036 最終決戦③
「エル君、どうする?このまま耐え忍んでいれば、いずれは鉄球も尽きるだろうが…」
革命軍の指導者がアリエルに質問してきた。アリエルが市民革命の闘士として、いや中心人物として認知されている証拠である。
なお、50m先にいるエルビスの傍らには大き目の木箱があり、そこから鉄球を取り出しては投擲していた。ただ、残りの鉄球の数がどれほどなのかは確認できない。
革命軍の崩壊が先か、鉄球が尽きるのが先か…といったところであった。
「おいらに考えがある。あの男、エルビスと交渉して、何とかこちら側に寝返らせてみるよ。皆はここで待機してて。おいらが右手を挙げたら交渉成功、左手だったら交渉失敗という合図にするからさ」
アリエルはエルビスに向かって大声で呼びかけた。
「エルビスお兄さん、久しぶり!今は変装してるけど、おいらエルだよ。ちょっと休戦しよう。おいらだけそっちへ行くから攻撃しないでね」
アリエルにとってこれは賭けである。もしも問答無用で鉄球攻撃された場合、なすすべもなく殺されてしまうかもしれない。
しかし、これを聞いたエルビスは目を見張り、鉄球の投擲を一時停止した。あの美女が後輩冒険者で、かつ自分と同じ日本からの転生者であるエルだったとは…。
「おいおい、エルって本当か?変装ってレベルじゃないぞ。まさに女装子さんだな」
10mほどの間隔をあけてエルビスと対峙したアリエル。ちなみに、何度も言うようだがアリエルは女性である。決して女装ではない。
「王城の跳ね橋を制圧するための変装だよ。そんなことは良いとして、おいらたちに味方しない?もはや王家の命運は尽きてるよ」
「うーん、腐ってもSランクとしての矜持があるからなぁ。仲間を殺された恨みもある」
ただ、エルビスにも分かっているのだ。すでに逆転の目は無いということが…。
だからこそ、決心が揺れ動いているのだろう。
「お兄さんだけだったら、ヤバくなったら逃げることはできるだろうけどさ。果たして妹さんを守り切れるの?投降してくれれば、二人の身の安全はおいらが保証するよ」
ここでアリエルは少し違和感を覚えた。相手との距離があるため、大声で会話しているというのに(会話が聞こえているはずの)ケイトの反応が全く無いのだ。
普通ならバリケードの中から姿を現して、この交渉に参加するべきではないだろうか?
「ねぇ、お兄さん。妹さんの反応が無いんだけど、後ろでヤバいことになってない?ちょっと確認してみたほうが良いと思うよ」
エルビスが即座に振り向いて、バリケードの中へと消えていった。まさに瞬間移動のように素早い動きだった。
バリケードの中からは何か争う物音が聞こえてきたが、アリエルはその場を動かなかった。まだ交渉は終わっていないのである。
…
数分後、エルビスとケイトがバリケードの外に出てきた。ケイトのローブは破られ、ところどころ素肌が露になっていた。
青白い顔でブルブル震えている彼女の様子からは、精神的ショックの大きさが窺える。
「エル君、教えてくれてありがとう。間一髪で間に合ったよ。具体的に言えば、王太子殿下とその取り巻きたちが妹を襲おうとしていた。王太子殿下は下半身丸出しの状態で、今は気絶しているよ。もしもこの子が犯られていた場合、彼を殺していたかもしれないけどね」
アリエルとしてもこれは朗報だった。
わざわざエルビスとケイトの兄妹が王家から離反するように仕向けてくれたこと、及び王太子がエルビスに殺されなかったことだ。あっさりと死なせてあげるなんて、そんな慈悲をかけるつもりは毛頭ない!
「どうやら僕を裏切らせないように、妹を犯して妾にしようと考えたらしい。あの男は狂人なのか?それとも単なる阿呆なのか?」
「単なる阿呆だよ。もしもあいつが王様になったら、遅かれ早かれこの国は滅亡していただろうね。さて、あらためて聞くよ。お兄さんたち、どうする?革命軍に投降するかい?」
「当然だ。王太子殿下をぶっとばした僕は、すでに国家反逆罪だそうだよ。これは王様がうるさく喚いていたから間違いない」
どうやら国王も阿呆のようだ。もしもエルビスの行為を称賛し、王太子を廃嫡すると宣言していれば、(被害者のケイトはともかく)エルビスは味方のままでいてくれたかもしれないというのに…。
アリエルがその場でゆっくりと右手を挙げた。
すぐに後方の革命軍からは勝鬨が聞こえてきた。あとは王族を全員捕縛し、牢獄から戻ってくる騎士団を武装解除すれば革命軍の完全勝利である。
アリエルは、ここで捕縛した奴らをこれからどういう目に遭わせてあげようかと、とても高揚した気分になっていた。ワクワクである。
余談だが、ギロチンによる処刑だけはあり得ない。あれはとても人道的な処刑道具なのだ。なにしろ一瞬で意識を刈り取るため、犯罪者は苦しむ暇もないのである。
…
バリケードの後ろにはかなりの人数が立てこもっていた。
国王、王妃、側妃、王太子、第二王子、第三王子、第一王女、第二王女、宰相などの大臣職、王族それぞれの側近たち(侍従や侍女)等々、総勢50名ほどである。
その全員が縄で縛られ、猿轡を噛まされている。彼らの行き先は王城の地下にある不潔な牢獄だ。ここには清潔な貴族牢もあるのだが、当然のことながらそんな好待遇をしてあげる必要は一切無い。
ちなみに、アリエルが最初に投獄された半地下の牢屋よりもさらに劣悪な環境への投獄だったことはここに明記しておきたい。
「あの『聖女』とかいう肩書きの平民女がいなかったわね。てっきり王太子のところにいるのだとばかり思ってた。調査を怠った私の失敗だわ」
卒業記念パーティーで王太子の横に侍っていた平民女性のことである。
アリエルのこの小声での呟きは誰にも聞かれることは無かったが、彼女の復讐が未完であるのもまた確かなことであった。




