまで何を見つけると言うのだ?」
「残念でならないぞ。お前は里の未来を引っ張っていく存在だと言うのに……」
「それがこんな事になるとはな……心苦しいが……」
三つの影の一人は通常の刀より一回り短い直刀を抜いた。直刀は夜に輝く月の光に照らされ、銀色の光を放つ。
「すまない、これが里の掟だ……苦しまないよう殺してやる!!」
直刀を両手で持ち、刹那の首に向けて一気に振り下ろした。
「くっ……!!」
ここまでなので、ござるか……。
刹那は目を強く閉じ、無念と言わんばかりの悔しさで胸がいっぱいだった。
「「Break The Fate!!」」
その時、炎の斬撃と弾丸が三つの影を襲い、吹き飛ばした。
「ぐあっ!?」
「だ、誰だ!?」
「我らの邪魔をするのは!」
コツコツとゆっくり近づく二つの影が月明かりにその姿が照らされる。
「邪魔?寄って集ってそんな小さい子を殺そうとしているお前達が何を言うか」
「せっかく精霊狩りを倒して平和になった学園をまた血で染めるなんて……絶対に許さないから!」
二つの影の正体は天聖学園の期待の一年生コンビである蓮宮天音と天堂千歳だった。
二人は奇跡の神器、アーティファクト・ギアの鳳凰剣零式と清嵐九尾を構えて倒れている刹那を庇うように立つ。
「お、お主達は……?」
「事情は分からないけど、取りあえず助太刀するぜ」
「それから、後であなたの口からお話を聞くからそのつもりでね♪」
天音と千歳はそれぞれ不敵な笑みを浮かべて三つの影を睨みつける。
刹那はその二人の堂々とした姿と立ち振る舞いに見とれてしまうのだった。
☆
真夜中、俺と千歳、そして白蓮と銀羅は学生寮を抜け出して夜の学園都市を歩いていた。
「お星様、綺麗だったね。ねえ、銀羅、白蓮ちゃん」
『ああ。あんな綺麗な星は初めてだったぞ』
『ピキュー!』
「良かったな、みんな」
その理由は数年に一度訪れる流星群を観た帰りだった。
千歳が白蓮と銀羅に綺麗な流星群を見せたいと突然言い出して、夜中になるとほぼ強制的に俺を引っ張って学生寮を抜け出した。
普通なら簡単に抜けられるわけはなく、先生にすぐ見つかってしまうが、先日アリス先生から貰った扉で別の空間に移動出来る鍵の魔法具、境界輪廻であっさりと学生寮を抜け出して天聖学園の近くの山に行って夜空を美しく彩る流星群を楽しんだ。
そして、帰り道をこうしてゆっくり歩いている。
「それにしても、アリス先生から貰ったこの鍵は本当に便利だよね」
「流石は神書の魔女と言ったところだよな」
「もしかしたら……もっと便利で凄い魔法具があるかも!?」
「こらこら、アリス先生を困らせたらダメだ……ん?」
俺は足を止め、目を閉じて耳を澄ませた。
「どうしたの?天音」
「シッ! 静かに……こっちから何か声が聞こえる」
千歳の手を引っ張り、白蓮と銀羅を連れて建物と建物の間を通り、目的の場所に近づくと倒れている小さな少年を三人の大人が囲んでいる光景があった。
気配を極力殺してその四人の会話を盗み聞きする。
「嫌で……ござる!拙者は……まだ、自分の“主”を見つけてないでござる!」
「愚かな……里の“掟”を破ってまで何を見つけると言うのだ?」
「残念でならないぞ。お前は里の未来を引っ張っていく存在だと言うのに……」
「それがこんな事になるとはな……心苦しいが……」
三人の内の一人は通常の刀より一回り短い直刀を抜いた。この行為から分かることは一つ。あの倒れている少年を今から殺そうとしている。
「っ!? 千歳……!」
「うん、わかっているわ!」
俺は顕現陣から愛刀の蓮煌を取り出し、千歳は懐のホルスターから愛銃のレイジングを取り出す。
「白蓮、契約執行!」
「銀羅、契約執行!」
白蓮と銀羅と契約執行を行い、それぞれが持つ武器と聖獣が一つになる。
「すまない、これが里の掟だ……苦しまないよう殺してやる!!」
「行くぞ!」
「ええ!」
少年の首に向けて直刀が一気に振り下ろされると同時に俺達は飛び出して契約執行を完了したアーティファクト・ギアを振るう。
「「Break The Fate!!」」
鳳凰剣零式から炎の斬撃を、清嵐九尾から炎の弾丸を放ち、三人の大人を取りあえずぶっ飛ばした。
「ぐあっ!?」
「だ、誰だ!?」
「我らの邪魔をするのは!」
「邪魔?寄って集ってそんな小さい子を殺そうとしているお前達が何を言うか」
「せっかく精霊狩りを倒して平和になった学園をまた血で染めるなんて……絶対に許さないから!」
「お、お主達は……?」
倒れている少年はきょとんとした様子で見上げてくる。
「事情は分からないけど、取りあえず助太刀するぜ」
「それから、後であなたの口からお話を聞くからそのつもりでね♪」
俺と千歳は不敵な笑みを浮かべて三つの影を睨みつける。
「くっ……ここで戦えば騒ぎとなってしまう」
「仕方ない。一時撤退だ!」
「刹那、貴様の命はいずれ必ず奪うぞ!」
三人はこのまま戦えば分が悪いと判断し、一瞬でこの場から撤退した。
追いかける理由はないので、鳳凰剣零式と清嵐九尾を仕舞い、先に少年の手当てを優先する事にする。
「大丈夫か!?」
「酷い傷……早く手後をしないと!」
「だ、大丈夫でござるよ!これくらい……ぐうっ!?」
少年は無理やり立とうとするが足に小刀のような物が何本も刺さっていてうまく立てない。
「無理をするな!ったく、暴れるなよ!」
俺は足を怪我して動けない少年を抱き上げる。
「な、何をするでござるか!?」
「千歳、アリス先生のところに行こう!確か雫先輩のお母さんの治癒魔法の先生だから傷を治せるはずだ!」
「OK! それじゃあ、近くの扉を探して一気に行っちゃおー!」
「せ、拙者をどこに連れて行くのでござるか!?離すでござるよ!!」
ジタバタと暴れ出す少年に俺と千歳は黙らせるために一緒に叱りつける。
「「うるさい!静かにしていなさい!!」」
「は、はいでござる!」
親に叱られた子供のように少年は大人しくなり、俺と千歳は近くにある建物の扉の前で境界輪廻を使い、アリス先生の居る図書館城の地下部屋へ向かった。
☆
翌朝。
「うにゅ……はれぇ……?」
少年は暖かいベッドに包まれながら目を覚ました。
「あら?起きたかしら?」
ベッドには見守るようにアリス先生が座っていた。
「お、お主は……?」
「私は神書の魔女、アリスティーナ・D・クレイプスコロよ」
「ま、まま、魔女!?」
少年は魔女と聞いて身構える。
「あはははは!別に取って食わないわよ。って言うか、私は千年生きてきたけど、他の馬鹿魔法使いとは違って、人間や動物を魔法の実験材料にしない主義だから」
「そ、そうなのでござるか……?」
「そうよ。さあ、そろそろ朝食が出来るから行きましょう」
「は、はいでござる……」
少年はベッドから降りて立ち上がろうとして、足に違和感を感じた。
「足が……治っている……?」
「私が治癒魔法であなたの怪我をした足を治したのよ。この私が完璧に治したから後遺症なんて一切ないから安心して」
「あ、ありがとうでござるよ!」
「どういたしまして♪」
アリス先生は少年を連れて寝室から朝食が用意された部屋まで案内した。
先日のお茶会の後、アリス先生が俺達が料理を作れる場所とその料理を食べる場所として、キッチンとリビングのある部屋を魔法で作ってくれた。
そのキッチンで俺と千歳は朝食を作っていて、白蓮と銀羅はその手伝いをしている。
「おっ、来たな」
「気持ち良く起きれた?」
「お主達は昨日の……助けてくれて、ありがとうでござる!」
「たまたま通りかかったところを助けただけさ。あっ、まだ名前を言ってなかったな。俺は蓮宮天音」
「私は天堂千歳、よろしくね」
『キュピー!』
「こいつは俺の契約聖獣で、鳳凰の白蓮だ」
「それで、こっちにいる九尾の狐さんは私の契約聖獣の銀羅だよ」
『……よろしくな』
俺達の自己紹介が終わると、少年は跪いて自分の名前を告げる。
「申し遅れたでござる。拙者の名は“月影刹那”と申す!改めて、この命を救っていただき、感謝するでござる!!」
月影刹那。
容姿は俺や千歳より身長はかなり小さく例えるなら小学生の並みで、見た目は女顔の俺が言うのもなんだけど、幼い故にけっこう可愛く見える。
声が非常に高く、声変わりをまだしてないはずだから多分年下だろう。「拙者」や「ござる」などちょっと変な言葉を使うが、基本的に礼儀正しい性格だからかなり好感を持てる。
「月影、刹那か……じゃあ、俺は刹那って呼ばせてもらうな」
「可愛いし良い子だから、私は親しみを込めて“せっちゃん”って呼ぼうかな?」
「せ、せっちゃんでござるか!?」
「あら、それは良いわね。私も呼ぼうかしら?」
「な、何と!?」
千歳とアリス先生にあだ名で呼ばれた刹那は衝撃を受けて驚く。
「はいはい、それじゃあみんなで朝食を食べましょうか」
「「は~い!」」
「は、はいでござるよ!」
俺と千歳が用意した朝食は日本のバランスの良い食事であるご飯、味噌汁、焼き魚、漬け物だ。ちなみにこの朝食もアリス先生の摩訶不思議な召喚魔法で呼び出した高級食材で作ったものだ。
「それでは、いただきます」
「「いただきまーす!」」
「いただきますでござる!」
箸でご飯を救って食べると、温かく仄かな甘みと旨味が口の中に広がる。
「美味い……やっぱり素材が最高級だから米も美味いな」
「このお魚、焼き加減と塩梅が最高だよ~!」
「うーむ、お菓子作りから思っていたけど、やっぱり天音は料理人の才能があるわね……いくら材料が最高級だからって、ここまでの味は引き出せないわ……」
「オーバーですよ、アリス先生。刹那、どうかな?お口に合った、か……な……?」
朝食の感想を聞こうと刹那の方を向くと目を疑う光景があった。
「モグモグ、ゴックン!天音殿、美味いでござるよ!」
「食うの早っ!?」
僅か十秒で刹那は一人前の朝食をあっという間にペロリと平らげてしまった。
「天音殿。この朝食、凄く美味しかったでござるよ!こんなに美味しい朝食は初めてでござる!」
「そ、そう?ありがとう……ご飯と味噌汁のおかわり、いる?」
「是非、お願いするでござる!」
「それと……もし良ければ、俺の焼き魚を食べるか?まだ手を付けてないから」
「え?良いのでござるか!?なら、いただくでござるよ!」
お椀にご飯と味噌汁のおかわりを盛り、俺の焼き魚と一緒に刹那の前に置くと大食い大会をしているかのようなスピードで食べ始める。
「凄い食べっぷりだな……はい、お茶」
「ありがとうでござる。ここんところ一週間は兵糧丸で凌いで逃げ続けていたので、まともな飯は久しぶりなのでござるよ~」
「ひょうろうがん?先生、それは何?」
「兵糧丸と言うのは戦国時代に使われた丸薬型の携帯保存食よ。人間に必要なエネルギー源の炭水化物にミネラルやビタミンなどの食物を粉上にして丸薬に纏めたもので現代風に言えば、コンビニで売られているスナックバーの原型みたいなものかしら?」
流石はアリス先生。自らを神書の魔女と名乗り、図書館城の司書長を勤めているだけあってその知識量は半端ではなかった。
「へぇー、スナックバーの原型か……せっちゃん、それで一週間は流石に辛いね」
「それはそうと、刹那。一つ聞きたいことがあるんだけど」
「何でござるか?」
「君って……忍者だよね?」
「ごふぁ!?な、何故それを……!?」
「あれ」
俺が指差した方には刹那が所持していた物がずらりと別のテーブルに並べていた。短めの直刀に短刀、それ以外にも十本の苦無や手裏剣、その他色々の武器や道具があった。
「あれってどうみても忍者が使う武器と道具だよな?」
「ぬぉうっ!?あれは拙者の忍具一式!?」
「これは言い逃れが出来ないよ、せっちゃん」
「あなたの正体、そろそろ話してくれないかしら?」
三人の視線に見つめられ、刹那は観念して自分の正体を明かした。
「その通りでござる。拙者は……“神影流”の忍者でござるよ……」
「神影?ああ、神影ね。やっぱり生き残りがいたのね」
「知っているのでござるか?」
「ええ。神影流は歴史では名を残さなかったけど、優秀な忍者を出している。忍具の扱いが優れていて、気配を殺した隠密行動は超一流。極めつけは先祖代々受け継がれている気力と精神力を練り合わせて発動する忍法は神業と言われているからね」
本当に知らないことは無いんじゃないのかと言わんばかりの知識量に俺と千歳は目を大きく開いて驚いている。
「まあ、その神影の忍者がどうして追われているのかは個人的事情だからあえて聞かないわ。いつか話してくれるまで私達は待つわ」
「かたじけないでござる……」
「さあ、話は取りあえず置いておき、食べよう。刹那、おかわりはたくさんあるから満足するまで食べて良いからな」
「はい!ありがとうでござる!」
その後、あらかじめたくさん作っておいたご飯と味噌汁をおかわりを沢山した刹那か一人で平らげてしまった。そして、学校に行く前に皿を洗いしている時だった。
『ピィー、ピッ?』
「む?何でござるか?」
白蓮は小さな翼で刹那の胸元を指した。
「ああ、これのことでござるか?」
刹那が胸元から出したのは不思議な輝きを放つ翡翠色の石のペンダントだった。
『キュピィー……』
その翡翠色の石を白蓮はジッと見つめる。ちょうどその時に皿洗いから戻った俺と千歳が戻る。
「白蓮、どうかしたのか?」
「きっと、この石を見ているのでござるよ」
「それ、ただの石じゃないの?」
「これはただの石ではござらん。これは“忍獣石”でござるよ」
「忍獣石?」
「この忍獣石には白蓮殿や銀羅殿のような素晴らしい聖獣を呼び出す力が秘めているのでござるよ」
「聖獣を呼び出す石?」
『確かに、その石には妖力が秘められているな』
銀羅がマジマジとその忍獣石を見つめる。
「うむ。神影流の忍者は“十五歳”の成人になると、長からこの石を渡されるのでござる。そして、この忍獣石を使って我々忍者と共に戦う忍獣を召喚するのでござるよ」
「なるほど……人里を離れた神影流独自の人獣契約システムと言ったところか。それで、刹那の忍獣はどんなのなんだ?」
アーティファクト・ギア使いとして至極当たり前な質問をするが、刹那は何故か浮かない表情を浮かべる。
「それが……拙者はまだ己の忍獣を召喚したことが無いのでござるよ……」
「「何ですと?」」
「忍獣石は持ち主の忍者が何らかの条件を満たした時に光り輝き、忍獣を召喚して契約する事が出来るのでござるが、拙者の忍獣石は全く光らないのでござるよ……」
「そうなんだ……」
「何らかの条件ね……それがわかれば良いんだけどね」
「でも、拙者は諦めないでござるよ!いつか必ず、己の忍獣を召喚して共に戦うでござる!」
「あはは。応援しているよ、刹那」
「頑張ってね、せっちゃん」
「はいでござる!」
刹那の前向きな姿勢に安心するが、ふと千歳はあることを思い出して表情を凍らせた。
「……ん?ちょっと待って。さっき忍獣石は十五歳の成人になったら貰えるって言ったわよね……つまり、せっちゃんは十五歳なの?」
「そうでござるよ?それがどうしたでござるか?」
「お、俺達と同い年?失礼だけど……その姿で?」
刹那の容姿はどうみえても十歳の小学生にしか見えないほど背が小さく、顔が凄く幼く見える童顔だった。しかも、声が女の子みたいに高いので、年齢を偽ってもバレない可能性が非常に高い。
「いや~、小さい頃からよく食べ、よく寝て、よく修行をしていたのでござるが、なかなか体が大きくならないのでござるよ。でも、修行で頑張って会得した忍術と忍法には自信があるでござるよ!!」
背が小さいことをあまり気にしていないのか、それとも吹っ切れたのかわからないけど、とにかく刹那は前向きだった。
「「マ、マジですか……!?」」
俺と千歳はこの口調がちょっと変だけど礼儀正しい同い年のショタ忍者の存在に驚愕するのだった。
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あまり見かけないショタ+忍者キャラ、どうでしたか?
次回はもう刹那を追いかける一人の忍……くノ一キャラを出そうと思います。




