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神の石 -Back to the Baby-  作者: 中山 英司


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13/13

第13話 爆発

時は三重県の琵琶湖隕石保管施設で爆発が起こる二時間前に(さかのぼ)る。


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訪問者の対応を終え、北見信一は第二保管室で琵琶湖隕石を別の保管施設へと

移動させる準備を行っていた。

防護ケースをリフターで引き上げ、剥き出しになった琵琶湖隕石を台座ごと地面に

降ろし、フォークリフトで移動できるようにする。


車両移動による振動で動かないよう、隕石の特性である反力に逆らわない程度に

結束ロープを掛ける。最後に緩衝材の入った木枠で蓋をすれば移動準備は完了だ。

信一の琵琶湖隕石の保管施設警備は六年目に入り、盗難や訪問者の警備だけでは

なく隕石の搬入や搬出も重要な任務のひとつに加わっていた。


年々幼化症の発症は増加しているが、施設警備ができる者は限られる。

増員はおろか欠員補充もままならなかった。

「ここの任務はあと二年ってところかなぁ」

信一は六十五歳 残齢十一となり、長くてあと二年で定年退職ならぬ幼年(ようねん)退職を

迎えようとしていた。


「北見さんですか?施設長からダミー梱包をもうひとつ追加したいと連絡が

ありました」

新人だろうか。普段見ない警備員が信一に話しかけてくる。

「了解しました。ダミー梱包の追加ですね。ところで..貴方は?」

不審に思った信一が確認する。

「申し遅れました..!別の保管施設から転属になりました太田といいます。

宜しくお願いします」

「ダミー梱包は連絡を受けた分しか準備できてない...。いつになく急だなぁ」

信一がぼやくと

「空梱包で良いとの事で私の方で準備できます。前施設で梱包任務をして

いました」

「わかりました。私はこれから搬出で席を外します。太田さんは第三保管室で

追加のダミー梱包準備をお願いします」

この施設だけ人員が厳しいのかなと思いながら、信一は琵琶湖隕石が載った木枠

梱包の搬出を開始した。


入念を期す為、特殊車両で移送する警察にも梱包の詳細はわからないようになって

いる。詳細を知る者は各施設長と搬入搬出をまとめる警備員に限られる。


時間通りに警察の特殊車両が到着し、信一はフォークリフトの責任者に指示を

出していく。

”載せるダミー梱包は三つか。次の施設は保管場所が最低四箇所あるという事か”

新しい施設または保管室ができたのだろうか。梱包を四つ載せるのは初めてだ。

信一は指示を出し終えると太田のダミー梱包を載せる為、車両前で待機する。


五分ほどすると太田の準備したダミー梱包がフォークリフトで運ばれてきた。

信一の予想より早い。

「さすがは経験者といったところか。俺より早いかも..」

これなら安心して幼年退職できるかもと思いながら、車両に載せられようと

しているダミー梱包を眺める。

「ん?」

信一はわずかな違和感に気付く。

太田の準備したダミーは空梱包の筈...。荷台と接触した時の車両の揺れは空梱包

ではない重みのあるものだった。

「おかしいな。ダミー隕石の載った台座でも使ったのかな...?」


「最終立ち合いをお願いします」

特殊車両の警察官が荷物の立ち合いの為、信一に近付いてくる。

”今は定刻の出発が優先だ” 信一は荷物を確認できる車両後部へと向かう。


「北見さぁぁぁぁん!!」

開いた後部ドア越しに血相を変えた太田が走ってくる。

やはり梱包に不備でもあったのだろうか?信一が自分の居場所を知らせようと

した、その時だった。



ドンッッツ!!!!!



特殊車両が内側から爆発した。

後部ドアが千切れ、横に吹き飛んでいく。ドアの開口部から噴き出した炎が

爆発の衝撃と共に信一へ襲い掛かる。


信一は焼かれながら衝撃で吹き飛んでいく。

数十メートル先の施設を囲む外壁に背中から激突した。


「ぐぅぅぅぅ...」


燃え上がる車両が見える。爆発で荷台上部がごっそり無くなっている。

立ち上がろうとするが体が動かない。外壁を背にしたまま赤い炎に包まれて

いく車を見つめるしかなかった。

すると車両内部から青白い光が見え始める。


「何だ...?」


燃え盛る炎が見えなくなるほどあっという間に青白い光が強くなっていく。

そして波紋状に施設全体を覆っていく様に見えた。


”まぶしい...!”

青白い光に包まれながら信一は立ち上がる。

着ていた制服は爆発で飛び散った破片でズタズタに引き裂かれ、原形をとどめて

いなかった。


「みんなは...無事...なのか!?」

何故爆発したのか。何故太田が血相を変えて走ってきたのか。

発症しない事に業を煮やした権力者が隕石の破壊を画策(かくさく)したのか...?

時々飛びそうになる意識の中、信一は必死に考え続ける。


「いや...まずは救助だ」

自分は立ち上がれた。動ける自分に今、何ができるのか。

”大丈夫かーーー...” 大声で叫ぼうと大きく息を吸い込んだ瞬間、

信一は意識を失った。


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-----



「うわぁぁぁぁぁっ!」


信一は叫びながら目を覚ました。

白い天井と点滴バッグが見える。


「よかった...」妻 輝美の安堵の声が聞こえてくる。

「病院で治療を受けていたのか...」

爆発で吹き飛ばされた瞬間、信一は死を覚悟した。


「あれ...?」

信一は飛び起きる。

「これは...どうなっているんだ!?」

手のひらと甲を眺める。指は欠損しておらず切傷や火傷の跡は見当たらない。

四肢に力を入れてみる。何不自由無く動かせるようだ。

顔そして髪を両手で触っていく。引っ掛かりや違和感は感じられない。


「無傷...?ここはあの世なのか!?」

「何言ってんのよ!ここは病院だから...」今にも泣きそうな声で輝美が答える。

爆発で焼かれながら施設の外壁に激突し、制服は衝撃で引き裂かれた筈。

なのに骨折や体の痛みすら無い。


信一が呆然としていると看護師が病室に入ってきた。

「意識が戻られたのですね!一週間昏睡状態だったんですよ...」

「一週間も!?」

信一が大声を上げた瞬間、強烈な尿意と便意が同時にやってきた。


「あ...看護師さんすみません...。トイレどこですか?」

「部屋を出てすぐ右側にありますよ」

看護師が笑顔で信一に伝えると、自力で立ち上がり点滴スタンドを引きながら

信一はゆっくりとトイレに向かう。

自力で歩くその姿は爆発事故の被害者には見えない。正に奇跡そのものだった。



二日が経ち自宅に戻った信一は爆発事故の情報を集めていく。


負傷者は数名出たものの、死亡者ゼロだった事


爆発は日本に敵対する国によるものだったが、事故翌日に仕掛けた国の

国家元首が脳出血で倒れ、意識不明の重体に陥っている事実


太田が血相を変えて走ってきたのは、第三保管室の異常を知らせるためだった。

敵対国と通じた内通者が第三保管室のダミー梱包に爆薬を積み、太田よりも

早く搬出させていた。内通者を捕らえた事で敵対国による犯行が判明し、更に

十五年前の隕石盗難も同国によるものだとわかる


「まさか施設長が内通者だったとはな...」

信一は最後に車両に載せたダミー梱包の違和感に気付いた時、別の保管施設から

転属したばかりの太田を疑った事を申し訳無く思った。


そしてあれだけの爆発で荷台が吹き飛んだのにも関わらず、琵琶湖隕石は

破損を免れ無事だった。

何よりも...。今、自分自身が無傷で自宅にいる奇跡...。

信一は波紋状に施設全体を覆っていった青白い光を思い出す。

琵琶湖隕石は吸い込まれそうな青色をしている。


”あれは隕石によるものだったのか...?”


信一は爆発後に起きた超常現象と琵琶湖隕石を結び付ける。



「琵琶湖隕石...。あの石は...『神の石』だ...!!」


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