第26話 同じ帰り道
翌日。
放課後の教室は、いつもより少し静かだった。
小テスト返却の日。
結果に一喜一憂する声があちこちで聞こえる。
裕翔は答案を見て、小さく息を吐いた。
「……あ、上がってる」
前より点数がいい。
劇的ではない。
でも確実に上がっている。
ふと前を見る。
さつきはすでに答案を鞄にしまっていた。
表情は変わらない。
当然の結果、という顔。
先生が言う。
「分からなかった人は、分かる人に聞いて帰るように」
教室がざわつく。
友達同士で席を寄せる音。
その中で、裕翔は少しだけ迷った。
昨日のことが頭をよぎる。
追いかけた帰り道。
会話。
違和感。
――行くか。
立ち上がる。
自然に足が前へ出た。
「一ノ瀬」
呼ぶと、彼女はすぐ振り向いた。
ほんの少しだけ驚いた顔。
「……なに」
「昨日言ってたとこ、もう一回教えてくれない?」
数秒の沈黙。
断られるかと思った。
だが。
「いいけど」
あっさり返事が返る。
隣の席にノートが置かれる。
二人で同じ問題を見る形になる。
距離が近い。
思ったより近い。
裕翔は少し姿勢を正した。
さつきは気にした様子もなく、ペンを走らせる。
「ここ。条件を先に固定する」
淡々とした説明。
でも昨日より、少しだけ言葉が多い気がした。
裕翔は頷きながら聞く。
理解できる。
昨日より、ちゃんと。
「……分かった」
言うと、さつきがわずかにこちらを見る。
「昨日より早い」
「え?」
「理解するの」
小さな評価。
それだけなのに、妙に嬉しい。
裕翔は照れ隠しに笑った。
「先生より分かりやすいからな」
一瞬。
さつきの手が止まった。
そしてほんのわずか。
本当にわずかだけ、口元が緩んだ。
笑った――ように見えた。
すぐ元に戻る。
「……別に」
短く言ってノートを閉じる。
その時。
教室にはもう数人しか残っていなかった。
気づけば時間が過ぎている。
裕翔が立ち上がる。
「ありがと」
「……うん」
自然な返事。
昨日より短い距離感。
二人は一緒に教室を出た。
偶然でも、約束でもなく。
ただ、同じタイミングで。
廊下を並んで歩く。
会話はない。
でも沈黙は重くない。
階段を降りながら、裕翔はふと思った。
昨日までなら。
こんな帰り方はしていなかった。
理由は分からない。
ただ――
少しだけ、これが普通になり始めている気がした。
ポケットの中でスマホが震える。
裕翔はそのまま歩き続けた。
夕焼けの光が、廊下を長く伸ばしていた。
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