【9話】勘違い
その日の夕方。
アンジェは冒険者ギルドを訪れた。
依頼を受けようと、いつものように受付カウンターへ向かう。
「一番難しい依頼を教えて?」
「今ご案内できるのはこちらですね」
受付嬢が案内してきたのは、オーガの討伐依頼だった。
「……嘘でしょ? こんなに簡単なのしかないの?」
オーガは人食い鬼として恐れられているモンスターだが、上位種のアークオーガを瞬殺できるアンジェにしてみればただのザコ。
ゴブリンと変わらない。小指一本で殺せる。
「……分かった。これを受けるわ」
しかし、他にないということならば仕方ない。
ガッカリしながらもアンジェは、オーガ討伐の依頼を受けることにした。
依頼場所のオルブ山に着いた。
山道を登りながらオーガを探していく。
「お、いるじゃない」
前方に、背中を向けているオーガを発見した。
「うん?」
オーガから少し離れたところには、若い男性冒険者の死体が落ちていた。
装備を見るに、まだ駆け出しだったのだろう。
自分の実力を知らずに無謀にもオーガに挑んで殺された、というところか。
(冒険者には多いのよね。そういうバカ)
そういう人間たちにアンジェが思うことは、一つしかない。
「自業自得ね」
冷たく言い放ってから、死体に一瞥。
オーガへ向けて片腕を伸ばす。
「【ウィンドエッジ】」
アンジェの放った風の刃は、オーガのうなじを直撃。
バターを切るみたくして、首から上をスパっと切り落とした。
「やっぱりザコね」
これで依頼は完了。
なんとも手ごたえのない依頼だった。
「ありがとうございました!」
オーガの死体の影からひょっこり現れたピンク色の髪をした美少女が、弾んだ声をかけてきた。
金色の瞳をキラキラと光らせている。
(いきなりなんなのこの子? どういうこと?)
見知らぬ少女にお礼を言われるという訳の分からない状況に、アンジェは困惑するばかりだった。
「新人同士でパーティーを組んでオーガに挑んだのですが、私以外はみんな殺されてしまったのです」
「それって、あそこでうつ伏せで死んでるヤツのこと?」
「はい。次は私の番でした。でも、あなたがオーガを倒してくれたおかげで死なずにすみました。助けていただきありがとうございます!」
ようやく状況がつかめた。
要するにこの少女は、大きな勘違いをしている訳だ。
「残念だけどあなたを助けた訳じゃないわ。私はオーガ討伐の依頼をこなしただけ。あなたが助かったのはただの偶然よ。だから恩を感じる必要はない。それじゃあね」
「待ってください! 私、リラといいます! あなたのお名前を聞かせてくれませんか!」
アンジェは他人とつるむ気はない。
だからもう話しかけてほしくなかったのに、リラはそれでも話しかけてきた。
「……うざっ」
ボソッと呟いて、アンジェは山を下りていった。




