第28話 変わった距離
「……なあ」
放課後。
教室の後ろで声がした。
裕翔が振り向くと、同じクラスの高橋が立っていた。
特別仲がいいわけでもない。
でも時々話す程度の距離の男子だ。
「朝倉さ」
「ん?」
「一ノ瀬と話すようになった?」
突然の質問に、裕翔は固まった。
「……え、なんで」
高橋は肩をすくめる。
「いや、なんとなく」
軽い口調。
けれど視線は真面目だった。
「前さ、絶対接点なかったじゃん」
言われてみればそうだった。
話した記憶もほとんどない。
「最近、昼とか帰りとか一緒にいること多くね?」
裕翔は言葉を探す。
否定するほどでもない。
肯定するのも妙に照れくさい。
「……たまたま」
そう答えると、高橋は小さく笑った。
「まあ別にいいけど」
椅子にもたれながら続ける。
「一ノ瀬さ」
少し声を落とす。
「前より雰囲気違うよな」
裕翔は思わず前を見る。
さつきは自分の席でノートをまとめている。
いつも通り。
姿勢も表情も変わらない。
「そうか?」
「うん」
即答だった。
「なんか、前より周り見てる感じ」
裕翔は何も言えなかった。
自分では気づかなかった変化。
でも。
確かに最近、視線が合う回数が増えた気がする。
その時。
さつきが立ち上がった。
鞄を持ち、こちらへ歩いてくる。
裕翔の机の横で止まる。
「帰る?」
自然な一言。
高橋が一瞬目を丸くした。
裕翔も少し驚く。
「あ、うん」
立ち上がる。
二人は並んで教室を出た。
背後で椅子が軋む音。
振り返らない。
廊下に出た瞬間、さつきが小さく言った。
「……今、何話してたの」
「え?」
「さっき」
少しだけ気になっているような声。
裕翔は笑った。
「別に。最近話すようになったなって」
さつきは数秒黙った。
歩きながら、前を向いたまま言う。
「……そう」
否定しない。
肯定もしない。
でも。
歩幅が少しだけ揃った気がした。
教室の中。
残された高橋が小さく呟く。
「……やっぱ変わったよな」
誰に聞かせるでもなく。
ただ、事実を確認するように。
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