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047 ムルロア辺境伯領

 アリエルとラルフの二人、及びその護衛であるエルビスとケイトの兄妹(きょうだい)は次の領へと差し掛かっていた。

 帝国との国境地帯であるムルロア辺境伯領である。

 この領の当主であるムルロア辺境伯は数か月前に王都で死亡しており、その後継者も定まっていないらしい。嫡男が10歳と幼く、辺境伯夫人も病弱だったためである。

 現状、仕方なくこの領の官僚団が合議制で政務を執り行っており、あたかも共和制を先取りしているかのようであった。

 ただし、パリ共和国政府に帰順しているわけではない。帝国につくか共和国につくかを決めかねている状態なのだ。これはこの地へ帝国軍の来襲が懸念されている現時点においては、仕方のないことであろう。

 ちなみに、アリエルは忘れていたのだが、ムルロア辺境伯を王都で殺害したのは彼女自身である。無差別に貴族を殺しまくっていた時期なので、あまり記憶に残っていなかったのだ。


「警部殿、この領では揉め事を起こさないでくれよな」

「うーん、因縁(いんねん)をつけられた場合は対処せざるを得ないかなぁ。まぁ、普通の商人の親子とその護衛の冒険者に難癖をつけてくる奴なんていないだろうけどね」

 だからこそ普通の商人に偽装しているのだ。政府の役人を自称した場合、揉め事を招き寄せるばかりだろうし…。

 余談だが、『全然普通じゃねぇよ』というツッコミを入れたい衝動に駆られているラルフがここにいた。賢明な彼は特に何も言わなかったが…。


 …


 ムルロア辺境伯領の領都へと到着した。

 馬車の御者席から領都の街並みを観察していたアリエルだったが、その光景には特に変わった点は見受けられなかった。まぁ、普通の状態を知らないので、もしかしたら多少は変わっていたのかもしれないが…。

「エル君、ここには以前来たことがあるんだけど、街の雰囲気が少し浮足(うきあし)立っている気がするよ。やはり帝国軍の来襲が民衆の間で噂になっているのかもな」

「帝国軍はちょっと困るね。今の共和国ではおそらく太刀打(たちう)ちできないよ。早めに帝国入りして、そこで明石(あかし)元二郎(もとじろう)陸軍大佐になるしかないね」

「それって、僕でなければ発言の意図が全く分からないよ。てか、日露戦争かよ」

「さすがはエルビスお兄さんだね。ふふふ、帝国内の反政府組織と協調して、帝都の政情不安を画策するつもりだよ。もちろん、聖女を捜索する仕事も同時並行的にやるつもりだけどね」

 日露戦争の際、ロシア帝国の首都ペテルブルグにおいて()の大佐が果たした役割は特筆すべきものだった。スパイマスターとしてロシア帝国の継戦能力を低下させ、日露講和へと導いた立役者と言っても過言ではない。

 アリエルは帝国の首都である帝都において、明石大佐のような働きをしようと思っているのだ。もっともそれには軍資金が不足しているので、反社の組織(帝国にもきっと存在するはずだ)から協力を得ようと思っている(もちろん、暴力という手段で…)。


 …


 領都の宿屋に一泊した彼らは、翌早朝には出立し、馬車で2時間程度の距離にある国境を目指していた。

 出発してから約1時間、とある峠に差し掛かっていた一行だが、エルビスが警告を発した。彼の『索敵』という能力(ギフト)によって敵意ある者たちを察知したらしい。

「街道脇にチラホラと待ち伏せしている奴がいるね。あと、先の方にもかなりの人数が待ち構えているみたいだよ。ようやく僕たち護衛の出番ってことらしい」

「街道脇にいる奴らって、この馬車が通過したあとで後方から襲いかかってくるつもりかな?」

「ああ、多分ね。包囲する意図があると見た。エル君、このまま進むかい?」

「馬車の速度をゆっくり目にして。あと、待ち伏せしている奴らの横を通過するとき、その位置を正確に教えてほしい。そいつらを殺しちゃうから」

 後方からの襲撃は回避したい。そういう意図を含んだアリエルの発言であった。


「そこの大木の陰に一人」

「左の茂みの中に一人隠れているよ」

「右の岩陰に一人いるね」

 エルビスの指摘を聞くたびに、アリエルはそいつらの心臓を止めていった。賊たちは全員、街道から5m以内の距離に隠れていたので、アリエルの能力の届く範囲だったのだ。

 ちなみに姿が見えなくても、そこにいることが分かっていれば能力(空気生成)は発揮できる。彼女がチートと呼ばれる所以(ゆえん)でもある。


 しばらく進むと、大勢の男たちがぞろぞろと前方に出現した。盗賊団というよりは騎士団という表現が相応(ふさわ)しい身なりだった。

「我らは()えあるムルロア辺境伯領騎士団である。積み荷の臨検を行う。大人しく指示に従え」

「エル君、こいつらっておそらくは元・騎士団員だと思う。これだけの敵意と殺気を商人に向けるなんて、まっとうな騎士団とは思えないよ」

 小声で(つぶや)かれたエルビスの助言に納得しつつ、アリエルは内心でこう思っていた。こいつらは対帝国という観点では貴重な戦力であり、あまり殺したくはないな…と。

 後方から襲撃される危険性はすでに排除しているし、こいつらを皆殺しにするのは簡単なのだが、さてどうしたものか…。


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