1-1 プロローグ 最後の王の最初の1日
# プロローグ ――最後の王の最初の一日
世界は、終わった。
燃え盛る王都。崩れ落ちる城壁。黒煙に覆われた空。
かつて「千年王国」と呼ばれたこの国は、今や瓦礫の山となっていた。
玉座の間には、一人の男が立っている。
白銀の王冠は砕け、真紅の王衣は血に染まり、手にした剣も刃こぼれだらけだった。
「……終わりか。」
男――アルス・レインハルトは静かに笑った。
王となって三十年。
戦争を終わらせた。
飢饉をなくした。
盗賊を討ち、隣国と和平を結び、誰もが笑って暮らせる国を築いた。
それでも、世界は滅んだ。
玉座の間の大扉が、ゆっくりと開く。
足音はしない。
そこに立っていたのは、全身を黒いローブで覆った一人の人物だった。
顔は見えない。
男なのか、女なのかすら分からない。
「……ようやく来たか。」
アルスは剣を構える。
「お前が、このすべての元凶だな。」
ローブの人物は何も答えない。
ただ、一歩。
また一歩。
静かに歩み寄ってくる。
その瞬間、アルスは飛び出した。
何百もの戦場を駆け抜けてきた王の一撃。
だが──。
「……なっ!?」
剣が届かない。
目の前にいるはずなのに、まるで存在しないかのように刃がすり抜ける。
「どういうことだ……!」
ローブの人物は、初めて口を開いた。
「あなたは、まだ早かった。」
その声は、不思議なほど穏やかだった。
「何を言っている!」
「もう一度、やり直してください。」
「……は?」
ローブの人物が指を鳴らす。
世界が白く染まった。
城が。
空が。
炎が。
アルス自身の体さえも光に溶けていく。
「待て! お前は誰だ!」
返事はない。
最後に聞こえたのは、たった一言だった。
「次こそ、真実へたどり着いてください。」
そして――。
アルスは目を覚ました。
見慣れた天井。
豪華だが少し古びた寝室。
窓から差し込む朝日。
「……夢、か?」
そうつぶやき、体を起こそうとして、違和感に気付く。
軽い。
腕も、足も、声も。
鏡に映った自分は、二十代の王ではない。
十五歳の少年だった。
「……そんな、馬鹿な。」
扉が勢いよく開く。
「アルス様! 朝ですよ! 本日は王立学院の入学式です!」
侍女の明るい声が響く。
王立学院。
その言葉を聞いた瞬間、アルスの顔から血の気が引いた。
「ありえない……。」
ここは五十年前でも十年前でもない。
世界が滅ぶ、ちょうど百年前。
すべてが始まった日の朝だった。




