第21話『学園長からの、厚意と願望の落差』
「それで学園長。どうして僕が呼ばれたのかお聞きしても?」
僕はお昼休みの休憩時間に、食事が終わったら学園長室へ来るよう先生から言伝を受け取って今――その学園長室に居て、僕と学園長は向かい合って座っている。
入学初日にも座ったけど、落ち着きのある学園長と包み込んでくれるようなソファが相まって、相変わらず落ち着く場所だ。
呼び出しを受けるようなことは……あったかと言えばあったけど、直近なら今朝、遡ると寮の前とか。
その件なら、むしろ僕は被害者でもあるのだから全面的に抗議する心構えだ。
「まだ4日目だが、学園生活はどうかね」
「どうと言われましても、懸念していただいている通りですよ。でも、学生寮に関しては嬉しいことばかりです。同室のスレンは友達になってくれました。出会って数日なのに、一緒に朝練もしているぐらいです。後は、寮のご飯も学園内の食堂も味わったことがないぐらい美味しくてありがたいです」
「そうかそうか、それは良かった。懸念の方は、容易に排除できないぐらい根付いてしまっているものだから仕方がない。いや、教育者としての立場で簡単に片づけるのは職務怠慢でしかないが」
実質的に特別待遇を受けているということもあり、学園長が僕のことを気にかけてくれているのが伝わってくる。
まあ、入学したら周りからどう扱われるかは目に見えているからこその配慮かもしれないけど。
「交友関係も心配していたけど、どうやら大丈夫そうで安心しているよ」
「そ、そうですね」
「さすがにひやひやするような話が耳に入ってきてはいるがね」
「少なくとも、僕から何か騒ぎを起こしたことはありませんよ」
「ああわかっているさ。さすがに同情したくもなるような話だからね」
ああ、学園長は僕のことを真っすぐ見て口元を歪ませて同情してくれている。
破天荒娘たちが悩みのためではあるけど、スレン以外に理解者が居てくれるのはありがたい。
「ところで、入学初日に伝え忘れていたことがあってね」
「なんですか?」
「キミを補欠合格者の中から選んだ理由だよ」
「そういえば途中で終わってましたね」
「結論から言うと、見えてしまったからなんだよ」
「何がですか?」
「キミが出現させていた、複数の何かを」
目まぐるしい日々のせいで、その件について考えるのを忘れていた。
でもなるほど、たしかに学園長は試験官として居合わせていなかったし、もしも居たとしても目線が合うような場所には居なかったのだろう。
あの魔力で練った線は、角度を変えることで薄く見えるものだから、そう――2階や3階ぐらいの高さだと見えていてもおかしくはない。
「ちょうど廊下を歩いているときだった。偶然ではあったけど、素晴らしいものを見させてもらえて嬉しかったよ」
「でも凄いですね、いろいろと。要するにねじ込んだというわけですよね」
「まあね。でもさ、説明したところで信じる人間がどれだけいると思うかね。悲しいが、生徒に合わせて指導する側も思考力が凝り固まってしまっているのだよ」
「それはそれで同情はしますよ。魔法を学び、自身の能力を向上するために学園へ入学した生徒ばかりかと思えば、現実はまるで違いましたから」
学園長に伝えても仕方がないことだとはわかっていても、つい愚痴がこぼれてしまつた。
終始、たった1言でも反論が返ってこず、親身になって話を聞いてくれているから、学園長は学園長で立場的にも悩みの種なんだと思う。
「疑問なのですが。この話をするだけなら、別の場所でもよかったのでは?」
「ああ、それに関してはキミに配慮してのことだよ」
「ちなみに僕は隠しているわけでも、バレたら嫌だとも思っていないので大丈夫です」
「そうだろうね。教室や実技での態度を見たらすぐにわかったよ。周りの生徒からどう扱われようと、微塵も気にしていないのだからね。どんな精神力を兼ね備えているのか疑問で仕方がないよ」
「ええ、まあそれなりに」
ん? 待てよ。
学園長は身振り手振り、穏やかな表情で淡々と話を進めているものだから、当たり前のように答えたけど――なぜ、知ってるんだ?
「それに、そうだね。召喚士という存在というのは実に興味深いものだね。あんな魔法の使い方ができるとは」
「……」
「いや、魔法を召喚していた、と言った方が正しいのかな」
「……3人の誰かから報告を受けたのですか?」
「安心してくれたまえ。誰もキミを売るような真似はしていないさ。私は封魔士なのだよ」
「ごめんなさい。繋がりが理解できません」
少なくとも、この学園の中で僕の魔法を知っているのは3人ぐらいしか把握していない。
もしかしたら盗み見られていた可能性もあるけど、だとしたら噂となって広まっているはず。
ついさっきの自然な会話術や安心させるような配慮などは、最初から僕を何かに利用するための前座だったというわけか?
いいや、まだわからない。
でも、ここから先の会話には警戒心を持って挑む必要がありそうだ。
「ごめんごめん。警戒させてしまったようだ。じゃあここで軽く自己紹介をさせてもらうよ。私はね、七魔聖候補者次席なのだよ」
「……なるほど」
「と言っても、順当にいけば私が七魔聖になることはできない。年齢的にね」
「でも、そこまで上り詰めただけの実力はあると」
「別に自慢したいわけじゃないんだ。ただ、察しの通りでそれぐらいの実力はある。ああそうだ、朝練で使っている場所の結界は私が展開したものなのだよ」
ここまで情報を出されたら理解できた。
懇切丁寧に得た情報を出してくれているということは、要は目視せずとも情報を得る手段を持ち合わせているということ。
そして封魔士であるということは、結界魔法や防御魔法に特化しているということであり、実力は申し分ないという話だ。
だとすれば……。
「展開した結界内なら、距離があったとしても情報を手に入れることができるのだよ」
……つまりはそういうことだ。
そして、得られた答えから導き出されるのは――。
「4日間キミが発現させていた魔法については、全て見させてもらった」
「――監視ですか」
「気分を害してしまったのなら、地面に額を擦り付けて謝るし、多額の金品を支払って誠意を示すよ」
「いいえ、先ほども言いましたけど隠し通したいとは思っていないので。ですが、盗み見られ続けていて、これからもその可能性があるというのは、あまりいい気分ではありません」
いろいろと納得することができた。
わざわざ学園長室へ呼ばれたのは、部屋全てを結界で覆い外に漏れ出るかもしれない情報を遮断するため。
これに加えるなら、視界を遮断はできないから姿が見えない方がいい部屋を選んだ、というところか。
「当然、キミの情報を口外することはしない。だが、お願いしたいことがある」
「厄介事だけは勘弁してもらいたいのですが」
「キミにとっては厄介事になると思うけど、少しばかり力を見せてもらいたいんだ」
「え?」
「力比べとまでは言わない。全力――いや、ほんの一片だけでもいいから自分の目で確かめたいのだ。いいや、見たくて仕方がないんだ」
ん、なんだか方向性が変わってきたな。
だって、今まで穏やかに話を進めていたダンディーな叔父様が、急に手を合わせて膝を床につけ始めた。
単なる願い、というよりは懇願する姿のソレ。
なんだったら目をうるうるとさせているような気もする。
「どういうことですか?」
「私は今、歴史が変わる瞬間に立ち会っているのかもしれない。こんな名誉あること、次席を捨てて学園長を辞職してもいい。それほど興味を抱いているのだ!」
「えぇ……」
挙句の果てには声が大きくなって、拳を力強く握り締めながら立ち上がってしまった。
このままだと叫び始めそうだから、返答しよう。
「いいですけど、結界で見れるなら――」
「ダメだ、ダメなんだよ。こういうのは自分の目で確かめなくては」
「ははぁ……。わかりました。これからすぐですか? 放課後?」
「キミが日々鍛錬している姿もちゃんと見ている。だから時間は取らせたくない。このまま場所を移動しよう」
「わかりました。じゃあ行きましょう」
「ああ! ありがとう!」
ウッキウキで廊下へ飛び出ていく学園長を一旦は見送る。
もはや僕が抱く学園長の落ち着きがあって趣のある印象は消え去った。
代わりに抱いたのは、まるで童心を宿した子供。
興味があることに飛びつき、下手しなくてもあのまま続いていたら駄々をこねられていただろう。
別に悪いことではないけど、要するに用件を断っていたら僕が首を縦に振るまで付きまとわれていた可能性だってあったことになる。
「はぁ……また変なことにならないといいけど」
ため息一つ吐き出し、僕も部屋を後にした。
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