第22話『悉くの追従を許さぬ圧倒的な魔力』
「アガット学園長、先に警告をさせていただきます」
「何かね」
学園長に案内されて到着したのは、見上げると学園長室が視界に入る――いわゆる校舎裏。
階段を降りる際や外へ出る際、誰かに見られるのではないかと心配したけど昼休みということもあり全てが杞憂に終わった。
そして今、第一印象が崩れるほどルンルンだった学園長と2人きり。
森の中で向き合いっているわけだけど、発言通りで要望ではなく警告をしなければならない。
「学園長は、本気の一片が見たいのですよね」
「こちらとしては本気を出してくれる方が嬉しいけどね」
「質問を1つだけさせってもいいですか?」
「できる範囲で答えよう」
「学園長が展開されている結界で確保できるのは、視界以外に声や音は含まれますか?」
「そこまで可能なら七魔聖候補首席になれたかもしれないがね。残念ながら私の技量では、それは叶わないね」
「わかりました。じゃあ手にしている情報の中に、黒い魔力と魔法を召喚できるまでのことしかない、ということですよね」
「そういうことになるね」
サラッと出てきたけど、さっきから七魔聖候補という言葉が気になっている。
そして今、いろいろと不明瞭なことはあるけど、七魔聖候補というのは各席に用意されているようだ。
学園長の情報を参考に考えると、七魔聖の封魔士に数人の候補が居る。
ある程度は予想していたけど、想っていた以上に七魔聖への道のりは遠いらしい。
アリシアとの契約ができたのは、想定していた以上の効果を得ることができそうだ。
「では先に伝えておきます。僕が召喚できる魔法は、段階的に最高の状態で使用することができます」
「なっ、なんと! でも確かにそうだね。あのゴーレム2体を討伐した、それぞれの魔法は追従を許さないほど美しかった」
「学園長、忘れてはいけませんよ。アリシアは、この短期間で成し遂げました」
「あ、ああ。そうだったね、彼女の完成度はキミが召喚した魔法と同等だった。訂正させてもらうよ」
学園長は見栄を張ったり間違いを誤魔化すような人じゃないことはわかった。
虚勢で対応することなく素直に訂正してくれたからこそ、アリシアの努力を僕も素直に認めなくてはならない。
さっきの授業でアリシアが木剣を打ち込んできたとき、手に血が滲んで僕の根性に敗北を認めたと思っていた。
だけどあれはたぶん、最初から魔法の授業で僕へ挑もうとしていたことを考慮すると、見えないところで僕が召喚した【蒼穹の盾剣】を再現できるよう練習していたんだ。
何度も魔法を発現させ、何度も剣と盾を握り、何度も何度も、手に血が滲んでもなお、ただ強くなるために。
「そして、僕は今まで嘘偽りなく力の一片を出していたまでに過ぎません。これから出す力も、今までより強力ですが力の一片です」
「ああ、それで構わない。要するに、私が最初の目撃者になれるというのだろう?」
「少なくとも事件は起きませんがね。でも、結界は先に展開しておいてください。これが警告です」
「こちらとしては力を試してみたい気持ちが強いから、出してくれる力に見合った結界を出したいのだが」
「最初にも言いました通り、これは警告です。お願いではありません」
探求心に駆られている今の学園長が、素直に話を聞いてくれてることを願う。
「わかったよ。じゃあ6割でどうだろうか」
「練習場や学園を覆う結界はどれぐらいですか?」
「あれらは3割程度だね。なんせ、かなりの大きさになっているから」
「では、範囲を縮めたら強度は上がると?」
「そうだね。結構自信があるので、胸を借りるつもりで力を出してくれたまえ。じゃあ早速――【剛城の封鎖】――」
学園長は軽く足を開いて膝を曲げ、胸の前で響き渡るぐらい大きな音を立てて両手を合わせた。
すると、すぐに半透明な結界が出現したけど、あまりの大きさに驚愕を隠せない。
「これは……」
「6割の力、と発言したら見誤っているように聞こえただろうけど。全然そういう意味ではないのだよ」
姿勢を戻した学園長は、僕の表情を見てなのかどこか嬉しそうだ。
「これは私が出せる魔法の中で3番目に強力なものでね。見ての通り校舎と同じぐらいの大きさになっている。ちなみに8割だとこれが二重になる」
「校舎というより、名前のまま城にしかみえないですけど」
「そうだね。ということで、私は結界の外に出ていいのかな」
「はい」
「ちなみにこの結界も中は見えるようになっているから、声を出さなくても大丈夫だからね」
「わかりました」
準備は整った、と学園長は歩いているだけなのに、背中から漂う興奮度合いが凄い。
探求心からなのか童心に戻っているのかわからないけど、まあ僕も人のことを言う資格はないのかもしれない。
なんせ、七魔聖にかなり近い人と力試しができるのだから。
こんな機会は好機としか言いようがなく、今の僕が一番欲しているものだ。
「すぅー、ふぅ……」
今は右手に集中する。
力を込めるようなそれとは少し違って、内側から魔力が込み上がってくるような、そんな感じ。
そうすればすぐに右手が漆黒に染まる。
こうなれば、やることはいつも通りだ。
右手を前に突き出し、手を開いて下に向け。
漆黒の魔力を垂れ流し、漆黒の七星で描かれた魔法陣が地面へ浮かび上がる。
発動するのは。
「【インスタント魔法】」
宣言するのは。
「限界突破」
詠唱するのは。
「天無上召喚」
召喚するのは。
「【極黒の獄炎】」
魔法が魔法陣より召喚されると、瞬く間に自身を含み辺りへ黒い炎が広がっていく。
召喚者である僕に影響は及ばないが、この召喚によって当たりの魔力は枯渇――いや、全て費やされるため消滅状態になる。
しかし、炎が結界へ辿り着く前に終わらせなければいけない。
頭上へ目線を上げ、右手を空へ向けて炎を放つ、というよりも地面から流すように這い上がらせる。
「――ここで終わり」
結界は魔法を弾くことはなく、たった数秒も絶えることすらなく触れた瞬間に全てが粉々に砕け散った。
それを確認し、すぐに全てを解除。
辺りへ広がる黒い炎と空へ流した炎を消滅させた。
「やっぱり、こうなるんだよな」
黒炎が触れた場所は例外なく焦げた状態になってしまい、引火した草木に関しては塵すら残っていない。
円形に焦げ広がっていくという、あまりにも不自然な環境ができてしまった、という罪悪感が押し寄せてくる。
と、改善点を模索している最中、学園長はたぶん全速力で走って戻ってきた。
「ど、どうなっているのだね! あれは!」
息絶え絶えに声を大きく質問を投げかけてくる学園長は、近くに到着すると、すぐに膝に手をついて苦しそうにしている。
「ご要望通りにしたまでです。あれもまた、僕の力の一片です」
「何から何までおかしいじゃないか! な、なんなんだあれは!」
「とりあえず呼吸を整えて落ち着いてください。黒い魔力を前もって見ているのですから、そこから繋がると思いますよ」
「――……た、たしかに。言われてみたらそうだが。い、いやそうはならないだろ。体の一部が黒くなるって、どうやったら予想ができるというのだ。それに、あの黒い魔法も全く理解ができない」
「とりあえず落ち着きましょう。深呼吸を繰り返してください。話はそれからです」
まだ呼吸が整っていないのに、顔を上げては下げてを繰り返している様子を前に心配しない方が無理だ。
年齢も年齢だろうし、興奮状態で詰め寄られても困る。
学園長が提案通りに質問を止めてくれたから、僕は僕でちぐはぐな説明にならないよう情報を整理しておこう。
今までこれを誰かに説明しようと思ったことがなかったから、他のことより複雑だし――。




