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028 パリ・コミューン作戦

 アリエルは久しぶりに反社会的集団の一つ『エドワーグ・ファミリー』の拠点を訪れていた。

 豪華なソファに深々と座る彼女の目の前には、ファミリーの元締めがちょこんと浅く腰掛けている。この二人の上下関係がよく分かる情景(シーン)であった。

「お久しぶりでごぜぇやす。どうしやした?なんだか寂しそうなお顔ですぜ」

 アリエル本人は自覚していなかったが、なにしろ血の繋がった家族全員を自らの手で殺したのだ(兄と両親の三人)。罪悪感などは全く無いものの、多少は感傷的な気分になっていたのかもしれない。


「別にぃ~。まぁ、最大の復讐相手がいなくなって気が抜けたのかもね。それより牢獄と王城の襲撃計画はどうなってる?」

 そう、まだ復讐相手は残っているのだ。元・婚約者である王太子殿下、その浮気相手の平民女性、馬鹿息子(王太子)を(とが)めもしない馬鹿親(国王と王妃)などなど。

「へぇ、三大ファミリーの残り二つの協力も得られやした。民衆の中の革命指導者とも連携しつつ、計画は着々と進行しておりやす。とりあえず決行日は来月の中旬ってところでごぜぇやす」

「そっか、期待してるよ。あ、そうそう。お(かみ)にチクったりする裏切者がもしも出そうになったら、必ず粛清するようにね。秘密厳守がこの計画のキモだよ」

 そう、この襲撃は(強襲ではなく)奇襲でなければならないのだ。民の犠牲を少なくするためにも、決して王宮側に計画が漏れてはならないのである。


 もっとも、アリエルとしては『民の犠牲』などどうでも良いと思っていた。彼女の懸念はただ一つ。もしも計画が漏れてしまった場合、王族の奴らが国外逃亡を図るかもしれないということだ。

 王族は確実にその全てを殺す。族滅だ。アリエルはそう固く決意していたのである。


「あ、そうだ。作戦名を決めておかなくちゃね。牢獄襲撃作戦を『バスティーユ作戦』、王城襲撃作戦を『ロベスピエール作戦』としよう。二つ合わせて『パリ・コミューン作戦』と総称するから、今後はそれで頼むよ」

 『バスティーユ』はバスティーユ牢獄のことで、『ロベスピエール』は政治家マクシミリアン・ロベスピエールから取った。『パリ・コミューン』とは世界初の労働者自治政府であるパリ政府のことである。これらがアリエルの前世知識から付けられた作戦名であるのは言うまでもない。


「す、すいやせん。なんとも聞きなれない言葉なもんで、ちっとも覚えられやせん。紙に書いちゃもらえねぇですかね?」

 なんとも締まらない話であった。


 …


 その頃、Sランク冒険者パーティー『巨大魚(バハムート)』のメンバーは、宿屋の一階にある食堂で酒を飲みながらカイルのことを追悼していた。

 カイルの死体を発見したあと、しばらくは呆然としていた彼らだったが、(われ)に返るや(いな)やすぐに警吏(けいり)へ通報したのである。現場検証のあとすぐに死体は搬送され、現在は死因の特定を行っている段階らしい。

「あいつがあんな風に殺されるなんて、今でも信じられねぇ。だが、犯人は女に違いねぇ。警吏の知り合いに聞いたんだが、部屋の鍵がこじ開けられた形跡なんて無かったらしいぜ」

「なるほど。リーダー自ら部屋の中へ招き入れたとなれば、相手は女性かもしれないね」

 盾役(タンク)であるロブの発言に対し、斥候職のエルビスが相槌を打っていた。

 エルビスは思った。犯人はあのエルって少年じゃないかもしれない。女好きのカイルが少年を相手にするような性癖(ショタコン)に変わった?そんなことは到底信じられなかったからだ。


「ねぇ、それよりもこれからどうする?うちらのパーティー、アタッカーがいなくなっちゃったんだけどぉ」

 魔法使いであるウルドが()だるげな口調で発言した。事件直後の彼女は狂人のような状態になっていたのだが、今はかなり落ち着いている。心の整理がついたのだろう。

 『治癒』の能力(ギフト)を持つケイトが首を(かし)げながら言った。

「リーダー兼アタッカーはエルビス兄さんで良いと思いますよ。兄さんだってカイルさんと同じくらいの攻撃力を持ってますから」

 ケイトは治癒師(ヒーラー)であり、エルビスの実妹(じつまい)でもある。彼女は()しくもアリエルの兄と同じ能力を持っていた。つまり、対象者を治癒する(自然治癒力を高める)という能力である。


 ウルドが不思議そうな顔で質問した。

「あれ?エルの持つ能力(ギフト)って何だっけ?たしか『索敵』じゃなかった?」

「ああ、敵意を(いだ)いた者の接近を察知できるという便利な能力だ。だが、実はもう一つ特殊な能力を持ってるんだよ」


 妹のケイトがドヤ顔で胸を張った。胸の豊かな双丘が強調されている。

「兄さんのもう一つの能力は『身体強化』ですよ。例えば、そうですね…。ロブさんと腕相撲でもしてみたら分かりますよ」

 (いか)つい風貌のロブは、優男(やさおとこ)のエルビスよりも頭一つ分は身長が高い。横幅については比ぶべくもない。

 どう見ても腕相撲では勝負にならないだろう。体格が違い過ぎる。


「おいおい、なめてんのか?新リーダーはどう考えても俺だろうよ。腕相撲?別に良いぜ。勝ったほうがリーダーってことにしようや」

「うーん、僕はリーダーって(うつわ)じゃないよ。ロブが新リーダーで良いと思う。あ、ただしアタッカーとして役に立てるとは思うけどね」

 怖気(おじけ)づいたとでも思ったのだろう。エルビスのことを見るロブの目が(さげす)むようなものになった。好意を寄せるウルドに良い所を見せたかったのかもしれない。

 ちなみに、エルビスはアリエルと同様、転生者である。つまり、チート野郎だ。

 彼の持つ『身体強化』がどれほどの威力を発揮するのかは、彼にしか分からない。ただ、悪のアリエルの前に最後まで立ちはだかるのは、善のエルビスということになりそうである。


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