表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残響詩篇  作者: 宗一郎
序章:綴られぬ者達の夜明け
21/69

第16話:灰の祭典

【1】


朝日がフォーンシティ上層の赤壁を黄金色に染める。


鐘の音が空に響き、街のあちこちで色とりどりの布が翻った。

今日は年に一度の“灰の祭典”。


上層の住民達は晴れ着をまとい、浮かれた様子で塔の方角へ向かっていた。

市場には果実酒の甘い香りが立ちこめ、踊り子が軽いステップで通りを彩る。

子供達は灰を模した紙吹雪を、笑い声とともに撒き散らす。


塔前では祈祷官達が忙しなく動いていた。

儀式用の灰、布、灯火、祭具――それらを慎重に運び入れ、

外郭に整然と並べていく。



塔の最上部、塔周辺を一望できる“記録の間”。


そこに立つのは――筆聖グレース・ユルスナール。


白金の装束をまとい、民衆へ向ける微笑みは凛として穏やか。

その立ち姿は、まさに筆聖としての象徴そのものだった。



「――今年もこうして祈りを捧げられること。

世界の綴りに、感謝を」



喝采が上がり、拍手が塔の壁面に反響する。



彼女の瞳には迷いや焦りは微塵もない。

ただ、管理者としての冷たいほどの責務だけが静かに宿っていた。


(今日もまた――世界の綴りに従い、成すべきことを成すのみ)


グレースは民衆へ微笑みを向け、次の祝詞へと淡々と進んだ。




【2】


夕刻。


祈祷官が掲げた灯火が、灰の塔に大きな火の輪を描いた瞬間――

街全体が深い静寂に包まれた。


峡谷の周囲にも焚き火が灯り、

フォーンシティ全体が巨大な赤い焚き火のように揺らめく。


「――祈りを。灰と大地に、豊穣と安寧を」


祈祷官の声が静かに空気を震わせる。

白いフードを被った民衆は、一斉に胸に手を当て、深く頭を垂れた。


祈りの波が塔の根元を包み、街は息を潜めるように沈黙した。




そして――祈りの始まりから数刻経った後。



ドンッ!!

ガシャァンッ!!!


市街地の方角から、地面を揺るがす爆音が轟いた。

静寂が砕け、悲鳴と混乱が波のように広がる。


「な、何だ……!?」

「爆発!?!?」



瓦礫の煙が上がる中。


アイン率いる協力者達が姿を現した。


「派手にいくぞォ!

今夜だけは、全員好きに暴れていい!

クソみたいな祭りをぶっ壊してやれ!!!」


爆裂音。火薬煙。倒れた荷台。

怒号と悲鳴が混ざり、街の住民は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


アインらは建材を投げ、壁を崩し、わざと大きく音を響かせた。



同時に――ヴァージニア直属の警備隊が一斉に走り出す。


「全隊、前線へ!

炎上区域を封鎖して、避難誘導を急げ!!」


塔から警備が離れ、その周辺は見る間に手薄になっていった。

騒ぎの中、祈祷官が叫ぶ。


「祈りを続けよ!乱されるな!

祭典を止めてはならぬ!!」


祈りは崩れ、塔前の広場はざわめきの渦に飲まれていく。



市街地で警備にあたっていたヴァージニアは、

怒りを含んだ声で部下を叱咤していた。


「誰が、どこで暴れているの!!」


部下が叫ぶ。


「報告!武装集団が多数出現!

市街地で破壊工作を行っています!!」


「武装集団……!?」


ヴァージニアの表情が凍りつく。

そしてふと気づく。


(!…アマネ・チャペック……彼女の反応は!!)


導灯が光を放ち、塔の方角を鋭く指した。


「……塔の内部……!まさか――」


ヴァージニアがそう感じた瞬間、“彼女はいなくなった”。



それは存在の消失。


彼女の消失を皮切りに、

ひとり、またひとりと、街から人が消失し始めていた。



そして、祈りの中に生じた混乱。


フードを深く被った三つの影が、塔裏手の勝手口へ向かい――

内部へと侵入していた。




【3】


灰の塔内部――。


外の喧騒が嘘のように、そこには音の死んだ空間が広がっていた。

一歩踏み込んだ瞬間、足音すら吸い込まれるように沈む。

灰色の大理石の床、高く反響する天井。


中央には、塔の中心を突き刺す巨大な螺旋階段。


地上から上は催事で使用する部屋や、

フォーンシティの各種観測を行う機関室がある。


そして、地上から下へ降ると――



「下っすね。

《綴るくん》の反応はそっちっす」


カムイは手に持つ装置を見ながら下を指差す。


(《綴るくん》って名前なんだ)

アマネは心で呟いたが口には出さなかった。



「……」


カズヤは立ち止まって周囲を警戒している。

何かの気配に囚われていた。


下り始めていたアマネとカムイの背に向かって、

カズヤは声をかける。


「二人とも、先に降りててくれ。俺はここで待つ」


「どうしたの……?」



――塔の温度が数度下がったように感じた。


秩序を引くように、同じ歩調で近づいてくる足音。

階段上から、冷えた声が降る。


「来たか」


黒の外套、掻き上げられた金の髪。

手には水の走る双刃。


セイル・オーウェル――監査局、第七課監査部隊の隊長。



セイルが片手を軽く振り下ろした。


次の瞬間――轟音とともに、螺旋階段の中央へ水流が走った。

水流が十数の搥となって階段を一直線に走り、砕いて裂き、

上下の道を意図的に分断する。


「――ッ!?」


崩れ落ちる石段。


カズヤは咄嗟に上階側へ跳び退き、

アマネとカムイは下の段へ弾かれる。



舞い上がる石粉と水光。

三人の距離は、一瞬で届かないほど遠く隔たった。


アマネとカズヤが互いに叫ぶ。


「カズヤ!!」


「行け!地下に“綴り”があるんだろ!

俺も追いつく!!」



アマネは僅かに躊躇ったが、すぐに向かうべき方向へ足を運んだ。

カムイも続いて叫ぶ。


「先で待ってますから!気をつけるっすよー!!」


「ああ!頼んだ、カムイ!」


カズヤはニッと笑って二人を見送った。


そして上へと視線を戻す。



「律儀に待っててくれてありがとよ――“水野郎”」


「来い――“災厄の外典”」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ