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032 ロベスピエール作戦②

 とある貴族家の馬車が王城の門内へと侵入した。

 側面には貴族家の紋章が刻印されており、御者についても正規の人物である(元々その家に勤めていた平民の御者を買収した)。

 窓の内側には黒いカーテンが引かれているため、外から馬車内部を(うかが)うことはできない。


 その馬車は門番に停められることなく門を通過したが、なぜか数メートル先で停車した。何かトラブルでもあったのだろうか?

 不審に思う門番たち。

 数人が馬車に駆け寄って、問題が無いかと外から呼びかけていた。

 ところが、その者たちがバタバタと倒れたのだ。全員が胸のあたりを手で押さえて苦しげな表情になっていた。


 すぐに馬車の扉が開き、一人の男性が下車した。

 この貴族家に(つか)える侍従のようであり、立派な格好をした男性だった。

 その侍従が下車をエスコートすることで、一人のご令嬢が降りてきた。豪奢(ごうしゃ)なドレスというわけではなかったが、仕立ての良いワンピースを着た絶世の美女であった。

 長い金髪はハーフアップに編み込まれ、薄く(ほどこ)された化粧が彼女の美しさをさらに際立(きわだ)たせていた。


 侍従に手を引かれ門のほうへと歩み寄ってきたそのご令嬢は、にっこりと天使のような微笑みを浮かべた。

 門番の男たちがこの世で最後に見た光景である。末期(まつご)の瞬間に美しいものを見たことは、彼らにとって幸せなことだったのかもしれない。

 十数人の門番が詰めていた王城の門は、これにより啓開されたのであった。


 待機していた革命軍およそ1万人が整然と門を通過していく。もはや王城内に存在する全ての人間(王族、貴族、使用人に至るまで)の命は、風前(ふうぜん)灯火(ともしび)と言っても過言ではない。

 残る問題は守備隊として王城を警固している騎士たちと、雇われた冒険者たちの存在だ。

 彼らを排除しない限り、王族へは手が届かないのだ。


「エル坊、うまくいったな。いや、エルお嬢様、首尾よくいきましたね。お着替えになられますか?」

「ええ、馬車の中で着替えてFランク冒険者のエルに戻りますわ」

 この侍従はエルの護衛のラルフであり、ご令嬢はアリエルだったのだ。切り取った自分自身の長い髪をウイッグに加工して、頭に付けていたのである。

 令嬢に変装したというよりは、元の姿に戻ったということだろう。


「しっかし、化けやがったなぁ。変な性癖に目覚めそうになったぜ」

「気持ち悪いこと言わないでよ。おいらは男だからね」

 いや、アリエルは女性である。令嬢のふりをした少年で、その少年のふりをした女性なのだ。ややこしい。

 馬車の中でシャツとズボンといういつもの簡素な服に着替えたアリエルは、防具として皮の胸当てのみを付けていた。まさに駆け出し冒険者といった風情(ふぜい)である。

 ただし、化粧を落とすのは少し手間なので、そのままにしている。髪もウイッグを地毛(じげ)に編み込んでいるため、すぐには(はず)せない。

 これにより、どう見ても『男装の麗人』といった雰囲気になっていた。宝塚歌劇団の男役といった感じだろうか。


 馬車から着替え終わったアリエルが降りてきた。それを見たラルフがなぜか(うめ)いていた。

「お前、男なんだよな?その格好のほうが、さっきのスカート姿より破壊力があるぜ」

 『男の()』という特殊性癖の分野になるのかもしれない。…って、アリエルの本来の性別は女性である。まじでややこしい。


 …


 王城内では怒号や悲鳴がそこかしこで上がっていた。

 建物内に侵入した革命軍が殺戮(さつりく)を開始したのだろう。なお、王城を監視していた斥候部隊によれば、牢獄方面へ向かった騎士団は300~400名ほどだったらしい。であれば、ここに残っている騎士の数はそれほど多くはないだろう。

 個々の力では太刀打ちできなくても集団であれば対抗できる。それは『殺戮(さつりく)の舞踏会』事件でも証明されていた。


 騎士たちも奮戦していたようだが、次々と押し寄せる革命軍の数の暴力に徐々に屈し始めていた。なお、剣を捨てて命乞いをする騎士もいたようだが、興奮状態にある民衆が彼らを見逃すことはなかった。つまりは皆殺しである。

 アリエルと護衛のラルフは悠々と王城内を歩き、王族がいると思われる最上階を目指していた。ちなみに、王太子妃教育で頻繁に訪れていたため、アリエルにとってこの城は自分の庭のようなもの…。そう、王城内部の複雑な構造がアリエルを迷わせることはなかったのである。


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